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336話 魔王伝

  『自らの定めに従い、戦い続けなければならない。その覚悟が今のお前にはあるか……?』


  男の問いかけにおれは考える。

  覚悟か……。


  天使シャロンは言っていた。

  もうすぐ世界は崩壊すると……。


  あれだけの力を見せつけられたらわかる。

  冗談などではなく、アイツらなら世界を滅ぼすことすらできるだろう。


  だけど、そんなことさせちゃダメだ!

  おれが大事に思っている人間界の人たちも、カシアスやリノたちが護ろうとした魔界の仲間たちも救わなきゃいけない。


  おれならば何かできるのかもしれない。

  現に一度は天使シャロンの魔法を防いだじゃないか。

  もしも、おれの正体を知ることによって何か現状が変わるのならば……。


  世界の命運がおれにかかっているんだ。

  覚悟なら、できている……!


  「もちろんだとも!」


  おれは自信を持って応えるのであった。


  『ほぉ……』


  おれの回答に男は少し嬉しそうにしていた。


  ただ、気になることもある。

  それを聞いておかなければならないだろう。


  「その前に一つだけいいか?」


  『よいとも……。何だ、話してみろ』


  男は何でも言ってみろと言わんばかりの口調でそう話す。

  そこでおれは勇気を持って語り出すのであった——。


  「おれは異世界からの転生者だ! それも、魔力なんて存在しなかった平凡な世界からの転生者だ! お前が言っているおれの正体っていうのはこのことなのか?」


  おれはこれまで隠していたことを男に話した。

  これには二つの理由がある。


  一つは既にこの事は知られているかも知れないということ。

  おれは転生者であるということをカシアスが知っていたということは、アイシスに指図をできる位置にいるこの男もそのことを知っている可能性は高い。

  だとしたら、わざわざここで隠す必要はないのだ。

  話を円滑に進めるために、自己開示しておいた方がよいとおれは考えた。


  そして、もう一つの理由は馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないが直感である。

  この男はこの世界について、それに天使シャロンについてかなり多くのことを知っているようだ。

  さらに、この男はおれと敵対する様子はないようだし、こいつがこの情報を使って何かに役立ててくれるのではないかという淡い期待を抱かせてのことだ。


  すると、おれの話を聞いていた男は驚いたようにして、こう口にするのであった。


  『ほぉ、なるほど……。予想はしていたがそうか、お前は魔力の存在しない()()世界から転生してきたのか』


  この発言にはおれの方が驚かされてしまう。


  なっ……もしかしてこいつ地球を知っているのか!?

  どうして……?


  「お前、どうして地球を知っているんだ!? 他にも地球からやってきた転生者がいるのか?」


  おれは扉の奥にいる男を思わず問い詰める。

  すると、男は何でもお見通しかのように笑いながら告げるのであった。


  『ふっ……それも自分の正体を知れさえすればわかることだ。全てを知りたければ扉の前にある箱の封印を解くといい』


  どうやら、おれの正体とやらは地球からの転生者とはまた別のことのようだ。

  ここまで焦らされて、今さら後戻りなどできまい。

  おれは男の声に従うのであった。


  しかし、指示にあった扉の前の箱というのがよくわからない。

  扉の前には何もなく、そこにはただ無が広がっているだけであった。


  だが、男の声を思い出しながらよく目を凝らすと、突如としておれの目の前の空間が歪み出す。

  そこには男が言う様に、真っ黒な箱のようなものがぽつんと置いてあるのであった。

  大きさは両手で持てるような数十センチ程度の幅で奥行きも高さもそれほどない。


  おれは光すら吸い込んでしまいそうなその漆黒の箱に一歩ずつ近づいていくのであった。

  すると、再び男の声が響き渡る。


  『封印を解けば、もう後戻りはできないぞ……』


  扉の奥から発せられる魔力が強くなる。

  おれの身体が無意識に震え出す。


  なんだよこの魔力は……。

  もう戻れないって、何がどう戻れないんだよ……。

  てか、封印ってどうやって解くんだよ……。


  色々なことが頭に浮かびながらもおれは一歩一歩足を進め、遂に封印されている箱のもとへとたどり着く。

  そして、その漆黒の箱を持ち上げるのだった。


  箱を持った瞬間、封印の解き方はわかった。

  まるで、この封印は自分で施したかのような錯覚を起こし、魔力を手順に沿って流すことで簡単に箱を開けることに成功する。

  すると、中から本が二冊出てくる。


  なんだこの本は……?


  何も書かれていない黒表紙の本が二冊、おれの手元に現れる。

  この二冊の本以外は箱の中に入っていなかった。

  つまり、封印を解けというのはこの分厚い本を手に入れろということなのだろう。

  おれはそう解釈した。


  そして、本を手にしたタイミングで扉の奥から声が響いてくる。


  『それは()()()が《魔王伝》と呼ぶものだ。お前にはそれを読んでほしい。今すぐにだ』


  これまでの人を茶化すような口調とは異なり、男は真剣な声色でおれにそう頼み込んでくる。

  そんな真剣に頼まれたら仕方ない。


  おれは男のいう通りに二冊の魔王伝を読む。

  読み始めた最初は何が書いているのか意味がわからなかった。

  しかし、読み進めていくことにより段々と今のおれが置かれている状況が掴めてくる——。



  ◇◇◇



  一日ほどだろうか。

  気づいたらとても長い時間、おれはこの魔王伝を読んでいた。

  そして、魔王伝を読み終えたおれの体は震え出す。

  もしも、ここに書かれていることが真実なのだとしたら……。


  魔王伝——。

  そこにはおれが想像もできないことが書かれていた。


  この魔界と人間界をはじめとする下界の歴史——。

  そして、かつて起きた古の時代の大戦——。

  それによって今、水面下で起きている全種族の存続をかけた天使シャロンとの戦い——。


  どうしておれがアルフレッドと呼ばれる男の記憶を持っているのかも理解した。

  これによって、ようやく扉の奥にいる男と対等に会話ができることだろう。

  それを知った上で、おれは渇いた声で男を呼ぶのであった。


  「読み終わったぞ……。お前がアルフレッドだったんだな……」


  すると、扉の奥にいる男はおれの問いかけに答える。


  『そうだ……私の名はアルフレッド。精霊アルフレッドだ。そして、かつてシャロンの仲間であり、彼女の苦しみを理解してやれなかった愚かな男だ……』


  これまで聞いたことのない悲しげな声で、アルフレッドはそう答えるのであった——。

ご愛読ありがとうございます。

あと1話でこの作品は完結します。

ここまで長くお付き合いいただきありがとうございました。

ここにきてようやくタイトルでもある《魔王伝》というキーワードが出てきましたね。

ここまで読んでくださった読者の皆さんに最後まで楽しんでいただけたら作者としてとても嬉しいです!

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