ゆーま(21)
続きです。
頭上を木の影が流れていく。
そこから少し後ろに目を向ければ、ヤツの姿も見えたしまう。
鋭いクチバシに、巨大な翼。
電流が描く軌跡が明滅していた。
「くっそ・・・・・・もうちょい速く走れれば・・・・・・」
「それは厳しいわよ。この道じゃ・・・・・・少なくともアイツを振り切れるほどの速度は出ない」
さくらの髪が風に揺れる。
しかし・・・・・・そんなことを言ったって、逃げられなければダメだ。
みこたちだってどこにいるかもわからないし、とにかく何にしたってアイツは邪魔だった。
「来るニャ・・・・・・!」
ゴローの叫び声にハッとする。
巨鳥は空中で翼を広げ、その速度を少し落としていた。
「来るって・・・・・・何が・・・・・・?」
みこの母が荷台の縁にしがみついて、その動向を見守っている。
「それは分からないニャ・・・・・・」
その瞬間、巨鳥は翼を強く空気に打ち付け、その場で縦に一回転した。
それと同時に、翼から羽根が抜け落ちる。
「おわっ・・・・・・」
慌てて足を引く。
その羽根はさっきまであたしの足があった場所に突き刺さった。
「大丈夫かニャ・・・・・・?」
ゴローが状況を確認する。
飛ばされた羽根の大半は道に突き刺さっているが、その内の数本はしっかり車体に突き刺さっていた。
タイヤに被害が及ばなかったのは不幸中の幸いってことで・・・・・・。
背後に視線を戻す。
鳥は元の姿勢に戻って、追跡を再開していた。
「・・・・・・ちっ」
その涼しげな表情に思わず舌打ちする。
全く後隙が生じない。
それはすなわち何度でも容易く使えるということだ。
命中率が低いとしてもいつまで持つか・・・・・・。
「ねぇ・・・・・・これ、マズイんじゃない・・・・・・?」
さくらが、恐る恐るといった感じで突き刺さった羽根を指差していた。
「何が・・・・・・まず・・・・・・」
言いかけて気づく。
その羽根は薄ら電流を帯びていた。
「くっそ・・・・・・やばい・・・・・・!!」
何がどうやばいとかは全く分からないが確実に安全ではなかった。
引き抜こうと手を伸ばすが、もう遅い。
巨鳥の翼から伸びた電流が、羽根に伝わる。
その電流は車体を伝わり・・・・・・。
「・・・・・・!」
瞬間、体に熱いような冷たいような今までに体験したことのない痛みが走った。
その痛みに声を漏らすことも出来ない。
痛みはすぐに引いたが、しかし今度は体が言うことを聞かない。
「だ、大丈夫かニャ・・・・・・!?」
それは他のみんなも同じようで、ゴロー以外は皆体を動かせないようだった。
「ま・・・・・・ず・・・・・・」
誰も動けないということは・・・・・・。
「な、何・・・・・・?」
状況が飲み込めないさくらをさらに激しい衝撃が襲う。
制御を失った車が、木々の隙間に突っ込んでいったのだ。
車はすぐに止まることはなく、何度も幹にぶつかりながら激しく揺れる。
ついには横転し、その動きを止めた。
投げ出されたあたし達は未だに体を動かせない。
「・・・・・・く、そっ・・・・・・」
動け、動け・・・・・・。
そう何度も念じるが、力が入らない。
再び羽根が飛来する。
それは木々に突き刺さり、軽い音を立てた。
そしてその木達を巨大な翼が薙ぎ倒す。
鳥の骨は脆かったんじゃなかったか・・・・・・と場違いな思考が脳裏をよぎった。
巨鳥が翼を広げる。
再び放電をするつもりのようだ。
翼が帯びる光が激しく明滅し、そして・・・・・・。
その巨大が何かに引っ張られるように横に倒れた。
「・・・・・・ゴロー」
何が起きたかの確認をして欲しかったが、名前を呼ぶだけでは伝わらない。
視線だけを動かすと、何者かに引きずられていったようだった。
「は・・・・・・はは・・・・・・」
ひりつく喉から乾いた笑い声が溢れる。
「何・・・・・・まったくなんなのよ・・・・・・」
さくらの復帰はあたしより早いようで、だいぶ流暢に話せていた。
みこのお母さんは放心状態で浅い呼吸を繰り返している。
「とりあえず・・・・・・」
生きている。
自分達には何も出来ないと分かってしまったけれど、まだ生きている。
感情に大きな動きはないけれど、目の端から涙が溢れて止まらない。
「・・・・・・よかった、生きてる・・・・・・」
「・・・・・・済まないニャ」
「別にあんたは悪くないでしょうが」
あたしはきっと理解が遅かった。
ことの重大さをわかっていなかった。
この改名戦争・・・・・・これは危険なのだ。
分かっていたはずなのに、やっと今分かった。
動かない体を投げ出して、ただ静かに聞こえる音に耳を澄ますしかなかった。
続きます。




