救世主(20)
続きです。
学校の正門に掴まって、乱れた呼吸を整える。
顎を汗の滴が伝った。
正門の向こう側には、サッカーボールを転がす子供たちの姿が見える。
みんなが体操服の中一人だけ私服だったので、芹は一瞬で分かった。
これで顧問の先生に何も言われないのだからすごい。
呼吸が整いきらないまま、のしかかるようにして門を開く。
ガラガラ音を立てて、レールの上を門は滑った。
「・・・・・・はぁ」
一息ついて学校の敷地内に立ち入る。
開いた門は歩きながら引っ張って閉じた。
門の開いた音のせいか、視線が集まる。
基本的にグラウンドは夏休み中でも解放されているので問題はないのだけれど、なんとなく場違いな感じがして嫌だった。
「おーい・・・・・・!」
グラウンドから声が伸びる。
当然芹も私が来たことに気づいたわけで、だからこちらを向いて手を振っていた。
私もそれに小さく振り返す。
すると芹は小走りでこちらへ向かって来た。
「や!」
芹の手のひらが肩に乗る。
私の汗なんかまるで気にしていない様子だった。
もしくは自分の汗と区別がついてないだけかもしれないけど。
「や・・・・・・」
芹の声におうむ返しで答える。
まだ何も出来ていないが、とりあえずの一時的な安心は得られた。
「どしたの・・・・・・急に?いっちゃんもやる?サッカー。細かいルールは知らないけど楽しいよ」
未来のことなんてまるで知らない芹の声は明るい。
「いや・・・・・・遠慮しとく。疲れたし・・・・・・」
それに他のコがあからさまに嫌がっている顔をしているし。
なんでこんなに嫌われてるんだか。
まぁ、でもどうでも良かった。
「・・・・・・んで、何しに来たの・・・・・・?」
じっとしているのが退屈なのか、その場でぴょんぴょんしながら芹が尋ねる。
「あ・・・・・・いや、ちょっと芹に会いたくて・・・・・・」
「ありゃま。こりはびつくり。わたしゃ罪な女だ・・・・・・」
「そういうのいいから」
「ありゃま・・・・・・」
芹が身をくねらせる。
何も知らないとは言え、その能天気さは流石としか言いようがない。
「と、とりあえず・・・・・・終わってからでいいからさ、話があるんだ」
どうやって話したものか、少し悩む。
芹ならなんと言っても良い反応が返ってくると思うが、ここはきっと慎重にならなければならないところだろう。
「そんなに勿体ぶらんでも・・・・・・」
「あぅ・・・・・・いいから!とにかく・・・・・・待ってる」
芹の体をぐいと引き剥がす。
わざとらしくわたわたして、芹は離れていった。
「いっちゃんひどーい・・・・・・ぐすんぐすん」
「戻れ」
「へーい・・・・・・」
おどけながら芹が遠ざかっていく。
その背中がグラウンドに戻るのを見届けて、校舎側に避難した。
花壇脇の蛇口の場所に行って、校舎の影に潜る。
コンクリートの砂つぶを払って、そこに腰掛けた。
吹く風に花壇の植物の葉が揺れる。
視覚的にちょっと涼しかった。
照りつける太陽の下で、ホイッスルとサッカー部の声が響く。
少し遠くからは体育館の床をバスケットボールが打つ音が届いた。
グラウンドの上を、無数の影が踊る。
生まれて初めて・・・・・・かどうかは置いておいて、色濃く夏を感じた。
続きます。




