秘密基地侵攻(5)
続きです。
「行こうかって・・・・・・これ、登るの?」
さくらが「なら虫除け持ってくればよかった」とボソッと呟く。
確かに目の前の山は決して高くないというか、ほとんど丘みたいなものなので数分で頂上まで行けるだろう。
しかし、その頂上に何かがあるとも思えない。
だから登るというのは少し違う・・・・・・気がする。
「いや、違うよ。麓が入り口だ」
さくらの言葉をノワールはそもそも登る必要などないと否定した。
やはり頂上には何も無いのだろう。
だからあるとすれば・・・・・・。
ノワールを先頭にして、山に向かって歩き出す。
流れる景色には本当に全く人の手が入っておらず、私と同じくらいの背の高さの草もあった。
その中に踏み入っていくものなのだから、蛇にでも噛まれそうで少し怖い。
腕を振るたびに雑草にぶつかりガサガサ音がする。
目の前をトノサマバッタが横切ると、みこちゃんがそれを目で追った。
さくらは私を盾にするように肩を掴んで影に隠れる。
確かに虫除けがあった方が良さそうだった。
「痛って・・・・・・」
「大丈夫?」
どらこちゃんは草に小さな切り傷をつけられていた。
心配していると私も見事にざっくりいかれる。
小さな傷だけれど、鋭く傷んだ。
「ああ、すまないね。草刈りなんてのもしてないから伸びっぱなしだ。私もよく切ったよ」
ノワールが懐かしむように言う。
それくらい前から秘密基地はあったということなのだろう。
そんなノワールは一人だけ長袖のパーカー。
この場所には一番適しているのかも知れなかった。
「刈ればいいじゃない・・・・・・」
さくらがワサワサ体に触れる葉っぱに顔を顰めながら愚痴るように言う。
確かにもう少し快適な方がよかった。
「いや、人の手を入れないことが重要なんだ。何せ秘密基地だ。ここに何かがあると誰かに知られたくないからね。ここは丁度地形や木に囲まれてて、おまけにこの雑草たちで視界も悪い。だけども、わりとすぐ近くに人々の生活がある。こんな鬱蒼とした場所誰も来たがらないし、このままの方が好都合なのさ」
ノワールが視界に割り込んだ草の葉を指で弾いて言う。
その言葉はもっともらしく聞こえた。
「確かにこんな場所、絶対入らないもんな・・・・・・」
「蛇が怖いニャ」
そういうゴローは草の届かない高さを飛んでいて、楽そうだ。
ずるい。
「ひっ・・・・・・」
さくらが葉っぱに付いていた青虫にビビって、避けるように飛び退く。
私の肩を掴んだままなので、体がガクッと揺れた。
この背の高い草の群れの出口を探すように首を伸ばして辺りを見回す。
どうやら山の麓までずっと続いていそうだった。
しばらく切り傷を増やしたり、ダニを見つけてぎゃーってなったり、鳥に襲われる上空のゴローを見上げたりしながら歩いていると、やっと山の麓までたどり着いた。
やっぱり麓までしっかり草の群れは続いていたが、しかし木の密度が高くなってくると次第に土が見えてくる。
木の葉が日を遮り、体感温度も少し下がった。
「ここまで来ればあそこまで酷くはない。木が増えると草は減る。そういうものだ」
ノワールのその言葉に言われてみればそうだなと納得する。
実際にそうなっているし、きっとそうなのだろう。
それはそうと最初からこちらにワープさせてくれれば良かったのに・・・・・・。
踏む土は湿っていて、ふかふかしていて、グラウンドの土とはまた違った匂いがする。
たぶん腐葉土ってやつだ。
「カブトムシ居るかな・・・・・・?」
歩きながら、地面や木の幹に視線をやる。
ついでになんとなく木の枝を拾った。
「でも夜行性なんだろ?昼間は・・・・・・昼間ってどうしてんだろうな・・・・・・」
「土の中に潜ってるんじゃないかニャ?」
ゴローとどらこちゃんも、チラチラと木を見上げる。
カブトムシとかクワガタはクヌギの木って言うイメージだけど、そもそもクヌギの木がどんなか分からなかった。
「あんたら・・・・・・こんなところに来て虫探しなんて、緊張感ないわね・・・・・・。さっさと歩きなさいよ!」
さくらが周りを警戒するようにして、私の踵を「もっと速く歩け」と蹴ってくる。
しかしこの歩くペースは先頭を行くノワールのものだから私にはどうしようもない。
微妙にゆっくりなペースで、山の周りを回るように歩いていた。
「さくらちゃんって、虫苦手なんですか?」
みこちゃんはさして虫に興味も無いようだったが、どらこちゃんを手伝うようにして、それらしい場所を確かめるように観察していた。
さくらはそれに舌を出して虫への嫌悪を露わにする。
「あんなの好きなわけ無いじゃない!気持ち悪い!」
「えー、カブトムシも?」
「ゴキブリと何が違うのよ!」
聞き返してみるが、さくらにとってはカブトムシもゴキブリも違わないみたいだった。
考えてみればゴキブリがあんなに嫌に感じるのにカブトムシはカッコいいというのも変な話だ。
おんなじ虫には変わりないのに・・・・・・。
「まぁ虫が好きかどうかは置いておいて・・・・・・私はす、いや、嫌いだ。そんな子供じみた趣味はないよ」
「いや、置いといてないじゃん・・・・・・」
ノワールが咳払いを一つ。
仕切り直しとばかりに、話を続けた。
「置いといて、だ。ここは人目につかない場所だからね。何に使われてるかも分からない。白骨死体でも出てくるかもしれないから、土を掘り返したりするのはおすすめしないよ」
「したっ・・・・・・」
死体という言葉に肩が跳ねる。
もちろんさくらは肩を掴みっぱなしだからそのまま伝わっただろう。
「冗談だ。まぁ調べたわけじゃないからあるかもしれないけどね」
その言葉を聞いて、掘り返すという行為に決別を示すように、時々地面をつついていた木の枝をそこら辺に投げ捨てた。
さくらがそれを見て面白そうにしている。
だがさくらだってもし掘り起こしてしまったらこんな顔は出来まい。
「さて。じゃあ虫探しも無駄話ももうお終いだ。入り口だよ」
やがてそう言ってノワールは立ち止まる。
一見すると先程までの景色となんら変わりはないが、一体どこに・・・・・・。
訝しむようにしている私たちをよそに、山の斜面に登るように足をかける。
しばらく何かを探すように何度もその辺りを踏んでいたが、やがてその足も止まった。
ノワールがしゃがんで、かき分けるように土に手を突っ込む。
そして観音扉を開くようにすると、その場所に穴が開いた。
ぽっかりと、まんまるい穴が山の斜面に出現したのだ。
中は暗いが、それ程深くはない。
「何だこれ?どうなってんだ?」
ノワールはどらこちゃんの質問に何てことないように答える。
「今更驚くことでもないだろ?ユノの能力で入り口が巧妙に隠されているんだ」
「え、そのユノって人の能力知ってるんですか!?」
みこちゃんが驚く。
私も同じように驚いた。
ノワールは開いた穴に飛び込んで答える。
「いや、具体的なことは分からない。ただこれもその一つであることは確かだと思う。済まないね、少しいいかげんなことを言った。さぁ・・・・・・」
穴の中へ、とノワールが促す。
意を決して、その闇の中に飛び込んだ。
みんなも特に躊躇う様子もなく一人ずつ飛び込む。
穴の底は金属で出来ていて、みんなが降りてくる度にカツンと硬い音がした。
「さて、こっちだ」
ノワールに促されて、私たち全員の視線がノワールの指す方に向く。
その先にあるのは、いかにも秘密基地って感じの機械扉。
脇にはパスワードを入力するためのものだろうか・・・・・・緑色の光を放つタッチパネルがあった。
ノワールがそれに手際よくパスワードを入力していく。
「さてさてさて・・・・・・みんな、滑り台は好きかな?」
プシューっと空気が抜けるような音がして、固く閉じていた鉄の扉が斜めにスライドする。
その先を覗いて、ノワールの言葉を理解する。
扉の先には、結構な急角度の全く突起の無い金属製の道が続いていた。
「変に減速しようとすると逆に危ないから、まぁ身を任せて滑ってくれ・・・・・・」
そう言い残して、ノワールはさっさと滑り込んでしまう。
秘密基地潜入って言うにはあまりにも軽いノリだった。
続きます。




