ゆーま(25)
続きです。
私の拳打を真正面から受けたチュパカブラは、再び派手に吹っ飛ぶ。
手応えは薄い。
どうやらわざと大袈裟に飛び退くことによって衝撃を軽減しているようだった。
「どこ行った・・・・・・!?」
チュパカブラはまた草陰にその身を隠す。
辺りを見回すが、特に何かが動く様子はない。
「逃げた・・・・・・?」
いくら鋭い牙や爪を持っていたとしても、子犬より少し大きいくらいだ。
勝機がないと踏んで逃げたのかもしれない。
緊張は解かないまま忍足で動く。
戦うにしても草が生い茂っているこの場所じゃやりづらい。
一旦はこの場を離れるのが得策だろう。
そうして二、三歩後ろに下がる。
その時だった。
小さな音が鼓膜を打つ。
「きららちゃん・・・・・・!」
みこちゃんの叫び声に、振り返る。
丁度その方向から私にチュパカブラが飛びかかって来ていた。
それをほぼ反射的に回避する。
汚れるだとか、そんなことは構わずに地面を転がった。
起き上がると、チュパカブラの姿はもう見えない。
「あー・・・・・・もう・・・・・・!」
体格差を見て逃げたのではない。
あいつはその小さな体を活かす戦い方を心得ているのだ。
小柄ゆえに見つけづらく、そして素早い。
「みこちゃんは大丈夫・・・・・・?」
「わ、私は・・・・・・全然」
木の枝を折って、みこちゃんに手招きする。
「え・・・・・・狙いが分散するからバラけてた方がいいんじゃないですか・・・・・・?」
そう言いつつも、しっかりこちらへやって来てくれる。
「確かにそうかも。でも、この方がみこちゃんは安全だし・・・・・・それに、どうしたってあいつはここに来なくちゃいけない」
狙いが分散しないということは、逆に相手の選択肢を狭めているという風にも捉えられる。
「いい・・・・・・?反射神経ってやつ。周りの音をよく聞いて。来たら迎撃するよ!」
「りょ、了解です・・・・・・!」
ビシッとみこちゃんが敬礼する。
私はそれに頷いて、握った木の枝を針のように細い剣に変えた。
これなら、拳のように衝撃の軽減云々の前に貫けるだろう。
みこちゃんと背中を合わせて、息を潜めて耳を澄ます。
さっきので分かった。
視覚ではなく、聴覚なのだ。
森は不気味なくらい静寂だった。
そして、その時は来る。
「来た・・・・・・!」
やつは私の真正面から姿を現した。
背中のトゲを奮い立たせて、その爪を広げる。
その額一点に狙いを定めて、思い切り細剣を突き出す。
「・・・・・・え」
しかし、チュパカブラの軌道が空中で変わった。
いやに時間をゆっくりに感じる。
背中を冷たい汗が伝った。
体を捻って、横にそれたチュパカブラは私の肩に手を突いてみこちゃんの方へ向かう。
みこちゃんは私の声に既にこちらを向いているが、私と同じように反応が追いつかない。
みこちゃんが危ない。
頭では状況を理解しているのに、その速度に体が追いつかない。
ただ引き伸ばされた数秒間の間に、みこちゃんの二の腕に爪が食い込むのを見ていることしか出来なかった。
「うっ・・・・・・!?」
みこちゃんが呻き声を上げる。
そこでやっと私の体がやって来て、みこちゃんの腕から飛びのこうとするチュパカブラに剣を突き刺した。
チュパカブラは呆気なく光の粒になって消える。
体感での時間の流れが元に戻ったのと同時に、みこちゃんは腕を押さえてうずくまった。
額に汗を浮かべ、必死に痛みに堪えている。
手のひらで握りつぶされるように押さえられている傷口からはおびただしい量の血液が流れていた。
「あっ・・・・・・」
今まで見たことのない出血量にこちらも血の気が引く。
「大丈夫・・・・・・!?」
ウサギのケガの時と同じように、包帯を作って巻くが血は止まらない。
瞬く間に包帯は赤く染まってしまった。
みこちゃんの指先から血液が二滴、三滴とこぼれ落ちる。
みこちゃんは目に涙を浮かべて、私を見上げた。
「どうしよう・・・・・・血が止まりません・・・・・・」
「ま、待ってて・・・・・・」
何か考えがあるわけでもなしに、声を上げる。
明らかにその出血量は異常に思えた。
「ごめん・・・・・・痛いかも・・・・・・」
とりあえず血を止めねばと思い、流れ出る血から目を逸らして傷口の上を思い切り握って圧迫した。
「ああぅっ・・・・・・!」
みこちゃんが一瞬ビクンと跳ねるようにして声を漏らす。
その後は嗚咽と区別のつかない呼吸を繰り返していた。
滲んだ血に私の手が濡れる。
血はまだ止まらなかった。
続きます。




