61話 補助スキルの力
これはおれはアイシスに教えてもらった補助スキルを習得した後の話。
Sランク冒険者パーティーのニルヴァーナと遭遇する数ヶ月前の話だ。
——数ヶ月前——
おれはアイシスに教えてもらった補助スキルを習得した。
補助スキルを習得するための付与魔法というのも難なく使いこなすことができ、スムーズに習得ができたのだった。
補助スキルは種類が多く自分で選べるということもあり、初心者のおれには何を選べばいいのかがわからなかった。
なのでおれはアイシスのオススメ通りに付与をした。
ちなみに、補助スキルは変更することもできるにはできるらしい。
しかし、変更するには100年ほど時間がかかるということなので人間のおれにとっては一生に一度の選択となるわけだ。
固有スキルは『剣士』や『魔法使い』、『料理人』や『鍛冶師』、『魔王』や『旅芸人』といったように、スキル所持者の職業や特徴を得るためのものだ。
それに対して補助スキルは『斬撃強化』や『火属性魔法強化』、『魔力回復量増加』や『魔力量増加』など固有スキルに関連している能力を底上げするものらしい。
なので、固有スキル『料理人』に対して『斬撃強化』のような『剣士』や『魔法剣士』が付けるような補助スキルは付与できないようだ。
おれは、『召喚術師』に『魔力回復量増加』を2つ、『魔法剣士(闇&火)』に『闇属性魔法強化』を2つ付与した。
補助スキルは同様のものを複数付与することもできるらしいので2つずつ付与をしたのだ。
『魔力回復量増加』とは、魔法を使って魔力を消費したときに、再び魔力を大気から吸収する速度が上がるらしい。
召喚魔法は莫大な魔力を消費するため、その後すぐに攻撃魔法や防御魔法に移れるように取得した。
そして、『闇属性魔法強化』はその名の通り、闇属性魔法の威力や効力を上げてくれるらしい。
『火属性魔法強化』と1つずつの付与にするか悩んだのだが、こういうのは1つの属性に絞って強化した方がいいとアイシスが言っていたので闇属性の方を2つ習得した。
これにより、おれの闇属性魔法は一段と強化されたのだった。
ちなみに『魔王』のスキルレベルは最低だったため、1つも補助スキルを付与することはできなかった。
そして、補助スキルを得たおれはさっそく魔法を使ってみる。
まずは召喚魔法だな!
おれはどれくらい消費した魔力が回復するのかを確かめるため、持てる魔力を全て使って召喚魔法を発動する。
呼び出すのは人間界に住む精霊たちだ。
おれは自分自身を囲むように魔法陣を描きだす。
とりあえず、限界まで魔法陣を複数展開してみた。
すると、光輝く魔法陣が20も描くことができ、その中から精霊たちが20人召喚された。
「ようアベル! 久しぶりだな」
火属性を操る精霊のジャンがおれに挨拶をする。
こいつに会うのもひさびさだな。
「アベルさん2年ぶりでしょうか? アベルさんが召喚してくれるなんて珍しいこともあるのですね」
「そうだよ! それでカイルやサラはどこにいるんだい?」
丁寧な口調で話す女性の精霊は水属性を操るローゼ。
そして、もう一人の女性はジャン同様に火属性を操るメラニー。
二人とも昔はよくお世話になった。
そうだな……あの日のことはしっかりと話さないとな。
「この子どもがおれたちを召喚したのか?」
「どうも頼りなさそうだよな……」
「でも、どうやって私たちを召喚したのかしら? 魔石や魔法陣の跡がないけれど……」
召喚した20人の精霊たちは、ほとんどがおれの知らない初対面の精霊たちだった。
知っているのは直接おれに話しかけてきた三人だけだ。
まぁ、今回はテストで呼び出しただけで特に用はないし、ジャンたち以外の精霊には悪いけど帰ってもらおうかな。
おれは消費した魔力がいつも以上に早いペースで復活しているのを体感しながらそう考えていた。
「ねぇ、あれって何?」
一人の精霊が不安そうな声で指をさす。
いったいどうしたのだろうとおれは精霊が指さす方を見る。
するとそこにはさっきまでおれに補助スキルや付与魔法について教えてくれていたアイシスがいた。
もちろん人間の姿ではなく白銀の悪魔の姿でだ。
「なぁ、あれって精霊じゃないよな……もしかして……」
少年の精霊が声を震わせながらアイシスの正体に気づく。
精霊体同士だと相手の正体がわかるものなのだろうか?
「「「悪魔だぁぁぁぁああああ!!!!」」」
精霊たちの叫びが悲鳴となって辺りになり響く。
ここの近くに人が住む街や村がなくてよかったよ。
ここはだれも近づこうとしない岩山だからな。
精霊たちが騒ぎ出したとなれば大問題になりそうだ。
この世界で精霊は一応崇められている存在だからな。
「黙りなさい……」
アイシスは魔力を解放し、凍りつくような冷たい目線とよく通る声でそう言った。
すると精霊たちの悲鳴がピタリと止んだ。
アイシスのひとことにより精霊たちは震えながらも声を発するのはやめのだ。
正直おれも震えて少しチビってしまった。
これは内緒にしておこう。
そしておれは精霊たちに今の状況を伝えた。
おれは召喚術師であり、そこにいる悪魔であるアイシスと旅をしていること。
今回は、おれのとある魔力に関するテストのために精霊のみんなを召喚したこと。
そして、元々付き合いのあったジャンたちにはカイル父さんやティルが亡くなったことも伝えた。
ジャンたちはとても悲しんでいたが事実を受け止め、これからもおれやサラのために色々と手伝ってくれるそうだ。
そして他の精霊たちもおれの手伝いをしてくれるらしい。
彼らはおれのことをそれなりに気に入ってくれたようであった。
どうやら悪魔というのは精霊たちからしたら、かつて人間界を崩壊させようとした邪悪な存在であり、尚且つ自分たちとは比べものにならないほど強大な存在という認識らしい。
そして、おれはそんな強大な悪魔を従える召喚術師ということで一目置いてくれているそうだ。
それに、一度に複数の魔法陣を展開して召喚魔法を使える異端児というのもプラスに働いたらしい。
いつでも好きなときに召喚していいと許可をもらった。
そして、次におれは闇属性魔法のテストを行う。
補助スキルのおかげもあって、十分魔力も回復した。
さっそく魔法を放ってみよう!
おれは軽い気持ちで闇弾を放とうとしたとき異変に気がついた。
あれ……なんかいつもよりサイズが大きくない?
明らかにいつもの直径の2倍はあろう闇の弾丸をみて、おれはとっさに危険を感じて上空に闇弾を放った。
反作用の力でおれはよろけてしまう。
おっとと……危なかったな。
数百メートル先の地面に当てようとしていたけど、あんなに威力が高そうな魔法を近くに撃ち込んだらおれたちまで被害を受けてしまう。
そんなことを思っていたら大きな爆発音がした。
ドッッッッゴォォォォオーーーーーン!!
何かと思って音がした方を見ると、おれたちが今いる岩山の隣の山が一部崩壊していた。
あれって……もしかしておれのせいだったりするのか?
すると、崩れた岩山から何かが飛び出した。
それは大空を舞い大きな声で叫ぶ。
ギュュッッアアアア!!!!
少なくとも10キロ弱は離れているおれたちのところまでその魔物の叫び声は轟いた。
これは、もしかしたらあの周辺にある村まで聞こえているのかもしれないな……。
そして、魔物はおれたちを見つけるとこちらに向かって直進してきた。
あの魔法を撃った犯人がおれだとバレてしまったのだろうか?
「アベルさま! 地龍ですよっ! 地龍!! 早くここから逃げましょう!!」
精霊たちが騒ぎ出す。
あのでっかい魔物は地龍というのか。
「アイシス、地龍って何なんだ?」
おれはアイシスに尋ねる。
アイシスが慌てていない時点で危機ではないのだ。
恐れることはない。
いや、正確には「アイシスにとっては危機ではない」か……。
たび重なるサラの件でアイシスはおれに対する危機を理解していないことがよくわかった。
今回も一応警戒しなくてはいけないかもしれない。
「地龍とは人間界における最強の魔物である龍の一種のようです。しかし、リノ様から聞いている限りアベル様の敵ではありません」
アイシスは何の問題もないと言う。
それならばおれは彼女の言葉を信じよう。
新たに手に入れた闇の力であの龍を土に還してくれよう。
すると地龍が魔法を発動する。
まだ数キロは離れているだろうが土砲で岩の塊が高速で放たれる。
ふむ、防御魔法を張って……ってあれ?
遠くからの攻撃魔法でよくわからなかったが、あの岩の塊はなかなかに大きいぞ……。
その大きさはかつておれが住んでいた家ほどの大きさがある。
いやいやいやいや!!!!
アイシスは問題ないって言っていたけど、あれは流石に無理だろう!
人間界最強の魔物の攻撃魔法を人間如きの防御魔法で防げるのか?
おれはチキンだ。
だからこそ、防御魔法は使わない。
攻撃魔法であれを粉砕する!!
先ほどの闇弾は山の地形すら変えた威力を誇るんだ。
まだ補助スキルを手に入れてから試してもいない防御魔法を使うよりはマシだろう。
おれは自分自身の中にある溢れるばかりの魔力を感じ、それを一気に吐き出した。
おれの右手から本気の闇弾が撃ち出される。
その漆黒の弾丸はまるで闇を帯びた流星群のように闇の尾を持ち岩の塊に向かってゆく。
そして、おれの闇弾が地龍の土砲を打ち砕く。
そのまま漆黒の弾丸は勢いを殺さずに遠い空の彼方へと消えていった。
わぁお……。
想像以上の威力だったな。
まさか人間であるおれがあれほどの力を発揮できるなんてな。
そして地龍はというと、さっきまでの威勢のいい姿はなく、おれの放った魔法を見てひるんでいた。
まぁ、一応魔物だし狩って素材を手に入れるか。
金にはならなくてもカシアスに頼めばいい感じの魔道具を作ってくれるかもしれん。
おれは右手に闇を収束されてゆく。
それを見た地龍はバタバタと翼を旗めかしたと思うと急に地に降り立って頭を地面になすりつけ始めた。
おれはいったいどうしたのだろうと思い、攻撃するのをやめて地龍に近づいてみる。
すると、何やら意識のようなものを感じた。
『降伏する』
そういったイメージがおれに伝わってくる。
これは……地龍の意識なのだろうか?
そこでおれはかつてアイシスに聞いたことを思い出す。
『念話も一種の翻訳の魔法ですね。思念を込めたものが相手に概念として伝わり、相手の理解できる言語として翻訳されます。ですので、念話は別の言語を使う者同士でも意思疎通ができる魔法なのです』
もしかしたら、これは念話なのか……?
おれは自分の出した結論に半信半疑ながらもゆっくりと地龍に近づいてゆく。
『悪かった』
『すまない』
さらに地龍に近づくとそのようなイメージがおれに伝わってくる。
地龍は話している様子はない。
おれも地龍に念話で意思を伝えてみようとする。
『おれはお前を傷つけない』
ダメ元でやってみると地龍は急に頭を上げておれを見つめる。
もしかして伝わったのか?
グルルルルッッ
地龍は先程のような威嚇ではなく喉を鳴らすように声を上げる。
おや、少しは可愛いな?
すると、おれのもとにアイシスが転移してくる。
「アベル様、この地龍は殺さないのですか?」
「なんだかこの地龍と念話でコミュニケーションが取れている気がするんだよね。気のせいなのかな?」
おれはアイシスに聞いてみる。
アイシスは珍しく少しだけ驚いた様子を見せる。
「念話が可能なのは融合した場合や『魔王』スキルで回路を作った場合のみです。それ以外も不可能ではないらしいですが稀なケースです。アベル様はどうして……」
アイシスは不思議がっていた。
おれとしてはよくわからないがとりあえず意思疎通ができているっぽいのだ。
この地龍も降伏しているようだし殺す必要はないな。
まぁ、近隣の村なんかに迷惑をかけるのなら別だけどな。
『帰っていいぞ』
『人やエルフは襲うなよ』
おれは簡単なメッセージを地龍に伝える。
グルルルルッッグルルル
地龍はその大きな体を揺らしながら鳴く。
これは了解してくれたってことでいいのかな?
すると、地龍からおれにイメージが届く。
『あなた主人』
言葉と同時におれを背中に乗せて飛ぶ映像のようなものも伝わってきた。
おぉ、何だがわからないけどすごい!!
っていうか主人!?
それっておれの仲間になりたいってことなのかな?
よくわからないけど、人間たちに迷惑もかけないみたいだし別にいいか。
『わかったお前はおれの仲間だ』
『名前はあるのか?』
おれは地龍と念話で話し合う。
側から見たら人間と龍が見つめ合っているだけに見えるのだろう。
少しだけシュールだな。
『うれしい』
『名前はまだない』
なんかどこかで聞いたことのあるフレーズだな。
地龍については知らないが成長していくと後々名前が付くシステムなのか?
とりあえず『地龍』と呼ぶのはなんか嫌だな。
おれも『人間』とは呼ばれたくはない。
仮の名前だけでも付けておくか。
『ヴィエラ』
『お前をヴィエラと呼ぼう』
おれの予想ではたぶんこいつはメスだ。
だから女の子らしい名前を付けた。
グルルルルッッグルルル
ヴィエラは翼をバタバタと旗めかせて喜びを表現する。
うん、砂ぼこりが舞い上がって迷惑だ。
まぁ、でも喜んでくれているようだし良いとするか。
こうしておれは地龍のヴィエラという仲間が増えたのだった。
ちなみに後で知ったのだがヴィエラは生まれたばかりのメスだったようだ。
そして、既に体長10メートルほどあるが成長すればもっと大きくなるかもしれないそうだ。




