ミラクルステージ(23)
続きです。
私が突きつけた刃。
それをミラクルは自らの手で握りしめて止める。
握られていた太刀は空気に溶けていった。
「確かに・・・・・・正直もう全然余裕無い。ああ、負けたんだなってもう思ってる」
ミラクルは更にきつく刀身を握りしめる。
その力強さは、その剣を向ける私にも伝わってきた。
「じゃあとっととこんなこと止めて、そして止めさせなさい。進化だかなんだか知らないけど、あんたたちは犠牲を出しすぎよ」
ミラクルはさくらの言葉をしっかり最後まで聞く。
そしてその上で首を横に振った。
「いや、ダメだよ。これで諦めることなんて出来ない。みんなからの気持ちも受け取ったし、しっかりそれに応えないと」
ミラクルは私の刃を押しのける。
その力は決して強くはないが、しかし私は抗わずに刀身を下ろした。
どらこちゃんがため息を吐く。
「みんなの気持ちだって? その気持ち、今もまだ裏切り続けてるじゃねぇかよ。あんたを思って分け与えてくれた力だ。それなのにお前らにとっちゃ必要な犠牲でしかない。その犠牲で一体どれ程のものが得られるのか分からんが、こんな多くの人の生活を奪って、裏切って、そうまでして求める程価値のあるものなんてこの世に無いよ」
「違うよ。ただの必要な犠牲なんかじゃない。最終的には、みんなが救われる。それに、命を奪うわけじゃないでしょ? 全てが終われば、全てを取り戻して・・・・・・そして誰にでも平等に私の歌が降り注ぐ。より良い未来を目指す力が、希望が世界に溢れる。ユノみたいな思いをしてる子も居なくなって、そして・・・・・・私がそんな子達の代わりの偶像になる。それは誰もが望むことのはずでしょ?」
ミラクルは空を見上げる。
空は広くて、高くて、静かで・・・・・・私たちが地上で何をしていようとそれをただ見下ろしている。
「間違いだらけなんだ。変えなくちゃいけないんだ、私たちで・・・・・・!」
ミラクルはそんな空を、ただ眺めているだけの世界を憎む。
ミラクルの見たもの、ミラクルの知るユノの過去は私も見ている。
どこかの誰かが、あれと同じように苦しんでいる。
それでも世界は周るだけで助けてくれない。
孤立無援で、希望なんてなくて・・・・・・しかし小さな奇跡が、進化がそれを変えられる。
ユノの過去と、そして陽子ちゃんの今を知っていれば分からない話じゃなかった。
「やっと・・・・・・やっとだよ。やっと見えたよ。あなたたちの考え」
普段は私が一番最後だけれど、今回ばかりは察しの悪い私が最初に気づく。
私は世界を変えようだとか、救おうだとか、そんなことを考えたことはない。
むしろテスト前とかに破滅を願うくらいだ。
きっとそういう意思を持つことは、とてもエネルギーの要ることで、だから普通の人はその願いに手を伸ばすことなんてしないし出来ない。
でもユノたちは違った。
当事者として奪われ、その苦しみを味わい、変えようとした。
スバルも世界を救うと豪語していたし、きっと二人のそういう願いについては理解を示していたのだ。
しかしそこに割り込むのがさっきのどらこちゃんの言葉。
ミラクルたちは、たぶん自分たち自身も含めて、犠牲にしすぎた。
大義の前に、そこにいる人々を、思いを蔑ろにしすぎたのだ。
だから・・・・・・。
「あなたたちについてはよく分かった。それでも、これが私たちの答えだよ」
下ろした剣を再び突きつける。
ミラクルはその切先を見て、ゆっくりと息を吐いた。
それで余分なものが抜けていく。
その表情には清々しさのようなものさえあった。
「私たちに何が出来るか分からない。どうしたらいいのか分からない。子どもだもん。だからどうしても犠牲が必要だってことも分からない! 犠牲はつき物だなんて嘘だ。私はここであなたを負かす。それであなたたちもまとめて、ミラクルの言うより良い未来に連れて行って見せる!」
ミラクルは私の言葉にやっと首を縦に振る。
「分かったよ。ここが、この場所が分かれ道なんだね。・・・・・・でも、私たちは交わらない。私はここで、あなたたちを負かす・・・・・・!」
ぼろぼろの体でミラクルは胸を張る。
同じ光を追って、違う道を行く。
その決意がぶつかり合う。
その思いはミラクルの方が強くて、ちゃんとしてて、私みたいに他人頼りじゃない。
けれども、私は私を支えてくれる人たちに恵まれていた。
私たちが世界を救う・・・・・・スペクターズなのだ。
続きます。




