71話 カインズ vs アイシス
こいつがカインズ……。
かつて、おれたちが暮らす村を襲った魔界の魔族——エルダルフの親玉。
おれは桁違いの強さを誇るカインズに圧倒されてしまっていた。
どうする……このままじゃ全員死ぬ。
転移魔法で逃げるにしても、長距離の転移だと魔法が発動するまでの光に包まれている時間に距離を詰められてしまう。
そして、簡単に殺されてしまうだろう。
短い距離の転移ならば魔法の発動まで時間がかからない分、逃げ出す隙はあるかもしれないが、カインズも転移魔法を使えた場合に勝ち目はない。
アイシスは自分だけでなく、おれたち三人をまとめて転移させなければならないからだ。
「アベル様、そしてハリス様。ここは私が戦いますので御二人は御自身とそこの人間を守ることに専念してください」
アイシスはおれたちの前に立ち、一人でカインズと戦うつもりだ。
だが、今のおれには何もできない……。
そして、魔力を解放したアイシスがカインズに向かっていった。
アイシスは魔剣を取り出してカインズを襲う。
彼女の魔剣は闇のオーラを纏い、禍々しい魔力を放っている。
それに対してカインズも魔剣を取り出してアイシスの攻撃に応じる。
二人の攻防は魔剣によるものだけでなく、互いに転移魔法と攻撃魔法を駆使してのものだった。
カインズの背後をアイシスが捕らえたと思った次の瞬間、カインズがその場からは既にいなくなっており、カインズがアイシスの背後から魔法を放つ。
そして、アイシスがそれを闇の壁で防ぐ。
おれの目には神々の戦のように映る高次元の戦いが繰り広げられていた。
とてもじゃないが、おれには入り込む余地などなかった。
二人の戦闘により、ここら一帯は大森林があったとは思えないような荒れ地になっていた。
おれとハリスさんは防御魔法を発動して、こちらに流れてくる衝撃波や魔法を防ぐことで精一杯だ。
そして、カインズが一度アイシスと距離を取る。
「お前はそこそこやれるようだな。劣等種と呼んだことは詫びよう。まさか、お前のような上位悪魔がこのような下界にいようとはな」
カインズがアイシスを好評する。
アイシスはカインズと互角に戦っているように見えたが、どうやらアイシスの方が押されているようだ。
カインズは余裕の表情を浮かべているが、アイシスは傷つきながら肩で息をしていた。
「だが、それでもお前はおれより弱い。フルスロットのおれと、若く未熟なお前では相手にならん。ここで大人しく死ね」
カインズはアイシスに向かって特大の魔法を放とうとする。
このとき、おれはアイシスのもとへと駆けだしていた。
素人のおれが見てもわかる……あれはヤバい!
「アイシスーーーー!!!!」
おれにできることなんてもしかしたら何もないのかもしれない。
だけど、おれにできることが少しでもあるとするならば、やらなければいけない気がした。
カインズの発動した風属性魔法の鋭利な無数の風の刃はアイシスやおれたちを襲う。
それに対して、おれは現在使える最大級の魔法をカインズに向けて放つ。
「黒炎撃破!!!!」
闇属性と火属性の複合魔法。
かつて、魔族であったエルダルフを討ち破ったこの魔法にかける!
以前の、カシアスと融合をしていたときとは違い、おれ一人で複合魔法を全力で発動させる。
おれの身体が複雑過ぎる魔力の流れではち切れそうになる。
だけど、こんな痛みなんて気にしている場合ではない。
闇の炎は螺旋回転をしながら渦を巻き、カインズの放つ風属性魔法をぶつかり合う。
しかし、おれの発動した黒炎撃破を持ってしてもカインズの風属性魔法と相殺することはできなかった。
闇の炎はカインズの魔法により内部から拡散するようにして散った。
そして、おれを風の刃が襲う。
「アベル様ーーーー!!!!」
アイシスの叫び声が聞こえたと思ったら、おれの目の前に闇の壁が張られ、おれは一命を取り留めることができた。
しかし……。
「アイシス……?」
おれの目の前にはカインズの魔法を直接受けたであろう傷ついたアイシスがいた……。
彼女の目は、虚で視界が定まっていないようだった。
アイシスはおれを見つけると、少し安堵する様子を見せる。
「よか……った……」
そして、アイシスはその場に崩れ落ちる。
「アイシス! アイシス!?」
おれは倒れて動かないアイシスを抱きかかえて叫ぶ。
どうして……どうしておれなんかを守るんだよ。
もしも、おれがヴェルデバランの転生者じゃないって伝えていたらアイシスはこんなことにならなかったはずだ。
おれが……自分かわいさにアイシスを傷つけているんだ……。
「アイシスだと? なるほどな。どおりで強いわけだ」
カインズは笑みを浮かべながらおれたちの方へと向かっている。
「ハッハッハッ。次期精霊王候補に、闇属性魔法を使う劣等種、そして常闇の悪魔アイシス。なんで下界にこんなおもしろいもんがたくさんあるんだ」
おれにはどうすることもできない……。
みんなを置いて逃げるなんてことも、カインズを相手に戦って勝つことも。
「なんでこんなことをするんだよ……。どうして……また、お前らはおれから大切な人たちを奪おうとするんだよ!!」
ふざけるなよ……。
なんの目的があっておれから……。
「おれには何のことかさっぱりわからんな。自分の弱さを嘆くのは構わないが、自分の不幸を他人のせいにするな。そして、おれはお前らになど興味はない。向かってきたから抵抗したまでだ」
「ふざけるな! そんな言い分が通ると思うな! エルダルフもお前も、関係ない人たちをどれだけ傷つけ、殺してると思ってるんだ!!」
おれはカインズに向かって声を上げる。
すると、カインズの様子が変化する。
「エルダルフだと……。おい、劣等種。エルダルフのことを知っているのなら今すぐ全部吐け」
カインズがエルダルフのことをおれに尋ねる。
どういうことだ?
エルダルフはカインズの手下じゃなかったのか?
「エルダルフは2年前におれが暮らす村を襲ったんだ。そして、多くの人を殺した。エルダルフはお前にこの世界を捧げると言っていた! お前が指示したことじゃないのか!」
カインズはおれの言葉を聞き、驚いた顔をする。
「エルダルフがおれのためにこの世界を……? おれは全く知らない話だ。ここ最近エルダルフはおれに顔を見せていないからな。それでエルダルフはその後どうしたんだ?」
カインズはおれに尋ねる。
「エルダルフはおれの大切な人たちを殺したんだ。だからおれが悪魔を召喚して仇を取った」
おれがそう言葉を発した瞬間、カインズの放つ魔力が変化した。
「エルダルフを殺したのか……?」
みるみるうちにカインズの魔力が高まっていくのを感じる。
やつの放つ魔力がおれを肌を強く刺激しているのだ。
「悪いがさっきの言葉は撤回する……。劣等種、お前だけはおれの手で殺す。そして、お前の大切な者たちも全員殺してやる……」
カインズは魔力におれはひるんでしまう。
なんなんだよこの魔力は……。
「マルクス!!」
ハリスさんの声が聞こえる。
声のする方を見ると、どうやら父さんがカインズの魔力を直接浴びて気絶してしまったようだ。
ハリスさんが防御魔法を張ってくれているがあまりいい状況ではないだろう。
するとハリスさんが精霊たちを呼び、複数人の精霊たちがハリスさんに代わって防御魔法を父さんに張ってくれた。
そして、ハリスさんは——。
「アベル様、私も戦います。この森を、この国を守ることが七英雄ニーア様と交わした私の役目です。貴方様に協力させてください」
ハリスさんは転移魔法でおれの側に転移してきてそう話す。
「はい、おれとしても一人ではどうするのこともできません。お願いします!」
そして、ハリスさんは魔法を発動させる。
融合だ。
おれ一人ではカインズとは戦えないが、今はハリスさんもいる。
絶対に、おれがアイシスと父さんを助けるんだ!
補足情報です。
魔王ではないからといって、魔王たちより弱いわけではありません。
カインズは魔界の魔王たちと比較してもかなり強い優等種の魔族です。
そして、話の中で出てきた「フルスロット」という言葉は後に作中でも解説がありますが、固有スキルに限界まで補助スキルを付与されていることです。
つまり、優等種であるカインズがフルスロットであるというは補助スキルを25個持っているということです。
ちなみに、アベルは補助スキル4個持ちであり、アイシスは上位悪魔であり優等種ですがフルスロットではありません。




