304話 ユリウス vs アベル(3)
《天雷の悪魔》ユリウスとの剣を交えたぶつかり合いがはじまる。
ユリウスはその圧倒的な保有魔力を武器に、おれの前に立ちはだかる。
そんな最大の宿敵を相手に、おれは《聖剣ヴァルアレフ》を片手に立ち向かっていくのであった——。
「うぉぉおおおお!!!!」
転移魔法を駆使して、おれはユリウスに襲いかかる。
しかし、ユリウスは瞬時におれの位置を捉え、攻撃を予測してそれを防ぐ。
それも、やつはその場から一歩たりとも動くことなく、おれの攻撃を全て防ぎ切るのであった。
あまりにも開き過ぎている実力差に、おれの心が折れそうになってしまう。
精霊体相手に圧倒的な効力を誇る聖剣を使っているのにも関わらず、ユリウスは涼しい顔で黄金に輝く魔剣で振り払うのであった。
魔界最強の魔王ユリウスを前に剣術、魔法ともに歯が立たない。
これではカシアスは救えない……。
それにユリウスは精霊王ゼシウスさんの魔王国や、魔王ヴェルデバランの魔王国などにも攻め行っているようだ。
このままでは、魔界や下界の未来も危ない。
女神さまが言っていたように、僅かにでもおれにユリウスを倒せる可能性があるのなら、ここで食い止めないだ。
だが、可能性といってもそれは限りなくゼロに等しいもの……。
結局、おれ一人ではどうすることもできそうもないのであった。
「以前、忠告しておいたはずだ。お前の理想を叶える為には力がいる。知識がいる。覚悟がいると——。それらの条件を満たして、ようやく理想を追う資格が与えられるのだ」
決して届くことのない剣をひたすらに振るうおれを見て、ユリウスはそうつぶやく。
「それなのにお前というやつは現実を見ようとはせず、感情論で人を助けたい、苦しんで欲しくないと喚いている。所詮、そんな感情は《不完全な魂》に依るものでしかないというのにだ——」
そうだ……。
以前、おれはユリウスに教えてもらった。
《不完全な魂》という存在について——。
それはおれたちの肉体に宿る不完全な魂を持つ者を指す言葉であり、それらの魂は例外なく何かしらの呪いにかけられているというものだ。
そして、おれの場合は人助けをしたいという呪い——。
目の前で困っている人がいれば、助けたいと思ってしまうというものだとユリウスは語っていた。
「お前は言っていたな。戦う理由があるのだと——。そして、その理想を実現させる方法は必ずあるのだと——。どうだ? 俺に辿り着く前にそれらを見つけることはできたのか」
ユリウスはおれを攻撃を払いながらそう尋ねてくる。
しかし、やつの態度を見る限りおれの答えに期待しているという様子はなく、ダメ元で問いかけてきているようであった。
おれは必死にユリウスが放つ高魔力の中で活動しているだけでも手一杯であり、やつの質問に答える余裕などない状態だ。
そして、ついに身体が限界を迎えて聖剣が右手からこぼれ落ちてしまう。
「はぁ……。はぁ……」
自分で認識できていなかったが、息が上がってしまっていたようだ。
落としてしまった聖剣を拾おうするが立ち上がることができない。
そんなおれの姿を見たユリウスはあきれた様子で言葉を投げかけてきた。
「あの時から何も変わっていないようだな……。期待はずれにも程がある。もしかしたらと、多少は思っていたのだがな」
そして、これまで受けに徹していたユリウスが攻めてくる。
その黄金に輝く魔剣を持ってして、おれに襲いかかるのであった。
おれはすかさず聖剣を手に取って防ごうとするが、ボロボロの状態のおれにやつの攻撃が止められるはずもない。
醜い姿を見せながら、おれは吹き飛ばされてしまうのだった。
「これが現実だ。理想を言葉にしているだけのやつに成し遂げられるものなど何ひとつとしてない。所詮、お前は呪いに縛られているだけの人形に他ならないのだ」
人形だと……?
違う……。
おれは心から思ったんだ。
自分の意思で、自分の気持ちでそう思ったんだ……!
そして、おれはゆっくりと立ち上がる。
「そんなことは……ない! 絶対に、違う!!」
そうして、おれは最後の力を振り絞って転移魔法を発動する。
そして、おれは聖剣に力を込めて振り抜くのであった——。
「おれは戦う理由を見つけたんだ……! 」
「おれ自身が多くの人に支えられてきた。だから、おれもそうなりたい。大切な人たちの——。大切な仲間たちの助けになりたいんだ!!」
この世界に転生して、多くの人たちの善意に救われておれはここまでやってきた。
だから、その時に受けた気持ちを忘れないように——。
そして、同じようにおれも他のだれかを救えるように——。
そう思うから、おれは仲間のために戦うんだ。
そう思えたから、おれは知らないだれかのために戦えるんだ。
再び立ち上がったおれを見て、ユリウスは一瞬だけ表情が固まる。
しかし、隙をみせることはなく冷静におれの一撃を防ぐのであった。
そして、やつはおれに対してはっきりと告げる——。
「それがお前の答えか? 実にくだらないな」
「なんだと……」
おれは両手に握りしめた聖剣をガクガクを震わせながらユリウスに抵抗していた。
一方、ユリウスは余裕のある様子でおれに語りかける。
「行き過ぎた善意による善とは、悪意なき悪と等しいのだ。そんなもの、所詮お前の自己満足に過ぎない。他者からしたら、迷惑でしかないことがほとんどだ」
「そんなことない!」
おれはユリウスの意見を正面から否定する。
だが、そんなおれに対してやつはすかさず反論するのであった。
「そんなことはない……? 現に、今この状況が答えそのものではないか。お前はカシアスを助けにきたのだろう? だが、果たしてそれはカシアスが願っていたことなのか?」
「なっ……」
おれは言葉に詰まってしまう。
「カシアスはお前に助けに来て欲しいなど、思っていなかったはずだ。それに、お前が来たせいで余計に傷つくことになったではないか」
おれをユリウスの攻撃からかばい、黒焦げになって倒れ込んでいるカシアスを見て心が揺れる。
おれがここに来たのは間違いだったのではないかと……。
それにカシアスはリノたちにおれの事を任せていた。
おれの事を第一に考えて、安全に人間界へ逃げられるようにと行動してくれていたんだ。
そして、ユリウスは静かに告げるのであった。
「言葉で告げてもわからないようならば教えてやろう。かつて、今のお前と同じような思想を持ち、理想を追い求めた男が辿り着いた境地をな——」
ユリウスは魔剣を持たない左手でおれの頭を掴むのであった。
子どもの頭を掴むなど造作もないことだ。
おれはいとも簡単に宙ぶらりんとなる。
「やめろ……! 何を——っ!?」
必死に抵抗するがどう足掻いても抜け出すことはできない。
そして、ユリウスはおれの頭を掴んだその手で電撃を放つのであった。
おれの視界は一瞬にして光に覆い包まれる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
鋭い痛みと共に、おれの脳内に膨大な記憶が流れ込んでくる。
それはかつて理想を信じて追い求め、そして裏切られた一人の男の記憶であった——。




