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323話 託される希望(1)

  やりきった……。



  すべての力を出し切ったおれとカシアスは魂の結合が解け、自然と融合(シンクロ)が解除される。

  二人とも地面に倒れ込むように膝をつき、息を切らしてしまう。


  おれたちとユリウスの戦いは熾烈を極め、大地は大きく抉れ、視界一帯は更地と化した。

  特に、互いすべてを懸けた最後の一撃同士によるぶつかり合いは、広範囲の地形を変えてしまうほどの威力であった。


  あぁ……もうこれ以上は身体が動かない。


  それほどまでに、おれたちは疲弊しきっていた——。



  そんなおれたちのもとへ、ユリウスがゆっくりと歩いてやってくる。


  まだ奴は戦う気力が残っているのか……?


  そう思いはしたが、彼の様子を見る限りどうやら違うようだ。

  そして、ボロボロの姿となった彼はおれたちの前で立ち止まると、渇いた声で告げるのであった——。


  「お前たちの勝ちだ……。敗れたにもかかわらず、不思議と悪い気はしない。ようやく、この悪夢から目覚めることができるからかもな……」


  ユリウスは自身の負けを認め、おれたちにそう語るのだった。


  あまりにも、あっさりと敗北を宣言する彼に、おれは不信感を持つ。

  あれほどまでに、おれたちを否定してきたやつが、こうも簡単に諦めてしまうものなのだろうか?


  そこで、おれは思いきって彼に問いかけてみるのであった。


  「いいのか……? 今なら、まだおれたちを殺せるんだぞ」


  おれは恐るおそるそう尋ねてみる。

  もしかしたら、これはおれたちを油断させる作戦なのかもしれない。

  そうも考えられるからだ。


  だが、そんなおれの心配は杞憂に終わる——。


  「俺は負けたんだ。この身体から魔力が抜けていることが、それを示している。もう、決着はついたんだ……」


  そう語るユリウスの身体からは、確かに光の粒が少しずつ周囲へと拡散するように天へと舞っていく。

  悪魔であるユリウスの身体はもうじき崩壊し、彼には死が訪れるということを意味している。


  そして、彼はその運命を素直に受け入れているようであった。

  今まで見たことのない、満足したような顔つきで彼はそう語るのであった——。



  それと、これはおれの気のせいなのかもしれないが、ユリウスから拡散した魔力の一部がカシアスのもとへと流れているように見えた。

  まるで、迷子となった飼い犬が飼い主を見つけ、喜んで胸へと飛び込むようにと、魔力がカシアスを目がけて流れ込んでいくのであった——。



  そんなカシアスに対して、ユリウスは話しかけづらそうにしながらも、重い口を開いて言葉を投げかける。


  「カシアス、お前の勝ちだ……。ずっと、俺のことを憎んでいたのだろう。よかったな、あいつらの(かたき)が取れて——」


  ユリウスは(うつむ)くカシアスを見下ろすようにして、静かにそうつぶやくのであった。

  そして、それだけを言うとこの場を立ち去ろうとする。



  だが——。



  それを聞いたカシアスは、ぼろぼろとなったその身体でゆっくりと立ち上がるとユリウスに向かい合う。

  そして、真剣な顔つきで彼に呼びかけるのであった——。


  「それよりも……。今、貴方に言っておかなければならないことがあります」


  「なんだ、今さら謝れとでも言うのか? そんなことしても、あいつらは……」


  そして、カシアスはユリウスの胸に拳を当て、彼の言葉を遮ると、自分の想いを吐露するのであった——。


  「どうして、共に闘わせてくれなかったんだ。どうして、あのときおれを頼ってくれなかったんだよ……!」


  カシアスはユリウスに対して、つらそうな表情でそう問いかける。


  もしも、かつてユリウスが違う選択をしていれば、この二人の関係も別の形であったはずだ。

  それこそ、殺し合うような敵としてではない別の形が……。


  しかし、もう戻りはしない時間を思うと、残酷な運命に囚われた二人の悪魔を、おれは悲しく思うのであった。


  「もしも、ユリウスがおれを本当に弟だと思ってくれていたのなら、頼って欲しかったはずだ……! 一人で抱え込んで欲しくなんてなかった……」


  「きっと、かつての私ならばそう言うはずです——」


  すると、この言葉にユリウスは何か気づいたような仕草を見せる。


  それから、カシアスに申し訳なさそうにして謝るのであった。


  「あぁ……そうだよな。お前の言う通りだよ」


  「だけど、そんな簡単なことに気づけないほど、おれは愚かだったんだ。すまなかった、弟よ……」


  それはやっとの思いで出た、彼の重い言葉であった。


  そして、ユリウスはそっと静かにカシアスを抱きしめる。



  「大きくなったな……。それと……強くなったな……。やはりお前は自慢の弟だ……」



  ユリウスの瞳からは涙が溢れ出す。



  これまで背負ってきた十字架の一つを、彼はようやく下ろすことができたようだ。



  そして、二人の間には温かく穏やかな時間が流れるのであった——。




  ◇◇◇




  しばらくすると、ユリウスはカシアスを離して、おれの所へとやってくる。



  既にその肉体は透けており、向こう側の景色が見えてしまっている。

  彼が今世に留まることができるのも、あと僅かな時間だけなのだろう。


  そして、そんな彼は最後に剣を交えて戦ったおれに希望を託すのであった——。



  「(もろ)き器に不屈の心を持つ者よ。お前には未来がある。その夢を追う権利がある」


  「今はまだ未熟かもしれないが、お前はこの世界を変えられる可能性を秘めている。そのことを胸に刻むのだ。そして、俺のようには決してなるな……」


  「残念ながら、俺には未来がない、希望がない。これから歩む先には道がない」



  ユリウスは拳を握り締め、悔しそうにしておれにそう語る。



  「だからこそ、お前に託したい。俺が叶えたかった理想を——。この世界の未来を——。それから、大切な弟のことを——」



  「そして、願わくば今度転生した未来の先では、お前たちに協力させてくれ。もう決して、俺は大切なモノを見誤ることはしないから……」



  それだけを言うと、ユリウスの姿が消えるように一気に薄くなる。

 


  「任せろ、ユリウス! お前の意志、しっかりとおれが受けとった」



  消えかける男に対して、おれは大きな声でそう応えるのであった。

  すると、彼は満足そうに優しい笑みを浮かべるのだった。



  「カシアス——」



  ユリウスは最後の力を振り絞り、最愛の弟に呼びかける。



  「今度こそ、二人でなろうな。最強のタッグに——。おれもお前に負けないように頑張るからさ」



  そして、ユリウスの肉体は光の粒となって完全にかき消えてしまう。



  こうして、おれたちの闘いは終わりを告げるのであった——。

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