救世主(22)
続きです。
降り積もるのは、小さなものだけ。
夏は変わらず暑くって、眩しかった。
のぼせたような、そんな気持ちで、ただ日差しに溺れていた。
特にこれといった会話もなく、座って、芹と一緒にグラウンドを見つめていた。
花壇の土の匂いと、揮発していく水の匂いが絡み付いた。
グラウンドでは相変わらずサッカー部の忙しない姿が見える。
私からしたらこの暑さの中で運動なんて正気の沙汰ではない。
太陽は無遠慮にギラギラ輝いていた。
隣で膝を抱えて座る芹を見る。
ちょっと前までは騒がしいくらいだったのに、今ではすっかり静かになってしまった。
まだ私も何か話さなければならない気もするが、言葉が出ない。
静寂を能動的に埋めるのは苦手だった。
芹と同じように膝を抱え、足の裏で砂利を転がす。
その砂利は足元から弾き出され、芹の靴にコツンとぶつかった。
「あ」
無意識に声が漏れる。
芹はその小石を蹴っ飛ばした。
「暑いね」
芹が前だけを見て、独り言のように呟く。
「暑いね・・・・・・」
だから私も、独り言のつもりでその言葉を拾った。
芹が話し出さないとこんなにも間が持たないのか、と内心自分にうんざりする。
けれども、それが私の底だった。
どこからか小鳥の声が聞こえる。
柔らかい風が吹き、もう乾いた芹の髪を揺らした。
緩やかに、時間ばかりが過ぎていく。
けれども、今はそれでいいと思った。
グラウンドにホイッスルの高い音が響く。
その音に吸い寄せられるように、部員たちが怠そうに足を引きずって集まる。
「終わったね。まさか終わるまでずっと眺めてるなんて思わなかったよ」
その様を見て、芹が微笑した。
「・・・・・・ごめん。退屈だったよね・・・・・・」
芹は部活動に混ざりに来たわけで、当然その様子を眺めに来たわけじゃない。
少し反省するべきだろう。
「いや・・・・・・別に・・・・・・。退屈なんかじゃないよ」
部活動が終わるや否やこちらに誰かが向かってくる。
サッカー部の部員の一人らしいその少年のつま先は芹に向いていた。
その少年が近づくのに合わせて、私は後ろに下がる。
少年もまさか私に用があるわけでもないだろうし、あんまり近くで私の関係のない話が始まるのは好ましくなかった。
芹もそれは察したようで、こちらを一瞥するが何も言わなかった。
「芹・・・・・・!」
汗に濡れた少年はまるで私が居ないかのように振る舞う。
私としてもその方がありがたい。
「なーにー・・・・・・?どしたの?」
「なんで今日途中で抜けたんだよ・・・・・・」
「それを聞くかい・・・・・・今、この場所で・・・・・・」
芹が呆れたように笑う。
私は二人の声から逃げるように更に一歩下がった。
背中に校舎の壁がぶつかる。
「ここまでか・・・・・・」
そう小さな声で呟いて、その壁に寄りかかった。
「まぁ・・・・・・それはそうと・・・・・・これ見てよ!」
サッカー部の少年がポケットから何かを取り出す。
それは黒色の携帯電話だった。
「あ、何それ!?携帯じゃん!・・・・・・いーなー・・・・・・」
「だろ?今度中学に上がるからって買ってもらったんだ」
物珍しそうに芹が携帯電話を眺める。
私はあまり必要性を感じないが、芹は欲しいみたいだ。
少年は話を続ける。
「でさでさ・・・・・・!そんで芹に見せたいものがあるんだ。俺、この前見ちゃってさ・・・・・・!」
「何さ?エロ本落ちてた・・・・・・?」
「ちげーし・・・・・・!!」
少年が携帯を開き、何やら操作をする。
そしてその画面を芹に見せる。
「え・・・・・・」
すると、芹が一瞬固まった。
一体何を見せられたのか、その後すぐにこちらを見た。
芹が画面に顔を戻して、掠れ気味の声で言う。
「これって・・・・・・いっちゃんじゃん・・・・・・」
少年は私の名前が出たところで一瞬顔をしかめた。
「そうだけどさ・・・・・・その、コイツ・・・・・・この前アンキラサウルスと戦ってたぜ?」
アンキラサウルスという言葉を聞いて、背筋に衝撃が走る。
あの野次馬の中に、この少年が居たのか・・・・・・。
「ちょーちょー・・・・・・いっちゃんどう言うこと!?」
芹が携帯電話を少年からぶんどって、私の眼前に突きつける。
その画面にはバッチリ私と怪物の姿が収まっていた。
続きます。




