72話 カインズ vs アベル&ハリス
おれは精霊であるハリスさんと融合する。
すると、おれの身体に今まで感じたことのないような魔力が流れ込んでくる。
すごい、これがハリスさんの実力……。
これならばカインズとも対等に戦えるかもしれない!
「融合か……。めんどくさいことをしやがる。まぁ、あっさりと殺しちまってもおれの怒りは収まらないんだ。じっくりとお前をいたぶってやるよ」
カインズはいまだに余裕を見せている。
おれに勝ち目があるとしたらカインズが油断している今だけだろう。
『ハリスさん。攻撃はおれに任せてください! 転移魔法のタイミングに合わせます』
ハリスさんは転移魔法を使えるようだ。
おれ一人ではまだ転移魔法の習得はできていないが、融合している状態ならば使えることはわかっている。
エルダルフ戦でカシアスと融合したときに、カシアスが転移魔法を使ってくれていたということが魔法の知識を付けたことによりわかった。
『はい、わかりました!』
ハリスさんと念話で意思疎通しながら、おれはカインズと向かいあう。
凄まじい魔力を感じる……。
これが魔王クラスの魔族なのか。
「お前らは神を信仰しているんだろ。神へのお祈りはもう済んだのか?」
カインズはどうやら人間界の情報を少しは知っているらしい。
そして、これから殺すおれに最後の祈りの時間をくれたのか?
やはり、おれに勝機があるとしたら油断している今だけだ!
「残念ながらおれは神なんて存在しないことを知っているんだ。そして、この世界で語られている神の本当の正体もな」
おれはそう答え、カインズと目が合った瞬間に姿を消した。
まずはアイシスと精霊たち、そして父さんを僅かな時間でできる限り遠くまで転移させる。
それからおれは転移魔法でカインズの上空に転移したのだ。
一瞬で闇属性の防御魔法を応用しておれは足場を作る。
そして、おれは上空からカインズに向けて闇弾を放つ。
転移魔法を使うタイミングはハリスさんとの連携が上手く取れていたことにより完璧だった。
先ほど使った黒炎撃破は威力としてはおれの使える魔法の中で最大級だが、攻撃魔法の発射速度としては最速ではない分、カインズには躱されたり、対策されたりしてしまうかもしれない。
そこで転移魔法を利用したふいうちとして、威力も高く発射速度も十分に速い闇弾を上空から撃ち込む。
音速を超える速度で無数の闇の弾丸がカインズが襲う。
おれは一発だけでなく何発も何発も絶えず闇の弾丸を撃ち込む。
そして、極め付けにおれの最大攻撃魔法である黒炎撃破を発動する。
「黒炎撃破!!」
闇の炎が地上に降り注ぐ。
その闇は辺り一帯を覆い尽くし、その炎は辺り一帯を燃やし尽くす。
どうだ?
ハリスさんの魔力も上乗せしているおかげでおれの魔法はいつもの何倍もの威力がある。
おれのこの奇襲でカインズを追い詰められたか?
だが——。
ぶるりっ
背後から感じる異常な魔力におれは震える。
「なかなかやるじゃないか……。だが、おれの防御魔法を突破することはできなかったな」
おれの背後から男の声がする。
そうだ、優等種であるヴァンパイアであるカインズの声が……。
ふいうちで闇弾を撃ち込んだときに、おれの目には一瞬だがカインズの身の周りに防御魔法で風の防壁のようなものができているように映った。
おれの放った魔法は完全に防がれていたのだ……。
「今の複合魔法がお前の必殺技なんだろう? どうした、力の差に絶望でもしたのか。おれとお前では絶対に越えられない種族の壁があるんだよ。諦めろ、お前は——」
カインズがおれの背後で高らかに勝ち誇る。
そうだ、今のがおれにとって最大の攻撃魔法だ。
だが、その最大の攻撃魔法を持ってしてもカインズの防御魔法は越えられなかった。
カインズには届かなかった。
それはおれにもわかりきっていた。
だからこそ……。
だからこそ、チャンスが生まれたんだ!
カインズの腹部から漆黒の剣が突き抜ける。
おれがカインズの背後を取り、魔法の収納袋から取り出したカシアスが作った剣で突き刺したのだ。
「ぐっ……何だと……」
そうだ、カインズはおれのことを完全に格下だと思い込んでいることもあり、おれをすぐに殺さずじっくりといたぶる予定だった。
だからこそ、おれに勝機が生まれた。
おれとカインズの純粋な魔力量を考えれば遠距離での魔法戦はおれに勝ち目が全くない。
だからといって近距離での肉弾戦に持ち込んだところでスピードもパワーも優等種であるカインズには歯が立たないだろう。
それは2年前のエルダルフ戦に経験した。
だからこそ、おれは敢えてカインズに勝てない遠距離の魔法戦で全力を出して負けた。
しかも、ふいうちまでしたのに綺麗に完敗した。
そして、おれが苦しみ絶望する様子を見たいであろうカインズはおれの予想通り、おれを煽るために会話ができる距離まで転移して近づいてきた。
まぁ、転移魔法でどれだけおれの近くに転移してくれるかは厳密にはわからなかったんだけどな。
そして、おれの力が全く及ばずに絶望している様を見てあざ笑うカインズ。
この距離で完全に油断仕切っているのはうかつだ。
だが、カインズはおれに自身を傷つける手段はないと思い込んでいるからこその行動なのだろう。
そこで、おれは魔法の収納袋からカシアス特製の魔道具の剣——《魔剣》を取り出し、ハリスさんの転移魔法でカインズの背後に転移した。
あれくらいの至近距離ならば、転移魔法が発動するまでの時間はゼロに等しい。
人間界にある普通の剣に魔力を流したところで魔力を帯びた鋭利な金属にしかならない。
そんなものは魔族相手におもちゃの剣で戦うのと変わらない。
しかし、カシアス特製の魔剣は魔道具として存在しており、使い手の魔力を奪い貯蓄する能力を持つ。
つまり、普段から魔力を貯蓄していたこの剣はおれが持つ魔力を何倍にも増幅させたのと同じ効果が持つ。
それをさらにハリスさんからもらった分の魔力も上乗せして付与することによって、カインズを倒せるだけの攻撃を可能とした武器となるのだ!
そして、転移魔法でカインズの背後を取ったおれは今持てる最大限の魔力を剣に注ぎ込みカインズに突き刺した。
「闇斬撃!!」
闇を身に纏ったおれの剣がカインズを背後から襲う。
そして、カインズが常時発動している風属性の防御魔法を破壊する。
防御魔法が破壊されたカインズはこの異常事態に気付くがもう遅い。
斬撃で防御魔法を破壊したおれは闇を帯びた漆黒の剣でカインズの背中を突き刺し、剣が貫通し腹部から抜き出たのだ。
「ぐっ……クソ……」
一瞬の出来事に状況がイマイチ掴めていないカインズ。
おれはさらに追い討ちをかけるように剣に魔力を流し込む。
「ぐぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
カインズの叫び声が辺りに響き渡る。
まるで断末魔の叫びだ。
カインズに転移魔法を使わせる隙は与えない。
おれは魔道具である剣を通してカインズに攻撃的な魔力を流している。
今現在、おれとカインズは魔力の回路のようなもので繋がっている状態だ。
この状態でカインズが転移魔法を使えば、おれも一緒に転移される。
カインズ一人だけで転移することはできない。
つまり、カインズはおれから逃げられないのだ。
そして、おれはカインズにトドメを刺すためにカインズの体から勢いよく剣を引き抜くと傷口に向かって魔法を発動する。
いくら魔族の肉体といえど、内部からの魔法で破壊されればもたないはずだ。
「さよならだ、カインズ。最後におれがいた世界の言葉を送ろう。獅子は兎を捕えるにも全力を尽くすんだよ! 覚えとけ!!」
ここまでの行動でおれは完全に魔力を使い切っていた。
だからこそ、ハリスさんから魔力を供給してしっかりとチャージする。
この一瞬、カインズに転移魔法なんて使わせない。
「黒炎撃破!!」
おれの視界が一瞬で漆黒に染まる。
本日3回目の闇の炎がカインズを内部から破壊して、やがて身体中を包み込む。
「れっとうしゅがぁぁぁぁああああ!!!!」
再びカインズの叫びが聞こえる。
上空に浮かんでいたおれたちであったが、カインズは地上へと落下した。
ドォォォォオンッ!!!!
鈍い音を立て、砂埃が舞い上がる。
終わったか……。
おれは地上に落ちて動かなくなったカインズを見てひと安心する。
『ハリスさん……ありがとう。ハリスさんのおかげで何とかやれたよ』
おれは念話でハリスさんに感謝を伝える。
『いえいえ、アベル様の機転と魔法があったからこそできたことです』
おれもハリスさんも消耗し過ぎたな……。
おれに至っては魔力を完全に使い切っている。
しばらくはほとんど魔法が使えないだろうな。
ヒュュューーーー
穏やかな風が吹く。
おれははじめこそ気にかけてはいなかったが、風と共に異様な魔力の流れを感じ出す。
慌てて地上を見下ろすと、そこには黒焦げとなったカインズの周りを竜巻のような風が覆っていた。
そして、カインズがゆっくりと立ち上がる。
おいおい、嘘だろ!?
あれだけやって死なないのかよ!!
「コロス……コロシテヤル……」
「ゼッタイニ……ドンナ……テヲツカッテモ……」
「オマエラヲ、コロシテヤル!!!!!!!!」
憎悪に満ちたカインズの声が聞こえる。
おいおい、やば過ぎないか?
『アベル様、逃げましょう!』
ハリスさんが逃げることを提案する。
確かに、もうおれたちは戦うだけの魔力もなければ策もない。
ここは逃げるしかない!
『ハリスさん、転移魔法をお願いします!』
しかし、もう遅かった。
「お前らはおれを本気で怒らせたようだ……」
おれたちの目の前に……この上空に再びカインズが転移してくる。
カインズの体はみるみるうちに傷が修復されていく。
おそらく回復魔法を使っているのだろう。
「ハリス、お前は生かしておいて人質に使おうと思っていたが予定変更だ。他の次期精霊王候補を捕まればいいだけの話だからな」
「記憶を無くしているお前になどもう用はない。そこの劣等種と一緒に始末してやる」
カインズは血走った瞳と憎悪に満ちた声でそう告げる。
どうやら、本気でおれとハリスさんをここで殺すつもりのようだ。
そして何よりカインズは全然魔力を消費していない。
先ほどの戦闘も防御魔法を一度使われただけだった。
おれたちの状態とはわけが違う。
カインズの右手に魔力が収縮されていくのを感じる。
クソ……ここまでなのかよ……。




