オリウル
じっと眺めていると、だんだんと鳥の影が近寄ってくる。
「来訪条件を満たした場合、また住民化条件に合致した項目がある場合、該当モンスターの情報は図鑑に表示されます」
ああ、そっか。そうだよね、図鑑を見てから考えても遅くはないか。
ついつい見て考えることを優先しちゃって、図鑑を先に確認してみるって発想にあんまりならないんだよね。ちゃんと癖をつけておかなくては。
シーちゃんに促された通りに図鑑を開く。
――――――
No.004
名称【???】
・ 分類:???
・ 原型食物:???
・ 原型生物:???
・ 危険度:D
・ レア度:N
・ 大きさ:1タイル
・ 生息地域:???
・ 好物:???
・ 来訪条件:
5タイル分の汚染されていない草地がある。
一本のオリーブの木がある。
・ 住民化条件:
10タイル分の汚染されていない草地がある。
所属するオリウルが3羽に達していない。
???
???
・ 汚染タイル数:水辺2
・ 能力:???
・ 備考:???
・ 生態観察:???
――――――
「……なるほど」
確かに来訪条件が開いている。あの鳥はオリーブの木が成長したから来たらしい。そして、なおかつ住民化条件もある程度満たしていると。残っている不明項目は二つだけだ。二つだけなら……わりとなんとかなるかもしれない。
まずは、よく見てみようか。
飛来したモンスターは、ガーデン手前で降りてくると草地を確かめるようにトコトコと軽く歩き、首を回す。
見た目は完全にフクロウ。丸い頭に植物の茎みたいな飾り羽根……フクロウよりミミズクだろうか? あれだとちょっと判断がつきづらい。背中を覆う翼に、大きな目。
ただ……明らかに通常とは違うんだろうなという特徴がある。
「……乾いてる?」
翼の縁は、ところどころひび割れている。それなのに、全体はどこかツルツルしていて……いや。
「ベトベト?」
光の反射が見方によってはほんのり虹色っぽく見える。
艶があるというより、こう……油っぽい気がするような。
この質感は……。
「……あ」
見覚えがあった。
そうだ、なんで忘れていたんだろう?
初期配布の卵だ。四番目に並んでいた透明感のあるオリーブ色の卵の、ツルッとした見た目にあのフクロウはすごく似ている。
ということは、あのフクロウは初期配布のうちの四体目。
一個目の卵がワームースのもので、二個目がワルフル。四個目と同じフクロウ……三個目はどうしたんだろう。もしかして、見落としがある? そうだとしたらちょっと悔しい。
……いや、心当たりがあるな。そういえば、いまだに住民化条件の分からないモンスターがいた。夜間にも防衛ログが残っていた、あのクマ型モンスターだ。あの子が三個目の一際大きな卵から生まれてくるモンスターだとすると、辻褄は合う。
ということは、初期配布の五匹目まではチュートリアルとして、住民化方法のお手本として選ばれた子たちなんじゃないかと考えられる。
考えている間に、草地でトコトコ歩いていたフクロウがゆっくりと羽ばたいて飛翔する。
向かった先は当然……あれ?
「え、そっち?」
フクロウが真っ先に向かったのは、モンスターたちの水飲み場として設置した横長の木桶だった。
なんと、そのままためらいなく降り立った。
「……入った!?」
水で満たされた木桶の中に。
次の瞬間。
ばたばた! ばちゃばちゃ!
完全に、『鳥』あるあるの水浴びが始まってしまった。
「ちょ、ちょっと……!」
水飲み場の水面が、一気に虹色に濁る。
いや、これやっぱりさあ。
「……油分だよねぇ」
どう見ても油。
水面に浮く、テカテカした虹色の膜にげんなりする。
「汚染って、こういうのもあるの……?」
そういえば汚染の項目に『水辺2』って書いてあった気がするな。内心悲鳴を上げながら、気になったのでもう一度図鑑を確認する。
すると、ハテナだった項目のひとつが書き換わっていた。
――――――
・ 住民化条件:
10タイル分の汚染されていない草地がある。
所属するオリウルが3羽に達していない。
「モンスターの水飲み場」で水遊びを行う
???
――――――
「あと一個か……そっちは想像つくけど」
残りの不明項目はひとつだけである。私の考えが合っているのなら、あのフクロウは今日の時点で住民化することができるはず。
だって来訪条件がオリーブの木でしょ? それで油関係。だったらもうひとつしか思い浮かばない。
「……やってみるか」
ゆっくりと近づいていってみる。
フクロウの視線が、こちらを捉えた。容赦のないガン見だ。私のほうは視線を少し落として刺激しないように。でもちょっとずつ進む。
そして私はオリーブの実をひとつだけ、地面にそっと置いた。そして、またゆっくり後退してシーちゃんの隣まで戻ってくる。
フクロウは、私が離れるのを確認してから、
オリーブの実に近づいた。くちばしでつつき、ちょっとずつ果実を食べていく。
その瞬間だった。光が走り、フクロウが翼を天高く広げて、自分を包み込むように丸くなる。
卵だ。それも、思っていた通りの四番目の、あの卵のデザインと全く一緒の見た目をしている。ここまで来たらもう、私の中では五匹目まではチュートリアルなんだなという認識になっていた。
卵の上にテンカウントが表示され、ゼロになる。
殻が割れ、中から現れたのは――翼が油分でテカテカと光るさっきと同じフクロウだった。
でも、さっきとは全く雰囲気が違う。乾燥してひび割れていたフクロウの翼はひび割れなんてなかったかのようにツヤツヤと輝き、光沢にも歪みはない。
落ち着いた雰囲気で羽繕いをはじめたフクロウにそっと近づくと、一瞬こちらを見たがそのまま羽繕いに集中することに決めたようだった。ガン無視である。
「おめでとうございます。オリウルが三匹目の住民となりました」
「やった……!」
思わず、ガッツポーズが出た。
図鑑を開くと名称が表示される。
【オリウル】
オリーブオイルとフクロウでオリウル。
うん、変なところはないよね。まさかフィッシュサトウみたいなのがまだいるとは思ってないけど、なんだかホッと一安心した。
それから、現状分かっている図鑑情報もさらっと確認することにした。
No.004
名称【オリウル】
・ 分類:油脂・植物加工品
・ 原型食物:オリーブオイル
・ 原型生物:フクロウ
・ 危険度:D
・ レア度:N
・ 大きさ:1タイル
・ 生息地域:???
・ 好物:オリーブ
・ 来訪条件:
5タイル分の汚染されていない草地がある。一本のオリーブの木がある。
・ 住民化条件:
10タイル分の汚染されていない草地がある。
所属するオリウルが3羽に達していない。
オリーブの実を1つ食べる。
「モンスターの水飲み場」で水遊びをする。
・ 汚染タイル数: 2
・ 能力:
ガーデン周辺の気配を知らせる。(通知情報)
ガーデナー周辺の気配察知。(通知情報)
自身よりランクの高いモンスターが周辺に存在すると警告音を発する。
指示があると付近のモンスターを音などを立てて遠くまで誘導する。
逃走する際は野生モンスターの足元へオイルを撒く。
・ 備考:
戦闘を行わず、隠密行動による探索を得意とする。
・ 公式生態観察①
オリウルは、索敵および警戒行動に特化した油脂系モンスターである。
なるほど、隠密担当!
ワルフルはガーデン内に入ってきたら吠えて知らせてくれるけど、オリウルは外にいる時点でお知らせしてくれるのかな? それは助かるな。手元に集中してると気づかないことがあるし……。
ということは、つまりこの子がいるならいくらでも集中できるようになったのでは!?
「よし」
私はすぐにスケッチブックを取り出して座り込む。
もちろん、この子もちゃんと記録しておかないとね。夜じゃなくて今! 今描きます。通知情報くれるなら集中してても大丈夫だろうし!
油の浮いたような奇妙な光沢まで全部いい感じに再現してみせる……!




