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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
519/547

before ever (5)

続きです。

 あれから数日。

私はあの日に浴びた雨で風邪をひいていた。


「なんか・・・・・・雨に降られる度風邪ひいてないかニャ?」


「あー・・・・・・始業式逃した・・・・・・」


 ユノの一件以来、目立った問題はなく日々は過ぎて行った。

予想外に風邪が長引いてるのは、問題と言えば問題か・・・・・・。


 私が風邪をひいている間に、夏休みは終わりを迎えてしまった。

まだやりたいことあったんだけどな・・・・・・。


「あー・・・・・・」


 布団に潜って、カーテンの隙間から差し込む光に目を細める。

息苦しくて鼻の奥が痛かった。


「今日は始業式だけで午前終わりだから・・・・・・じきみんな帰ってくるニャ。たぶん誰かお見舞いに来ると思うけど・・・・・・」


 丁度ゴローが言ったタイミングで、おばあちゃんの声が聞こえてくる。


「きららー。お友達来たよ。お見舞い。・・・・・・ごめんね、寝てるかも」


 その声を聞いて、布団の中で少し伸びをした。


「うー・・・・・・」


 部屋に足音が近づいて来る。

その足音は重なっていて、一人のものじゃない。


「いや・・・・・・お見舞いの人数じゃないでしょ・・・・・・」


「そうだニャ・・・・・・」


 ゴローと顔を見合わせて、笑う。

部屋にやって来たのは、さくらとどらこちゃんにみこちゃん。

すなわちいつもの全員だ。


「あ、起きてんじゃん」


「うっすー、大丈夫かぁ?」


「おはようございます」


 みんなの声が頭に響く。

頭痛は悪化しそうだけど、でもみんなが来たのは嬉しかった。


「あ、てかきらら・・・・・・あんた、私に預けた宿題、理科の問題集入ってなかったわよ?」


「え、何それ・・・・・・知らない」


「あんた・・・・・・無くしたの・・・・・・?」


 新学期そうそうよくない知らせ。

存在ごと記憶にない問題集。

探せば見つかるだろうか・・・・・・。


「まぁ・・・・・・まだギリギリセーフっぽそうだから、今の内に見つけときなさいよ・・・・・・」


「うへぇ・・・・・・」


 さくらからはそれくらいみたいだ。

もっと病人を労ってくれよ。

まったく。


 どらこちゃんとみこちゃんはと言うと、さっきから携帯の画面を覗き込んでいる。


「ちょっとどらこ・・・・・・さっきから言ってるけど、それ私の携帯だからね。人の携帯でネットニュース見ないでよ・・・・・・」


「悪りぃ悪りぃ・・・・・・でもよ・・・・・・」


 さくらに文句を言われて、どらこちゃんが頭を掻く。


「何見てんの・・・・・・?」


「「ほら・・・・・・」」


 尋ねると、どらこちゃんとみこちゃんが声を重ねて携帯の画面をこちらへ向けた。


 それをゴローと一緒に覗き込む。


「「あ」」


 さくらの言う通り、それはネットニュースで「アイドルのファンたちが“聖地”に押し寄せている」という内容なのだが・・・・・・問題はそこにある画像だった。


「うっわ、これ・・・・・・アリスじゃん」


 ビルの広告映像にカメラを向ける人の群れ。

その中には明らかにアリスの姿がある。

あの格好じゃ見間違えるはずもない。


「しかし・・・・・・ねぇ?」


「どうしたニャ・・・・・・?」


「ミラクル、相変わらずすごいね・・・・・・」


 


「おーい、アリス・・・・・・あんまはしゃがないでくれ、はぐれるぞ・・・・・・?」


「もう、スバルももっと喜びなよ! 自分がプロデュースしたアイドルでしょ!」


 あの事件の後、ミラクルの魔法は解けた。

にも関わらず・・・・・・その人気は衰えるどころかむしろ爆発した。


 因みにあの事件は、一体のアンキラサウルスが街を蹂躙したということにして処理した。

あの場所に居た全員でそいつに立ち向かって、なんとか勝利を掴み取ったというシナリオだ。


 ライブに来た観客たちにも僕が記憶処理を施しておいたが、一体どれくらい効果があるか分からない。

何せあれだけの経験をしたんだ、その記憶の封印は容易じゃない。


「ま、大丈夫か」


 ユノを含めた僕らの奮闘のおかげで、今までにない強大なアンキラサウルスを退けた。

怪我人はめちゃくちゃ出たが、死人はゼロ。

まずまずといったところだ。


 さて、今頃二人は・・・・・・。




 図書館帰り、ボーっとしながら病院へ向かっていたら怪物に襲われた。

確かアンキラサウルスとかいうやつだ。


 私が前に見たクラゲみたいなやつとはまるで違う。

虫みたいなやつだった。


 もう私にあの赤い宝石は無いし、寝不足で反応が遅れてしまった。


 人気の無い通りで、周りには誰もいない。

ここで、死ぬわけにはいかないのに。


「奇跡が、奇跡があれば・・・・・・」


 たくさん調べて、最終的にたどり着いた結論。

もう一度、あの力を。

今ならちゃんとコントロール出来る。

のに・・・・・・。


 アンキラサウルスの殺意は無慈悲に私の命を刈り取ろうとする。

咄嗟に防御姿勢をとるが、怪物の前じゃなんの意味もない。


 体が両断される。

上半身と下半身がずれ、ぐちゃりと地面に崩れた。

私の目の前で。

アンキラサウルスが。


「え・・・・・・」


 訪れた、奇跡。

私が求めたもの。


 乾いた目をした少年が、私とアンキラサウルスの間に割って入る。

その手には、まるで機械みたいな大剣。

艶の無い黒い質感が、重々しく感じられた。


 すぐにどこかへ去ろうとする少年を呼び止める。


「あの・・・・・・あなたは?」


 少年は興味無さそうに振り向くが、私の目を見て無いか合点がいったように表情を変えた。


「俺は・・・・・・少年って呼ばれてる。お前、俺と同じ目をしてる。名前は・・・・・・?」


「私は・・・・・・私は、葉月。ねぇ、お願い・・・・・・!」


 少年は私の言葉を最後まで聞かずに頷く。


「いいだろう。だが、ここから先はお前次第だ。もう要らないだろうしな」


 降り積もる無力感を吹き飛ばす。

突然現れた少年は、私にその黒い大剣を手渡した。




「ごめんなさい! 私たちが例のバール事件の犯人です!」


 昼過ぎの病室。

どれだけの人を襲ったか、今となっては全て分からない。

けど有耶無耶には出来ない。


 だから、こうして出来ることからしていくのだ。

スバルちゃんに教えてもらった病院。

ここに私たちが襲った「葉月ルーペ」と「鉈手ココ」が頻繁に出入りすることを教えてもらったのだ。


「ほら・・・・・・! もう、ユノも! あーたーまさーげーて!」


 車椅子に乗るユノの頭を後ろから押して、無理矢理頭を下げさせる。

私たちの正面のベッドに寝る人が、困った顔で笑った。


「もう・・・・・・こんなところでいじっぱりしなくても・・・・・・」


「・・・・・・」


 ユノは何も言わない。

もともと口数は多くないけど、今は頑なに口を開かないという意思を感じる。


「いや、まぁ・・・・・・いいよ。私自身覚えてないし。てかもう退院したし」


 正面のベッドに寄りかかるように顎を乗せた少女・・・・・・鉈手ココがそう言う。

その言葉にもう一度頭を下げた。


「・・・・・・にしてもまさかアイドルが来るとはね・・・・・・。驚き侍」


「え・・・・・・で、あなたは誰ですか? 葉月さんじゃないんですよね・・・・・・」


「あれ? 結構塩対応? 私は、エリク。しがない病人さ・・・・・・」


「あ、はい・・・・・・」


 塩対応とかじゃなくて、普通に反応に困る。

答え方が分かんない。

ココとの仲はいいみたいだけど、本当に誰なんだ・・・・・・? 


 ただなんとなく雰囲気がスバルちゃんに似てて・・・・・・それでつい扱いもそんな感じになってしまう。

向こうも向こうで、なんだかいいかげんに扱われるのに慣れてる感じあるし・・・・・・。


 伝えたいことは伝えられた。

全部が全部こうはいかないだろうけど、今回は許してくれた。

葉月ルーペもその内来るみたいなので、今は待機だ。


 それまですることもないので、ユノの車椅子を押してエレベーターに向かう。


 生まれつき足が悪くて、歩くことが出来なかったユノ。

言うなれば病院組だ。


 ユノとこうして病院を歩くのは久しぶりなことで、だから少しノスタルジーというか、そういうのが刺激されたんだと思う。


 昔、ちょっとしたいたずら心で病院の屋上に行ったことがある。

色々検査とかが終わった後の時間は、子供たちには退屈すぎたんだ。


 病院は違うけど、それでも体験は同じ。

もう一度、ユノを押して屋上へ向かう。


 ちょっと変な緊張したけど、でも無事に辿り着けた。


「ミラ・・・・・・?」


 ユノが不思議そうに私の顔を見上げる。

私は自然に頬が震えるように笑みが滲んでしまっていた。


「懐かしいでしょ。前みたいでさ」


「ミラ、場所違う。景色とか、全然・・・・・・」


 ユノの言う通り、屋上から一望できる景色は全然違う。

全体的に見える建物が古い感じだ。


 でも、この構図は同じ。

私たちは、またあの頃の位置に戻ってこられたのだ。

あそこから。


「ユノって、結構子どもだよね。なんか、ちょっと思い出した」


「・・・・・・」


「ここから。ここからだよ、ユノ。あの頃みたいに、いや・・・・・・あの頃以上に! ユノに、私たちに、より良い未来が来ますように!」


「・・・・・・。何だい、それは・・・・・・」


 顔を見上わせる。

手を繋ぐ。


 屋上を風が通り過ぎて、どこからか町の匂いを運んで来る。


「「ぷっ・・・・・・はははは!」」


 何がおかしかったのか分からない。

どっちが先に吹き出したのかも分からない。


 けど、なんだか嬉しくて。

今までに無いくらい二人で思い切り笑った。


 この握りしめた手のひら。

お互いの温もりが、私たちにとっての小さな奇跡だ。


 私たちはここに居る。

救世主じゃない。

私も、今はアイドルモードじゃない。


 ただの子ども、二人。

先の見えない未来に、でもどうしてか明るいものを感じて・・・・・・。

同じ景色を見つめて、笑った。

続きます。

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