ミラクルステージ(7)
続きです。
ゆったりと、自らの存在の偉大さを知らしめるように巨大な鯨は海上で踊る。
「な、何あれぇ!?」
もう何でもありだ。
わざわざ驚くのがバカバカしいくらいだが、それでも驚かずにはいられない。
規模が想像と違いすぎる。
「ほんと・・・・・・なんだよアレ・・・・・・」
流石のどらこちゃんでも鯨の飛行船を前に言葉を失う。
そんなとんでもないものを作り上げた本人は鯨の晴れ舞台を見て満足気にしていた。
だけどアレが今私たちの敵に回っているというのを忘れないでほしい。
しばらくその姿を見せつけていた鯨は、やがて頭をこちら側に向けてプレート上に静止する。
散らされた青い光が、プレートにぶつかって砂埃みたいに舞い上がった。
観客はおろか、私たちの視線もその鯨に釘付けになる。
すると当然弾けた光が、鯨のその白い体表を照らした。
飛び散った光に次ぐ音。
その音に被さるようにまた光が弾ける。
主役の入場に、花火が打ち上がったのだ。
視点は観客とは異なれど、その光景に同じように魅せられてしまう。
認めたくはないが・・・・・・。
「綺麗・・・・・・」
海面に散りばめられたその色彩は、美しかった。
花火の炸裂する音をBGMに、鯨がゆっくりと口を開ける。
するとそこから閉じ込められていた光が溢れて来た。
その光を完全に解き放つ為に、鯨は更なる変貌を遂げる。
なんとその頭部の中央に縦に分割線が走ったのだ。
その分割線からも、光が筋になって溢れて来る。
その筋を徐々に帯に変えながら、鯨という生物に大して冒涜的に開いていった。
効果音をつけるなら「ぱふぁ」なのだろうか。
四分割された頭部は、微調整しながらステージを形作っていく。
上顎は照明に、下顎は縦軸で90度回転して扇形のステージになった。
とうとう解き放たれた光。
その過剰な光の中に、一人の少女のシルエットが見える。
「みんなに・・・・・・もっといい未来が来ますように・・・・・・」
瞬間、仮想モニターのスピーカーから少女の囁くような声が響いた。
「来たぁ!!」
窓越しに届いたその声は、ただでさえくぐもっているというのにヘリ内ではアリスの歓声に遮られてしまった。
「ちょっとあんた、うるさいわよ・・・・・・」
さくらがそれを咎めると、一応は静かになる。
でも興奮は冷め切らない様子だ。
過剰な光の中に佇む少女が、ポーズをとる。
そして海上に走る電流。
それに応えて、プレートが光を放ち、大砲ロボットも放射状の花火を打ち出した。
その噴き出る炎に、ステージの照明が一瞬暗転する。
そのすぐ後に、適切な明るさで再点灯された。
ステージ中央の少女、ミラクルはポーズをとったまま。
集まった観客の湧き上がる声が、このヘリコプターまで届いていた。
「なんか・・・・・・私たちコレ台無しにしちゃうんだよね・・・・・・。ちょっともったいないかも・・・・・・」
相手は悪い奴らだとして、けれどもそう思ってしまう。
アイドルなんてよく分からなかったけど、確かに私が客としてこの場所に居たら楽しんでいたに違いない。
「まぁ仕方ないさ。それに、向こう様もライブするつもりで来てない」
「スバル・・・・・・」
そうは言っているけど、それでもスバルがどこか残念そうな顔をしているのを見逃さなかった。
スバルは首を横に振って何かを振り払う。
そして窓に背を向けて、中央のテーブルに向き直った。
みんなも空気が切り替わるのを感じて、窓から視線を外す。
特にアリスは名残惜しそうだった。
スバルがテーブルに手をついて立ち上がる。
「さて、僕らもそろそろ時間だ」
この場所に、戦いに相応しい格好をしたものは誰もいない。
場所の雰囲気も、とても戦場のものには思えない。
もしここで私たちがずっと待機していれば、何も起こらず、普通にライブが進めばいいのに。
私たちですらそう思ってるんだ。
一体どんな気持ちでミラクルはあそこに立っているんだか・・・・・・。
会場に音楽が湧き起こる。
それを歓声が包む。
その様子を見て、きっとミラクルはどんな気持ちだとしても笑顔でいるのだろうと思った。
続きます。




