救世主(30)
続きです。
暗闇の中、街灯を追う。
明かりにたどり着けば、また次の明かりを目指す。
そうやって見知らね風景を歩いていた。
少し離れた場所に町灯りがあるが、その光はここまで届かない。
そしてその町灯りも知らないものだった。
芹がいつ襲われるのかは分からない。
けれども、嫌な予感が張り付いて離れなかった。
探さなければならないのに、見つけなければならないのに、自分が何処にいるのかさえ分からない。
どこに向かって歩いているのかも分からない。
「芹・・・・・・」
次の街灯にたどり着く前に、足が止まる。
「・・・・・・いや、助けるんじゃなかったの・・・・・・?助けたいんじゃなかったの?」
手を握りしめて、顔を上げる。
とにかく止まるわけにはいかないのだった。
足取りは軽くはない。
運動不足の毎日が続いていたし、元々運動が特別得意だった記憶はない。
それに・・・・・・このまま足を進めても、見つけられるのは既に息をしていない芹なんじゃないかと思うと、怖かった。
夢の記憶は鮮明に刻まれたまま、色褪せない。
その鮮血の色を思い出すたびに、息が苦しくなる。
喉を何かが塞いでしまう。
だけれども、足を止めるわけにはいかない。
ここで立ち止まっていてもどうにもならないし、何も分からない。
進めばどうにかなるかは分からなくても、進まなければどうにもならないことは分かる。
視界で前髪が揺れる。
この夏休みですっかり伸びきった前髪。
あまり顔を見られるのは好きじゃなかったけど、この前髪を切って、それを芹に見せたらどんな顔をするか。
「ま・・・・・・それは、どっちにしたって分からないことか・・・・・・」
風と一緒に、時間と幾つもの街灯が通り過ぎていく。
しかし、その流れの中に、一粒の光が迷い込んだ。
「・・・・・・これは?」
その粒子は私の手のひらにふわりと乗っかり、そして雪のように溶けていった。
その粒子は風に乗って、次から次へと私のところへ訪れる。
淡い光を放つ鱗粉のようなそれの正体はまるで分からなかった。
光の粒が、風の流れを可視化して帯のようになっている。
その帯を追って、そちら側に歩いていくと、そこには異質な少女の姿があった。
その風に揺れる髪は光の粒子と同じように白く淡く光っている。
その姿から、一目で能力者だと分かる。
だが、何故かそれ以上の存在のように感じた。
そう、まるで・・・・・・。
「天使・・・・・・」
そう形容するのが、一番な気がした。
天使の少女の肩が揺れる。
口元は柔らかな微笑みを作った。
「あなたは・・・・・・何・・・・・・?」
突然現れて、そして何も言わず佇んでいる。
全てが謎の少女だった。
私の声に、少女が澄んだ声で空気を震わせる。
「私は・・・・・・救世主。世界を救う・・・・・・」
少女がそう言った瞬間、少女の右手周辺に光の粒子が吸い寄せられる。
その様子を見て、私はその少女の謎は一つだけ解くことが出来た。
「鉄パイプ・・・・・・」
集った光は鉄パイプを形作る。
その鈍色の滑らかな曲線が、街灯の明かりを鈍く跳ね返した。
続きます。




