ミラクルステージ(4)
続きです。
改めて落ち着いてヘリコプターの内側を眺めている。
といっても雲と同じ、あるいはそれ以上の高さに居ることを考えるととても落ち着いてはいられないけれど。
ヘリコプターは、ヘリコプターと呼ぶのが間違いなんじゃないかと思うほどに広かった。
詳しくはないが、ヘリコプターは狭いイメージだし実際狭いだろう。
自動運転のためか操縦席に必要なものの一切が省かれていて、私たちの座るスペースに当てられている。
仮に操縦スペースがあったとしても十分広いだろう。
両サイドにある長椅子の間、機内の中央にはテーブルまで設置されていた。
輸送用にしたって随分豪華だ。
空に居て落ち着かないのと、単純に貴重な体験への興味でなかなか視線が定まらない。
あちこちを見回してしまう。
そうやってキョロキョロしていると、あの基盤ピアノのようにテーブルの縁にロゴが刻まれているのをみつけた。
「あ・・・・・・」
しかしそこに刻まれているのは、あの漢字四文字ではない。
英語の綴り。
習ってないけど、たぶん読み方はこうだ。
「スペクターズ・・・・・・」
スバルがユノたちに反旗を翻してから生まれた名前。
関わりは薄いけど、なんだかそれを見ると少し嬉しかった。
「ああ・・・・・・これは新しい名前が決まってから作ったやつだからね。ちゃんとスペクターズさ」
「おぉ・・・・・・」
なんだかそういうの、ちょっとテンション上がる。
私たちのスペクターズなのだ。
やっぱり刻まれる名前はこっちの方が嬉しい。
「それより!」
突然アリスがテーブルの上に手をどんと置く。
その表情は何か言いたいことがあるようだ。
そしてそれを我慢するようなアリスでもないので、すぐに話し出す。
「ヘリコプターって聞いてないよ! 髪ボサボサなんだけど!」
アリスは既にある程度自分で整えているが、確かにそうだった。
そのことにアリスは大変不満があるようで・・・・・・。
「信じらんない! せっかく綺麗にして来たのに・・・・・・」
「いや、それは・・・・・・なんと申しますか・・・・・・」
お怒りのアリスにスバルが困った顔をする。
髪が比較的短いスバルとみこちゃんは被害は少ないようだが、アリスやさくら、どらこちゃんはなかなかだ。
私はほどほどに、ゴローの毛並みも気持ち乱れて・・・・・・ないわ。
「まぁ・・・・・・そうね。実際ちょっとこれは・・・・・・」
さくらはアリスと違って落ち着いた様子だが、しかし不満は隠さない。
どらこちゃんは・・・・・・あれ、寝てる・・・・・・?
「・・・・・・もう、悪かったって・・・・・・。飛んできゃ早いだろって、これでいいやって思ったんだよ・・・・・・。まぁ空路なだけあって到着までそんなかからないけど、少し整えるくらいの時間はあるしさ・・・・・・勘弁してくれよ」
アリスはムッとした様子のままふんと鼻を鳴らす。
けれどもとりあえずは勘弁してあげるつもりみたいだ。
「まったく・・・・・・二度手間だよ! でも・・・・・・せっかくなら、じゃあちょっと遊んじゃうか」
一時的な怒りは雲の上に置き去りにして、アリスが何かを企んで笑う。
「寝てるみたいだしね・・・・・・ちょーっと可愛くしちゃおうか、服に合わせてね」
アリスに目をつけられたのは、今は浅い眠りの中のどらこちゃん。
清楚なワンピースに相応しいどらこちゃんに改造されるみたいだ。
「みこ、ちょっとその子の髪解いてくれる?」
「任せてください!」
アリスの言葉にみこちゃんはウキウキで返事をする。
まぁ、この二人だし悪いようにはしないのだろうけど・・・・・・。
「お疲れ様・・・・・・」
到着までの遊び道具になってるどらこちゃんに同情して、そして窓の外を見た。
広がるかんかんに晴れた夏の空。
夏休み終盤にこんなに夏を感じることが出来るなんて・・・・・・なんだか、いい感じだ。
気持ちのいい水色を見つめて、高い空を運ばれる。
髪はぐしゃぐしゃでも、私はヘリコプターでよかったかもと、そう思えた。
続きます。




