be forever (4)
続きです。
目の前できららが崩れる。
その胸の傷口から、向こう側が見える。
見たことのない量の血液が流れ出し、ステージを汚した。
風に乗ってくる匂いが、目の前の光景が決して嘘ではないと言っている。
あの時きららは確かにユノにとどめをさした。
・・・・・・のに、次の瞬間にはその胸を貫かれていた。
血は止まらない。
きららは倒れてから全く動かない。
それがひどく不気味で、そして絶望的だった。
広がる光景に血の気が引く。
頭が冷えていく。
視野が狭まり、そしてその中心にはユノを捉える。
「あんた・・・・・・何、やってんのよ・・・・・・」
訳もわからず涙が溢れる。
状況に理解と感情が追いつかない。
無言でみこが駆け出す。
みこは一直線で倒れたきららの元へ向かっていった。
ゴローがそれに道をあけ渡す。
「肉体を再構築すれば・・・・・・きっと・・・・・・!」
みこは血だまりに膝をついて、きららの胸に手を当てる。
その指先は何かを探り、そして血に濡れてそれが何であるのか全く分からない組織を掴んだ。
「こ、これは・・・・・・どこに・・・・・・」
きららのパーツを押し込んで、溢れる血を止めようとする。
「何が・・・・・・どうすれば・・・・・・!」
みこの目に涙が浮かぶ。
それを血まみれの手で拭う。
それでも止めどなく溢れてくる。
「なんで・・・・・・こんな・・・・・・」
震えながら、それでもなんとかしようとみこは服を血で汚していく。
その側に、スバルがゆっくりと歩いて行った。
「・・・・・・」
状態を確認して、そしてスバルは何も言わない。
いや、私たちと同じように何も言うことが出来ない。
「何やってんのよ・・・・・・!」
叫ぶ。
気がついたらユノの胸ぐらに掴みかかっていた。
それで何が解決する?
私に今何が出来る?
そんなことにも頭が回らないまま、ユノを殴る。
拳をその顔に叩きつける。
しかしその拳は不可視の力に弾かれてしまった。
私の体も、その勢いに吹き飛ばされる。
その力がなんなのか、感覚で理解する。
重力、きららと同質の力だ。
ユノは私に掴まれた衣服の皺を直す。
そして私を見下ろした。
「確かに・・・・・・あまりいい気分ではないな。最悪の温度と感触だ」
べっとりと血のついた手のひらを、見つめて言う。
「お前・・・・・・お前なぁ!」
平然とした様子のユノに、どらこが吠える。
その拳に炎が灯るが、その瞬間からその拳は凍りついてしまった。
それでも構わず、尖った氷でユノを突き刺そうと飛びかかる。
しかしどらこが辿る結末は私と同じだった。
「仕方のないことだよ・・・・・・。私だって形式通りに済ませたかったさ。けれども最後の一人だ。殺さないという形式に則る必要は無い。一人の犠牲で、多くが救われるんだ」
淡々と、ユノは語る。
きららの命を踏みにじって語る。
「人は世界の変化に追いつけなかった。進化出来なかったんだ。だから世界を恐れ、救いを求め、間違い続けた。スバル・・・・・・君なら分かるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「私はあいつらの神を殺す。世界はあいつらを救わない。その真実を教える。間違いを正すんだ! やっと。やっとなんだ・・・・・・! 人々は気づく。非情な神の代わりに、ミラが光を与える。そうすれば戻れるんだ。みんな前に進める。進化の道を進める!」
ユノの声色に、感情が滲む。
溜め込んだ熱が噴き出す。
「私はもう一度あいつらの救世主になり、そしてあいつらの信仰を否定するんだ。全ての人のために・・・・・・!!」
空に伸ばした手が、何かを掴む。
いや、ユノはもうそれを掴み取っているのだろう。
ユノは元の調子に戻って、冷たい声で言う。
「君たちの理解は要らない。世界は変わる。そのために、君たちも少し眠っているといい。君たちにも、進化の機会を与えよう」
ユノが指を鳴らす。
その瞬間、目に見えない重さが私たちにのしかかった。
「ふっ・・・・・・」
胸が圧迫されて、息が漏れる。
呼吸が出来ない程に強く押し付けられる。
その重力に地球自体が抗っているのか、まるで地震みたいに揺れる。
全ては強制的に地に伏し、ユノだけが全てから解放されたように空へ登っていく。
その背には、光の翼。
まるで天使だ。
見に纏う光を振りまいて、月のように輝く。
そしてユノが発生させた重力は、本物の月さえ引き寄せていた。
雲は散り、海上のプレートは砕ける。
風が吹き荒れるが、重力の所為で木々がざわめくことはない。
徐々に近づいてくる月が、地球に巨大な影を落とす。
空に蓋をする。
その灰色の表面が、肉眼ではっきりと分かる。
その質感、その質量、容易く伝わってくる。
波が喧しい音を立てる。
真昼の月は、輝かない。
バランスの壊れた世界を、吹き荒れる風を、暴れる波を、ユノの静かな声が切り裂く。
その手には水晶で形作られた弓が握られていた。
「・・・・・・天穿散々矢・百華」
引き絞った弓から放たれる光の筋。
それは真っ直ぐに空に登り、そして月を穿った。
発生した衝撃が、空を駆ける。
それが空を見たことの無い色に塗り替えていく。
十字の巨大な傷が刻まれた月は、血液のようにその破片を吐き出す。
焼けた空に、石片が舞う。
それはやがて歪な円形に並び、ユノの図上に巨大な天使の輪を作り上げた。
「何か・・・・・・来る・・・・・・!」
スバルのうめくような声。
それと同時に、月を穿ったエネルギーの余波が雨のように降り注ぐ。
大地を焼き払う。
それは観客や私たちの区別なく命中し、そして当たった者から水晶に閉じ込めていった。
「あ・・・・・・」
私の視界で、きららが水晶に飲まれる。
近くのみこも、ゴローも・・・・・・。
私は、それを見ていることしか出来ない。
ただ同じ結末が訪れるのを待つしか無い。
そして・・・・・・。
降り注ぐ光が私を焼く。
その熱に意識が燃やされる前に、私の視界は複雑な色合いをした水晶に埋め尽くされた。
続きます。




