渦巻き絵本(10)
続きです。
ドラゴンの背中の上、騎士の腰にしがみつきます。
すごい速度で、夜空の星が流れていきました。
雲を切って進むドラゴンが目指すのは、虚ろの魔女が住むと言われる館でした。
「やったニャ!やっぱりキミは悪い魔女なんかじゃなかったニャ!」
「あまり喋らない方が良いであります。舌を噛むでありまっ......!噛んだであります......」
騎士は甲冑の上から口を押さえていました。
「でもなんで虚ろの魔女の居場所が......?」
「私ははぐれてしまったのでありましたが、実は他の竜騎士たちが居場所を突き止めて剣を交えていたのであります。先程私が町へ帰ったとき、竜騎士たちは全滅したと聞きました」
「ぜ、全滅ニャ!?」
「300人は居ましたが、歯が立たなかったようであります」
「さ、さんびゃく......」
魔女は指を折って数えますが、当然足りません。
「つまり......600の命が潰えたってことかニャ......」
竜騎士が竜に跨っているのは当然のことです。
300人の竜騎士が全滅するというのは、そのまま600の命が消えたことを意味します。
「グルゥ......」
ドラゴンが悲しそうに唸ります。
「みんな、この子の家族のようなものでした......。この子は生まれたときからずっと彼らと一緒でありましたから」
竜騎士は手綱を強く握って、苦しそうに言うのでした。
魔女は虚ろの魔女が許せないと感じましたが、同時に弓の魔女が言っていた魔女の苦しみというのも思い出していました。
「私は虚ろの魔女を許すのかな......」
魔女自身それは分かりませんでした。
けれども、自分が沢山の人を殺めたかもしれないと思ったときの苦しみはよく覚えています。
「私は虚ろの魔女を許さないであります。あなたがなんと言おうと」
竜騎士の言葉には決意が滲んでいました。
きっと多くの人が、彼女を許さないのでしょう。
ならばせめて、私は許そうか......と魔女はそう思いました。
「ボクはキミについていくニャ。キミがなんと言おうと」
クロはちょっと格好つけて言います。
そして少し照れくさそうに笑いました。
「ねぇ?館まではどのくらい?」
魔女は竜の背中に座りなおしました。
あまり慣れていないものですから、少しお尻が痛くなってしまったのです。
「館までひとっ飛びであります!」
「そんなに近いのかニャ!?」
「いえ、遠くであります。竜のひとっ飛びは渡り鳥を遥かに超えるであります」
そう言う竜騎士は、少し自慢気です。
ドラゴンも嬉しそうに一層羽を力強く動かします。
「結局どれくらいで着くの......?」
「ひとっ飛びであります!」
星の海だった空が白み出します。
正面にそびえる山の稜線に沿って、太陽の光が溢れ出します。
それは筋となって山肌に模様を描きました。
登り出した太陽その真ん中には、とんがった建物の影。
「あれが虚ろの魔女の館であります」
ここからではまだアリンコ程の大きさです。
魔女はまだもう少しかかりそうだなと、一人お尻をさすりました。
あれからどれくらい経ったでしょうか。魔女たちは今館の前までやって来ています。
太陽は空の天辺でギラギラ輝いていました。
竜騎士が躊躇なく館の扉を押します。
その中の暗がりには人影がありました。
竜騎士が半開きだった扉を、恐る恐る全開にします。
そして......。
「......そして、姿を現したのは魔女と全く同じ姿の魔女でした......」
続きます。




