健康診断、そして・・・・・・(7)
続きです。
ひとまず健康診断はこれにて終了し、服もゴローも返してくれる。
結局着ることのなかったバスローブだったが、どうやらくれるみたいだ。
風呂上がりに少し涼むには丁度良さそう。
もうほとんど着替え終わっているみんなを見ながら、私もまた服に袖を通す。
服からは知らない匂いがするので、もしかしたら洗濯されてるのかもしれない。
匂いといえば・・・・・・結局体からするこの甘酸っぱい匂いはなんなのだろう。
いい匂いだし、悪いものじゃないと思うけど・・・・・・。
まだするかなと思って腕を嗅いでみると、やっぱりまだその匂いは付いている。
嗅いだことがあるような気もするが、絶妙に知らない匂い。
似てる匂いはいっぱい知ってて、だけどそのどれとも違う。
あるいはそれらの共通項にあたるものだけを抜き出したみたいな・・・・・・自分で言っててよく分かんないけどそんな感じだ。
「随分熱心に嗅いでるね。いい匂いだろ?」
「あ、いや・・・・・・えっと・・・・・・」
どうやら私の様子をいつからか見てたようで、スバルが歩み寄って来ていた。
その表情は誇らしげで、どうやらこの匂いもスバルの傑作の一つみたいだ。
「あの溶液の匂いさ。乾いてくるとこういう匂いがするんだ」
「へ、へぇ・・・・・・」
正体の分かった今、この匂いに関する興味の大部分は失ったのだが、それでもなんとなく嗅いでしまう匂いだった。
「しかしもう夏休みも終わりですね・・・・・・」
「ああ・・・・・・そうだな・・・・・・」
みこちゃんとどらこちゃんが何やら私の健康によくない話をしているのが聞こえる。
宿題も多くは片付いたとはいえ、いざ終わるってなると喪失感が大きい。
それに夏休みが終わる前にやらなきゃならないこともあるのだ。
ユノとミラクルの大収穫。
あのイベントは本当にもう夏休みの大詰めってところで行われるみたいだ。
私たちは他のみんなより宿題が一個多いことになる。
もしくは怪我して夏休み延長か・・・・・・。
・・・・・・いや、流石にもう休み以外で休むのはごめんだ。
きっちり勝たないと。
「みんな・・・・・・そろそろ着替え終わったかニャ?」
ドア越しにゴローの声が届く。
私たちがこの待合室で着替えてる間、ゴローは外に追い出されていたのだ。
というか自主的に出て行った。
「みんな、いいわよね・・・・・・?」
さくらがドアノブに手をかけて、念のための確認を取る。
みんな着替えは済んでいるし、準備万端だろう。
何故かさくらの視線が私に向いているので、みんなの代表で頷く。
そうしてさくらはドアを開き外に出て行った。
それに続いて、私も部屋を出る。
待合室を出たところで、出迎えるのはまた別の部屋だった。
「お待たせ」
「大丈夫ニャ」
どらこちゃんはみこちゃんも、次々とこちらの部屋にやって来る。
最後にスバルが来て、そしてドアを閉じた。
待合室から出た先、そこは今日この廃工場に来て最初に入った部屋だった。
スバルが咳払いをして、私たちの視線を集める。
「いやいや、とりあえずお疲れ様。今日はこれでおしまいだよ」
そうは言うがぐっすりだったし別に疲れてはいない。
ちょっとアトラクション体験後のインパクトによる疲労感のようなものが無くはないが、それもそれっぽい感覚というかその程度のものに過ぎない。
「今日はってことは・・・・・・明日も?」
「ああ、その通り。特別講師を呼んでいるから、その指導の元例のイベントに備えてもらいたい」
「特別・・・・・・講師?」
なんだか大層な響きだが、いったい何を教わるというのだろう。
とりあえず恐い人じゃなきゃいいけど・・・・・・。
「修行・・・・・・バルスちゃんですか?」
なんでそこでバルスの名前が出てくるのかは分からないが、みこちゃんが自分の推測を口にする。
それにスバルは首を横に振った。
「いや・・・・・・今回はバルスにも協力してもらうが、師匠でも講師でもないよ。特別講師については・・・・・・まぁ会ったことはないだろうし、たぶん知らないだろう。まぁ歳は同じくらいだからそう身構えなくていいさ」
同い年くらいってことは、まぁ十中八九能力者で間違いないだろう。
それ以外は・・・・・・今は推測のしようもない。
「そうですか・・・・・・。でもどんな人だかちょっと楽しみですね」
当てが外れた所為か少し残念そうだが、それでもみこちゃんの楽しみという言葉は嘘ではないみたいだった。
実際私も少し楽しみではある。
「明日か・・・・・・」
どんな人だろうかと想像を膨らませるが、スバルの紹介するような人だからまぁ変な人なのはほぼ間違いないだろう。
思えば改名戦争が始まってから会う人会う人変な人ばっかりだ。
最初の最も奇妙な出会い、ゴローと会ってから色々変わった。
「ああ、それなんだが・・・・・・」
スバルが何かを誤魔化すように頬を掻く。
適切な言葉を探しているようで、何か言いかけては口を閉じてを繰り返していた。
そして声を絞り出す。
「あー・・・・・・その、だな・・・・・・助っ人なんだが、ちょっと変わり者・・・・・・でな・・・・・・」
早速変な人が確定してしまった。
スバルから見てそうならよっぽどだ。
やや先が思いやられる。
「それで・・・・・・どうしても今日君たちに会いたいって言って聞かないんだ」
「ぁえ、今日・・・・・・!?」
あくびをしながらいいかげんに聞いていたさくらが予想外の言葉に驚く。
口が空いていた所為で発音が不安定だった。
「ま、まぁ・・・・・・前倒しになる分にはいいんじゃねぇか? 知らんけど」
これにはどらこちゃんも苦笑い。
もはや予定通りにいかないところまでが予定調和って感じすらある。
「そうそう! そうだよね、そうだよね!」
そうしたことに対するどらこちゃんのフォローに、便乗する声が乱入してくる。
「なんか・・・・・・やかましいのが来たわね・・・・・・」
そういうさくらの表現は的確。
まさしく騒音そのもののように、その助っ人は私たちのところに走って飛び込んで来た。
どっから来たんだ、いったい。
「・・・・・・!」
だがそんなことは今の私にとっては些細なことに過ぎない。
もっとそれよりずっと大きな衝撃が、私の喉を塞ぐ。
金色の髪に、青い瞳。
人形のような端正な顔立ち。
けれどもあどけない表情。
そして何よりも目を引くのは・・・・・・。
まるでウサギの耳みたいな、大きなリボン。
しばらく言葉に詰まっていたが、やっとのことでつっかえていた声を吐きだす。
「アリス・・・・・・!?」
もうびっくりしすぎて、失礼だとかそういうのを抜きにして指まで差しちゃう。
私は、この人に会ったことがある。
「そりゃ、まぁそうよね・・・・・・。この姿見れば誰でもそう思うわね・・・・・・」
これが私にとって思わぬ再会であると知らないさくらは、私のこの驚きようについていけず困惑する。
他のみんなもなんだかいまいち腑に落ちないものを感じながら、首を傾げていた。
それはアリス本人も同じようで、不思議そうに私を見てる。
じーっと見つめて・・・・・・見つめて、見つめて・・・・・・。
「近いわよ!」
さくらが怒ったところで徐々ににじり寄っていた顔を離す。
そしてアリスがニンマリと笑う。
でもって決めポーズどじゃーん!
「そう! 私は未来の超有名アイドル、アリスちゃんだよ!!」
続きます。




