306話 ユリウスの過去(2)
更新でエピソード内容の追加をしました。
生まれてからずっと孤独だったおれを、上位悪魔のグスタフとユリアンが解放してくれた。
彼らはおれを『コミュニティ』と呼ばれる悪魔たちのグループに迎え入れてくれたのだった。
そこでおれは家族のようなぬくもりを感じて日々を過ごすことになる。
『コミュニティ』というのは、魔界において悪魔たちが形成する独自の集団の名称のことである。
それは悪魔たち10人にも満たない小さなものであり、そのうち上位悪魔が2人から4人ほどを占めているらしい。
ちなみに上位悪魔とは、悪魔たちの中でも選りすぐりの能力と群を抜いた魔力を持つ者たちのことだそうだ。
おれを迎え入れてくれたコミュニティの上位悪魔は2人で、あご髭が特徴的なおっさんのグスタフと、銀髪の縮れ毛をしている少年のユリアンであった。
そして、彼ら2人とおれを含めた5人の一介の悪魔たちとの計7人でおれたちはコミュニティを形成していた。
そこで、おれは生きる上で必要なこの世界での知識について教えてもらうのであった——。
◇◇◇
コミュニティに所属しているメリットとして、命の危険がなくなるというのがある。
この魔界では強力な魔物たちが各地に生息しているため、生まれたばかりの悪魔が生き抜くには環境が厳し過ぎる。
しかし、そんな世界であってもコミュニティにさえ属していれば安心して毎日を送ることができる。
それは決して、コミュニティに属していれば魔物たちに襲われなくなるということではない。
コミュニティを率いている上位悪魔たちが武力を以ってして、襲いくる強力な魔物たちを倒してくれるのだ。
それほどまでに上位悪魔というのは強く、そしてカッコ良かった……。
今まで逃げまわることしかできなかった魔物たちを相手に、グスタフやユリアンが転移魔法と攻撃魔法を駆使して薙ぎ倒していく。
上位悪魔である彼らの姿を、おれは憧れの眼差しで日々見つめているのであった……。
そして、コミュニティに属する利点はそれだけでない。
多くの悪魔たちと一緒に生活することで、この世界の知識をどんどんと吸収することができるのだ。
それは生活の知恵などだけではなく、魔族や魔物について、それから魔法や魔術について、おれは多くの知識をコミュニティの悪魔たちから教えてもらうのだった。
そしてその日も、上位悪魔であるユリアンがこの魔界に蔓延る魔物について教えてくれていた——。
「ユリウス、お前はまず魔力を隠すことから学ばないとな。それでは魔物たちにおれを食ってくれと言っているようなものだぞ」
ユリアンはいつもように、落ち着いた様子でおれにそう語る。
だが、言葉の内容は魔物のエサにされてしまうという恐ろしいものであった。
「魔力を隠す……?」
おれはユリアンの言葉の意味を理解できずにそう尋ね返す。
「そうだ。おれたちは体内から体外に向けて魔力を放射している状態にある。輻射魔力というやつだ。だが、その放射は訓練さえすれば、だれでも抑えられるようになる」
なるほど!
おれは無意識のうちに、魔力を放っていたということなのか。
ユリアンの説明を受けて、おれは納得する。
魔物たちは魔力を感知する能力があり、魔力を含む生き物を捕食する習性があるという。
つまり、おれは魔力を抑えることを知らなかったからこそ、生まれてからずっと魔物たちに追われる生活をしていたというわけだったのだ。
そして、そうと分かれば話は早い。
「ユリアン、おれにやり方を教えてくれないか!」
このように、おれはユリアンたちにこの世界で生きていくためのノウハウについて日々学んでいくのであった。
そして、その中でも特におれは魔法について積極的に学んでいた。
それは魔物たちからコミュニティの仲間を守るユリアンたちの姿に憧れていたからかもしれない——。
◇◇◇
そして、グスタフやユリアンから攻撃魔法を習いはじめてから、おれはぐんぐんと頭角を現すようになる。
これにはおれに指導してくれている彼らもかなり驚いていたようだ。
ある日、攻撃魔法の指導をしてくれていたユリアンがおれの攻撃魔法を見るなり関心して声を漏らす。
「どうやら、お前は雷属性魔法が得意のようだな。スキルも持っているようだし、それを極めれば上位悪魔になるための条件は満たすだろう」
どちらかというと、ひとりごとに近い小声であった。
しかし、おれはそれを聞き逃すことはなく、思わずユリアンの言葉に反応する。
「本当か……? おれが上位悪魔になれるのか!? ダグラスやユリアンのように、コミュニティを持つことができるのか!?」
おれの食いつきをみて、ユリアンは少し驚いてしまったようで、体を少し背にそらしてしまう。
そして、おれの疑問に対してはっきりと答えてくれるのであった。
「そうだ。もちろん、今以上に努力は必要だがな」
「そっか……。おれ、がんばるよ!!」
思わず笑みをこぼしながら、おれはそう宣言する。
だが、この会話を聞いていたグスタフはこれに勘違いをしてしまったようだった。
「なんだ……? ユリウスは早く俺たちから独立したいと思ってたのか」
さみしそうな表情でおれを見つめる。
見かけには依らず、グスタフはコミュニティ内のつながりに熱い男だ。
おれが上位悪魔となって、新しいコミュニティを立ち上げるために巣立ってしまうとでも考えたのだろうか。
そんな質問をおれに投げかけてきた。
おれはそんなグスタフの誤解を解くために、はっきりと否定するのであった。
「そんなことはない! ただ、おれは二人のように仲間を守れる悪魔になりたいんだ!!」
かつて、生きる希望も幸せも見出せなかったおれを救ってくれた上位悪魔という存在。
一人孤独にこの世界に放り出されたおれを家族のように迎え入れてくれたコミュニティという存在。
おれはそんな彼らに感謝していたし、憧れていた。
だからこそ、おれも上位悪魔になれるのなら努力したいと思ったんだ。
「そうか……。お前はそんなことを思っていたんだな」
おれの言葉を聞き、グスタフは嬉しそうに語る。
そうして、グスタフやユリアンに支えられながら、おれは本格的に魔法の訓練をはじめる。
そして、気づけば数十年の月日が経っていたのであった——。
◇◇◇
グスタフやユリアンたちと出会い、彼らと生活するようになってから数十年——。
シエラという新しい少女の悪魔がコミュニティに加わり、より賑やかな生活を送っていたある日のことだ。
おれは悪魔のような長い寿命を持つ者でも、人生に一度見ることができるかできないかというような奇跡の瞬間に立ち会うことになる。
「なぁ、これって……」
おれは隣にいるグスタフとユリアンに問いかける。
すると、グスタフが興味深そうな声で答えるのだった。
「そうだ。精霊体が生まれる瞬間だな」
おれたちコミュニティは、生まれてから一人で密かに隠れて生きている、力のない悪魔たちを保護することを目的として旅をしている。
そして、そんな旅の中で、いつものようにはぐれている悪魔を探しているときであった。
おれは暖かい光に包まれた不思議な魔力の塊を見つけ、グスタフたちに報告しに行くことにする。
それから、連れてきた彼らとその魔力の塊をじっくりと観察するのだった。
よく見ていれば、少しずつその魔力の塊を大きくなっていく。
暖かい光で包まれたその球体に、次々と魔力の波動が吸い込まれていくようであった。
段々と魔力が悪魔の姿をかたどっていき……。
そして、しばらく時間が経つと、白い光に包まれていた中から、一人の少年が姿を現す。
ここに新たな悪魔が誕生したのであった——。
綺麗な銀色の短髪と銀翼をもった彼は、目の前で興味深く視線を送るおれたち3人を見つけるなり声をかけてくる。
「お前たちは……何者なのだ……?」
少年は静かにおれたちにそう尋ねてくる。
生まれた瞬間に、3人の悪魔に見つめられているのだ。
彼としても、この状況は理解できないものであろう。
そんな少年に対し、おれは明るく答えることにする。
「おれたちはな、お前の家族だ! おれはユリウス、こっちはユリアンとグスタフだ!」
おれは生まれたばかりと少年の悪魔にそう語りかける。
もしも、このまま放置してしまえば、彼はすぐに魔物のエサとなってしまうだろう。
だからこそ、おれたちはこの少年をコミュニティに迎え入れて保護する義務があるのだ。
「ユリウス……。ユリアンにグスタフ……?」
少年はおれたちを見つめ、先ほどのおれの言葉を繰り返すようにそうつぶやく。
「そうだ。お前の名前も教えてくれ」
おれがそう呼びかけると少年はゆっくりと頷き、そして答えるのであった。
「おれはカシアス……。悪魔カシアスだ」
「そっか、カシアスっていうのか! これからよろしくな」
おれはカシアスに対し、優しく笑顔でそう呼びかける。
カシアスもそんなおれに対して、まっすぐと信頼のまなざしで応えてくれるのであった。
こうして、おれはカシアスという少年の悪魔と神秘的な出会いをして、これから一緒に暮らしていくことになる。
そして、この出会いがおれたちのコミュニティを崩壊させてしまうことになるとは、この時この場にいるだれも予想することはできないのであった——。




