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164話 馬車での談話(1)

  おれたちはエウレス共和国を目指して走る馬車の中で揺られていた。

  これから久しぶりにエウレス共和国のテスラ領へと行くのだ!


  初めての旅行ということもあり、おれは珍しくテンションが上がっていた。

  まぁ、馬車の旅というのは途中までで、人目がなくなったら転移魔法で一気に現地へと向かうことになるんだけどね。


  しかし、馬車の中は広々としていてゆったりとできるものの実にカオスな状況だった……。


  おれの隣に座るのはサラ。

  そして向かい側には人間の姿をしたアイシスとカシアスが座っていた。



  気まずい……。



  おれとしても何か変な気まずさがある。


  アイシスは4年間も一緒に過ごしていたが、カシアスと長く過ごすのは初めてなのだ。

  契約しているとはいえ、まだ数度しか直接会ったことがない。


  契約しているからこそ定期的に念話はしているのだがその時に何を話していいのかわからない。

  結局、業務連絡のようにアイシスにこんなことを教わったとか、どんなことができるようになったかなどをおれが一方的に話しているのだ。

  そういえば、カシアスがどんな人物なのかよく知らないな。


  おれがコミュ障なこともあり、馬車の中は静寂に包まれていて、馬たちが地面を駆ける音だけが聞こえていたのだった……。


  おれは早くこの時間が過ぎないかと窓から外を眺めていた。

  そして、建物が少なくなって人だかりも少なくなっていくのを一人で観察していた。


  そんな事をしていると、隣にいたサラが話題を切り出す。


  「そういえば、カシアスが人間界に居続けるなんて珍しいわね」


  静かに足を組んで座るカシアスに話しかけるサラ。

  この発言は捉えようによっては『お前はいつまで人間界にいるつもりなんだ』とも取れる。


  カシアスは一応魔王なのだ。

  親しくもない魔王に対し、物怖じせずに話しかけるサラにおれは驚いた。


  そんなサラの質問にカシアスは優しく答える。


  「今までは魔王としての仕事が忙しかったですからね。魔界からなかなか離れることができませんでした。現在はリノ様が私の仕事を代わりに引き受けてくれていますので、それで私が人間界にいられるというわけです」


  どうやらカシアスは仕事をリノに任せて人間界に来ているらしい。

  魔王の仕事がどんなものなのかはよく分からんが、優秀なリノならカシアスの代わりが務まるのだろう。

  おれは一人で納得する。


  すると、サラはそんなカシアスの答えに対して切り込む。


  「じゃあ、リノが人間界に来れないのは貴方のせいでもあるのね」


  ちょっと、セアラさん!?

  カシアスに対して何てことを言ってるんですか!!


  おれは声に出さないものの、サラの言動に驚き戸惑っている。

  言われた方のカシアスも少し驚いているようだった。


  「確かに、そのことに関しては否定できませんね……」


  苦笑いで答えるカシアス。


  おれはカシアスが穏やかそうにしているのを見て安心する。

  もしもカシアスが人間界で語られているような悪魔だったら、サラは命が千個あっても足りないだろう。


  おれはとっさに話題を変えることにした。

  このままサラに喋らせていたらおれの寿命が縮んでしまいそうだ。


  「そういえばカシアス。おれに力を与えることはできるのか? ほら、マルチェロとかがやっていたみたいに!」


  おれは前からカシアスに聞いてみたかったことを尋ねてみる。


  サラが誘拐されたあの日、おれたちは悪魔に力を与えられたと思われる者たちと戦った。

  ケビンにアリエル、そしてレイにダリオスだ。


  この4年間で魔界からやってきた魔族や悪魔と戦う機会が何度かあったわけだが、劣等種の人間であるおれは何度も苦戦を強いられてきた。

  その度にカシアスやアイシス、ハリスさんたちに協力してもらいながら乗り越えてきた。


  だが、悪魔から力を与えてもらえるのだとしたら、おれはもう一人で戦っていけるのかもしれない。

  今回のように誰かを犠牲にしなくとも大切な人たちを守れるのかもしれない。


  おれはカシアスに尋ねる。

  おれに力を与えられるのかということを……。


  すると、カシアスはおれの質問に答える。



  「すみません。そのように他人に力を分け与えることは我々にはできないのです……」



  おれはカシアスの回答に疑問を持つ。


  「えっ……できないの?」


  思わず聞き返してしまった。


  おれの中では他者に力を与えることができる上で、最終的にはやってくれるかやってくれないのかを知りたかった。

  しかし、カシアスはそもそもそんなことはできないと話す。


  「はい。そもそも他人に力を分け与える魔法や魔道具など見たことも聞いたこともありません。私としても今回の件は誠に信じがたい出来事なのです」


  なんと、カシアスは他者に力を与える方法など知らないと語る。

  おれはカシアスが嘘を付いているのではないかと一瞬疑うがカシアスがおれに嘘をつくメリットが思いつかない。


  そして、アイシスもこの話題に関して思うことがあったようだ。


  「仮にそのようなことが可能だったとして、どのような危険を伴うかを検証しなくてはなりません。ダリオスのようにチリとなってしまう可能性もあります。私はそのような方法がわかったとしても手を出すべきではないと思います」


  アイシスの言葉からもカシアスが嘘をついているわけではないと窺える。


  確かに、ノーリスクで力を与えられるとは限らないよな。

  そんな都合のいい話、この世界には存在しない。


  おれは砂とも土ともわからない姿となって死んでいったダリオスを思い返す。


  そして——。


  「ケビンたちは平気なのか!?」


  そういえば、ケビンたちも悪魔の手によって強化されていた。

  既に元の魔力量に戻りはしたようだが、何からの副作用や後遺症が出てくるかもしれない。

  おれは二人にケビンたちに危険がないのか尋ねる。


  もしも彼らがダリオスのようになってしまったら……。

  突然不安が襲ってくる。


  「あれから二週間、私とカシアス様でじっくりと監視をしてみましたが変わった様子はありませんでした。ケビン、アリエル、レイの三人とも健康そのものです」


  アイシスの言葉におれはひと安心する。


  もしも彼らに何かあれば、おれはしばらく眠れない夜を過ごすことになっていただろう。

  本当によかった……。


  アイシスとカシアスが二人で何かしているとは思っていたがケビンたちのことも気にかけてくれてたのか。

  ダリオスと繋がっていた貴族や学校の教師たちを調べるのも任せてしまっているし、本当に申し訳ないくらい働いてもらっているな。


  おれは改めて二人に感謝する。


  「そういえば、アベル様から預かっていた魔道具のことですが……」

 

  突然、カシアスが槍を取り出して話し出す。


  カシアスが取り出したのはマルチェロが持っていた槍の魔道具だ。

  この魔道具のせいでおれは召喚魔法を封じられてしまい、カシアスをすぐに呼び出すことができなかった。


  マルチェロが死にはしたが、この魔道具は地下都市に残っていたので回収してカシアスに渡しておいたのだ。

  これについて何かわかったのかもしれない。


  そして、カシアスが解説をしてくれる。


  「これは使い捨ての魔道具ですね。効力があるのは最初の一回のみだと思われます。ですので、解析しようと試みたのですが上手くいきませんでした」


  カシアスが残念そうな表情で解析の結果を語る。


  使い捨ての魔道具だって?

  しかも、一回しか使えないってことはあれっきりだったってことか?


  おれが発動した魔法陣にあの槍が突き挿さった瞬間、魔法陣が突然消えておれの体内に電撃のようなものが走った。

  完全に無力化された上にその痛みがトラウマでカシアスの召喚を諦めていたというのに、あのやろう……。


  「上手く騙されたということですね。一度きりしか使えない切り札の使い方としては完璧です」


  カシアスがマルチェロを称賛する。


  確かに、カシアスを呼べればおれの勝ちは確実だった。

  なんたって、カシアスは十傑の一人を無傷で倒して帰ってくるようなやつだからな。


  悔しいけど、マルチェロにしてやられたぜ。


  「それにしても、これも興味深いんですよね……。召喚魔法を無力化する魔道具というのも聞いたことがありません。どうやら、敵の中には我々の想像を超える存在が隠れているのかもしれないですね」


  槍の魔道具を眺めて語るカシアス。


  おそらく、カルア王国でダリオスと手を組んでいたユリアンはおれたちが追っている十傑の悪魔とは別の存在だ。

  おれたちが追っている十傑の悪魔はゼノシア大陸の冒険者ギルドを裏で支配していた存在。

  カシアスもアイシスも、おれたちが追っていた存在はユリアンではないと考えているようだ。


  そして、今回の戦いを通して一つわかったことがある。

  それは十傑の悪魔たちは手を組んでおれたちを潰しに来ているということ。

  そう感じられる言動が実際いくつもあった。


  カシアスたちにも理解できない強大な敵をおれたちは敵に回している。

  おれにとっては不安しかない状況だ。


  だが、おれは逃げるわけにはいかない。


  勇気を持っておれは尋ねる。

  マルチェロが語っていたとある人物について。


  「なぁ……ユリウスっていったい誰なんだ?」


  マルチェロが何度も口にしていた人物の名前。

  それを二人に尋ねてみる。


  そして、カシアスがユリウスという人物について話してくれる。



  「魔王ユリウス——。《天雷の悪魔》とも呼ばれる彼は魔王序列第1位の最上位悪魔であり、十傑たちを従える者です」



  「そして……3000年前に魔界の支配を目論(もくろ)み、上位悪魔たちの統一国家を創った反逆者です」

補足です。


カシアスは(ちから)を与える魔法も魔道具も知らないと話していましたが、力を貸し与えるという意味では一応『融合(シンクロ)』という魔法がありますね。

融合(シンクロ)は精霊体側が対象者に魔力を貸し与えるという魔法です。

よく、アベルが使っていますね。


ちなみに、融合(シンクロ)では貸し与えられる魔力量に制限があります。

融合(シンクロ)の対象者の身体が壊れ兼ねないので、精霊体側も無尽蔵に魔力を貸し与えることはできないのです。

また、契約している精霊体と融合(シンクロ)する場合は、通常の制約以上の魔力を借りることができたりします。

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