183話 ヴァレンシア=ローレン(1)
魔法のように突然現れたヴァレンシアからの使者たち。
この者たちはヴァレンシアがサラを屋敷に招待しているとおれたちに伝え、迎えに来たという。
そして、ヴァレンシアが待つ屋敷に行くことを嫌がるサラではあったが、カシアスたちがヴァレンシアを怪しんでいるようだったので、おれたちで彼女を調べるために向かうことにしたのだった。
おれたちを乗せた馬車は街道を抜け、森の中へと入る。
森の中は地面の整備がそれほどされていないこともあり、時折ガタガタと車内を揺らしていた。
馬車の中にいるのはおれとサラとカシアス。
アイシスは用事があるからとエトワール・ハウスで別れる事になった。
部外者が車内にはいないということで、おれたちは本音でこの事態について話すことができた。
「それで、お前はどうしてサラの居場所がバレたと思っているんだ?」
おれはカシアスに尋ねる。
おれたちを迎えに来た使者たちに一応質問はしてみたが、彼らは誰も知らないと答えていた。
ヴァレンシアからはエトワール・ハウスにサラがいるから行けと言われたそうだ。
ますます怪しい。
この事を聞いて、サラもヴァレンシアを怪しみ出したようだった。
「そうね、貴方たちが何か知っている事があるのなら教えてちょうだい。あと、アイシスがいなくなったのはこの事に関係しているの?」
サラもカシアスに尋ねる。
どうやら、サラはアイシスが用事があると言っていなくなったことも、これに関係していると思っているみたいだ。
「関係あると言えば関係ありますし、関係ないと言えば関係ありませんね」
カシアスは曖昧な言葉にアイシスの事を濁して答える。
おれとしてはアイシスが全く関係のない用事に向かったと思っていただけに驚きだ。
うーん、だけどそう言われると気になるな。
でも、カシアスがこう曖昧に答えているってことは聞いても教えてくれないんだろうな……。
「どうしてヴァレンシアがセアラ様の情報を持っていたのか。彼女が人間であるということを考えれば、その手段はおのずと絞られてきます……」
カシアスは今の事態を冷静に分析してそれを語る。
確かに、ヴァレンシアがただの人間である以上、転移魔法だの思考誘導だのチートみたいな魔法を使ってサラの情報を手に入れたとは思えない。
おれだって、ルクスさんがヴァレンシアに情報を漏らしたことくらいしか思いつかなかったもんな。
まぁ、ルクスさんも彼女に対して苦手意識があるみたいだし、そんなことはないと思うが……。
「セアラ様の事を監視していてヴァレンシアに伝えている者がいるということです。そして、私もアイシスもその者の検討はついています」
どうやら、カシアスたちはサラを監視してヴァレンシアに情報を流している者の正体を知っているようだ。
おれはこの言葉から考える。
カシアスやアイシスが知っている者。
それに、おれたちに気づかれずにサラを監視できる者なんて……。
おれの中で一つの答えが出る。
「もしかして、上位悪魔……。いや、十傑の悪魔がヴァレンシアと繋がっているとでもいうのか!?」
おれはカシアスに問いかける。
誠には信じられないが、そんな可能性があるのか?
そして、カシアスがおれの問いに答える。
「はい、少なくとも上位悪魔はいるだろうと私とアイシスは考えています。そうでなければ説明がつかないとは思いませんか?」
カシアスは不気味な笑みを溢す。
いやいや、いくらなんでもそれはないんじゃないか?
なんで、上位悪魔や十傑がヴァレンシアと繋がっているんだよ。
悪魔たちからしたらメリットなんて何一つないじゃないか!
十傑たちの狙いは人間界を裏から支配することではないのか?
少なくともおれはそう考えている。
そう考えるとセルフィーと十傑が繋がっていた理由はわかる。
ゼノシア大陸という一つの大陸の冒険者ギルドを支配することは意味がありそうだ。
それにダリオスと十傑が繋がっていたことも理解できる。
カルア王国という世界有数の大国を支配することも意味がありそうだからな。
だが、エウレス共和国の一つの領地でしかないローレン領を支配する意味などわからない。
もっと重要な拠点など人間界には数多く存在するはずだ。
それに、どうせ支配するのならテスラ領やベルデン領の方が国力もあるんだし、ローレン領の支配にこだわる理由がわからない。
おれはヴァレンシアと上位悪魔が繋がっているとはなかなか信じられなかった。
「可能性としてはどれくらいなの?」
サラがカシアスに尋ねる。
「50パーセント……。いや、もしかしたら30パーセントくらいかもしれませんね」
適当に答えるカシアス。
おいおい、なんだよそれ。
しっかりしてくれよ!
それを聞いてサラもあきれる。
「はぁ……。まぁ、いいわ。直接合えばわかるんですもの!」
サラの瞳に闘志のようなものが宿る。
仮に上位悪魔がいたところで、こちらにカシアスがいてくれるのなら心配することもあるまい。
安心していられるな。
そして、その後もおれたちは馬車に揺られローレン家の屋敷へと到着したのであった。
◇◇◇
長らく揺れ続けていた馬車がピタリと止まり、窓からは屋敷らしきものが見える。
やっと着いたみたいだな。
2時間以上は馬車に乗っていた気がするぞ?
一度も休憩を挟まずに走り続けた事を考えれば、エトワールさんたちの孤児院とは随分と離れているということか。
外から馬車の扉が開けられ、ここまで護衛をしてくれていた騎士たちに出迎えられる。
「皆さま、到着しました。こちらがカイル様も長年暮らしていた、領主ヴァレンシア様の屋敷でございます」
これがローレン領、領主の屋敷か。
シンプルな西洋風の豪華な家のようだな。
だが、王国の貴族たちの屋敷ほど華やかでもなければ大きくもない。
それによく見るとおれが幼少期に過ごしていた家に似ているな。
もしかしたら、カイル父さんやハンナ母さんはこの屋敷をモチーフにして家を建てたのかもしれない。
「それでは、我々が案内致します」
ノイッシュという顔の細長い男がおれたちを屋敷の中へと案内する。
自然豊かな中庭、綺麗な澄んだ水が流れる噴水、それに七英雄を描いたものと思われる絵画が飾られた廊下。
かつてはここでカイル父さんやハンナ母さんが過ごしたと考えると感慨深いものを感じるな。
おれは特に不快感もなく、現時点ではここに来ていることに満足していた。
どうやら、それはサラに関しても同じだったようだ。
あまり表立った態度には出さないが、興味ありげに辺りを見渡している。
まったく、ほんと素直じゃないんだから。
そんな風に案内されていたおれたちだが、最終的には一つの扉の前に連れてこられた。
「こちらで領主ヴァレンシア様がお待ちです。それでは、どうぞ」
ノイッシュはそう言って扉を開き、応接間へとおれたちを案内する。
応接間はそれなりに広く、十人以上の来客にも対応できそうだった。
中央のテーブルに座る一人の老婆。
その後ろには魔導師と思われる男たちが複数人。
彼らはおれたちがやって来たことに気づく。
そして、老婆はゆっくりと立ち上がっておれたちに会釈する。
「おかえりなさい、我が愛しき孫娘セアラ。やっと帰ってきてくれたのね」
老婆はそう言って、おれたちを出迎えたのであった。
お知らせです。
作者考察第4弾 『精霊リノ』についてを書きました。
Twitterで投稿したのでよかったら見てくださいね。
https://twitter.com/taketori_okina2/status/1246342135499984896?s=21




