334話 魔王ヴェルデバラン
アイシスの転移魔法によって、おれとサラ、アイシスにウェイン、ゼシウスさんの5人は魔王城へと到着した。
連れて来られた魔王ヴェルデバランの魔王城はまるで巨大な宮殿のようであり、目の前には広大な庭園が、そして遥か彼方には立派な御殿がそびえ立っているのであった。
流石は魔王たちを従える大魔王の魔王城。
ハルやゼシウスさんの国の魔王城もすごかったが、ここもまた息を呑むほど立派なものであった。
だが、そんな魔王ヴェルデバランの魔王城であったが、あちこちから煙が立ち込めており、ここもまた戦場となっていたことを表していた。
きっと、ゼシウスさんの国と同様に、十傑の悪魔たちが押しかけてきたのだろう。
壮絶な戦いがここでも繰り広げられていたことが読み取れた。
そして、大きな庭園を抜けて御殿へと向かうと、おれたちの前に二人の大男たちが立ちはだかる。
いや、正確には出迎えると言った方がよいか。
どうやら、敵対している様子ではないようだ。
すると、男たちはおれたちに向けて一礼をする。
もしかすると、精霊王であるゼシウスさんや、魔王であるウェインがいるからかもしれない。
そして、一人がアイシスに向けて声をかけるのであった。
「久しぶりだな、アイシス。積もる話もあるだろうが、まずは今回の件について話を聞かせてもらうぞ。そこにいる人間たちのことも含めてな」
鮮やかな銀色の髪に、煌びやかな装飾品を纏った男は丁寧な言葉遣いでそう呼びかけるのであった。
すると、もう一人の男の方はそれとは対照的に荒々しく言葉を述べる。
「俺は気に入らない……」
美しい金色の髪に、赤と黒のマントを纏った男は不機嫌そうにそうつぶやくのであった。
「ご無沙汰しておりました。デュオ様、そしてレオンハルト様」
アイシスは頭を深く下げて彼らに挨拶をする。
彼らが魔王ヴェルデバランの魔王城にいることから、彼らもまた魔王ヴェルデバランの配下なのであろう。
そして、アイシスとは久しぶりに再会したようであった。
おれはそんな二人の大男たちに視線を向ける。
すると、彼らもまたおれの方を凝視して何か考えごとをしているようであった。
二人の魔族たちにマジマジと見つめられるプレッシャーはおれには耐え難いものであった。
思わず、すぐに視線をアイシスの方へと逸らしてしまう。
すると、そんなおれに対して彼女はこれからのことを語るのであった。
「アベル様、私はこの方々と話さねばならないことがあります。申し訳ないのですが、ヴェルデバラン様のところへ、お一人で向かってもらえないでしょうか」
ヴェルデバランのもとに一人で向かう……?
えっ、ヴェルデバランってまだ生きているんだっけか?
てか、身体を休めるんじゃなかったのかよ!
突然のアイシスの発言におれは色々と思考を巡らせる。
確か、アイシスの話では魔王ヴェルデバランは既に死んでいて、その死は国民たちは知らず、配下たちの間でも一部しか知られていなかったはずだ。
つまり、ここにいるゼシウスさんやウェインたちは魔王ヴェルデバランの死を知らない。
だからこそ、死を隠すためにこのような発言をしているのか?
いや、だが本当に死んでいるのなら、どうして魔王ヴェルデバランにおれ一人で会いに行けなんて話になるんだ?
じゃあ、アイシスの話はやっぱり嘘で、魔王ヴェルデバランは本当は生きているということなのか……?
そうだ、その可能性は高い。
カシアスが死に逝く直前、おれは魔王ヴェルデバランの転生者なんかじゃなく、異世界からやってきた人間なんだと素直に話した。
その時、カシアスは初めから知っていたと話していた。
つまり、魔王ヴェルデバランはまだ生きていて、カシアスやアイシスに、おれと一緒にいるよう指示を出していたと考えることができる。
どうしておれという存在に関わる必要があったのかは謎だが……。
そうして、あれこれと考えているとアイシスが再びおれに呼びかける。
「ゼシウス様と話すより先に、ヴェルデバラン様のところへ向かわれた方がよいと思われます。アベル様の為にも、ゼシウス様のためにも——」
アイシスは何か含みを持たせた言い方をする。
そんな言い方をされたら余計に気になってくる。
魔王ヴェルデバランのところに向かうと何が起こるのかと……。
すると、それを聞いていたウェインが会話に入ってくる。
「何だよ、オレやここにいるおっさんも一緒に付いていくぜ。オレたちもヴェルデバランのやつに会いたいからな!」
これにはゼシウスさんも頷いで同意を示しめいる。
しかし、そんなウェインたちの提案をアイシスはキッパリと断るのだった。
「申し訳ありません。ヴェルデバラン様からの命令で、アベル様お一人で来る様に言われておりますので、お二人は応接間の方でお控えください」
自分よりも圧倒的に目上の存在である二人に対して、彼女は毅然として振る舞う。
すると、二人は残念がりながらも納得せざるを得ないのであった。
「ちぇっ、仕方ねぇな。アイツは昔から自分の意見は絶対に突き通すヤツだからな。ダメって言ったら何を言っても無駄だよな」
「ふっ……そうだな。あの男はそう言う男だ」
話を聞いていると、どうやら魔王ヴェルデバランは自分の意見を曲げない堅物のようだ。
そんな堅物でも、嫌われているような様子はなく、むしろ愛されている雰囲気すらある。
「途中までは私が案内しますので、あのお方にお会いになってきてください」
アイシスは温かい眼差しをおれに向け、そう言葉を投げかけるのであった。
「クソッ……。あの野郎、なんで俺に黙ってたんだよ」
そんなおれたちを他所目に、金髪の男は悔しそうなにしながらそう地面を蹴り上げていた。
◇◇◇
サラたち、そして二人の大男たちと別れたおれは、アイシスに連れられるがままに魔王城の中へと入っていく。
アイシスの後ろを付いていき、地下へ地下へと向かうのであった。
そして——。
「ここから先へは一人で向かってください」
突如として、彼女は立ち止まりおれにそう告げる。
目の前には、地下深くへと繋がっているであろう漆黒の階段がどこまでも続いていた。
奥を覗き込んだが、灯りは闇に呑まれており先は全く見えない。
そんな暗闇におれは一人放り出されてしまう。
「わかった……」
おれはアイシスを信頼している。
だからこそ、彼女の言葉を信じて魔王ヴェルデバランに会いに行くことにした。
そして、長いながい階段を下りていく。
階段の端には僅かな灯りがあることで、踏みはずしてしまうようなことはない。
しかし、まるで変わらない景色を見続けていることで、しばらくすると頭が混乱してきそうになった。
だが、なんとか気を保ち遂に最深部へとたどり着く。
階段を降りきった最深部は、広大な空間が広がっており、目の前には大きな大きな扉があった。
そこには何やら不思議な紋章が刻まれている。
ここがゴールなのか……?
だが、どこに魔王ヴェルデバランはいるんだ?
おれはそんなことを考えていた。
すると、そんなおれの思考を読み取ったのかどこからともなく声が聴こえてくる。
『ようこそ、アベル。私のもとへ……』
男の優しい声が広い空間に響き渡った。
突然の出来事におれは驚き、身体がビクッとしてしまう。
だが、この優しい声から敵意などを感じることはなかったため、冷静になっておれは声の主に向かって呼びかけるのであった。
「お前が魔王ヴェルデバランか……?」
おれの声が辺りに響き渡る。
そして、反響してこだまする。
扉の奥に何者かが潜んでいる。
扉越しにでも十分にわかる。
この奥にいるバケモノの凄まじい魔力。
今まで出会ってきたどんなやつよりもこいつは強い……。
すると、しばらくして目の前にある巨大な門の奥から再び声が聴こえてくるのであった。
『いいや、違う。ヴェルデバランは千年前に死んでいる……』
声の主はそう語るのだった——。




