114話 ミーちゃんは見ていた
わたしの名前はミラと言います。
仲のいい子たちからは『ミーちゃん』と呼ばれたりもします。
わたしは人族の中でも獣人というこの世界では虐げられている種族です。
姿は人間みたいだけど猫みたいな特徴があります。
そんなわたしには魔法の適性があったようで、小さい頃にいろいろあってカルア中等魔術学校に入学しました。
魔術学校では周りの子たちがみんな天才ばかりでわたしは落ちこぼれていました。
そんなある日、ネルちゃんというわたしと同じミケーネ族の獣人の女の子が仲良くしてくれました。
ネルちゃんは笑顔が素敵な女の子で授業についていけなかったり、獣人であるということでいじめられたりしていたわたしを助けてくれました。
そんなネルちゃんのおかげで、わたしにも友だちができて明るい学校生活が送れるようになりました。
わたしはネルちゃんのおかげで変われました。
中等部の二年生になるとネルちゃんと別のクラスになってしまったけれど、ネルちゃんはいつまでも変わらずにわたしにとって大切な友だちだと思っていました。
でも、二年生になるとネルちゃんの悪い噂を聞くようになりました。
それは彼女が暴力沙汰に無断欠課、非行行動に走っているというものでした。
二年生のときのできた友だちたちはネルちゃんを怖がってしまっていたので、わたしもネルちゃんに近づくことはありませんでした。
そして、三年生のときに再び同じクラスとなったネルちゃんは昔とは変わって全く笑わない子になっていました。
わたしのことも避け、ネルちゃんはクラスで一人孤独に過ごしていました。
わたしはネルちゃんに声をかけたかったのに、結局一度も声をかけることもなく卒業することになってしまいました。
そして、わたしはカルア高等魔術学校の1年F組に入学しました。
なんとそこにはネルちゃんもいました。
ネルちゃんはアベルくんという外部からやってきた人間の男の子と仲良くしていました。
アベルくんといるときのネルちゃんは笑顔でした。
だけど、それはわたしの知っているネルちゃんの笑顔ではありませんでした。
きっと、ネルちゃんは心の底から笑うことを忘れてしまったのかもしれないと思いました。
でも、それはわたしの勘違いでした。
アベルくんと一緒にいることでネルちゃんは段々とわたしの知っている笑顔を取り戻していきました。
わたし、アベルくんには本当に感謝しています。
もう一度、ネルちゃんの笑顔を取り戻してくれてありがとう。
しかし、そんなアベルくんをクラスのみんなは怖がっています。
それは入学してすぐに彼が暴力事件を起こして謹慎処分になったからです。
クラスのみんなは事情を知らずにアベルくんが上級生たちに暴力を振るったと思っています。
でも、本当は違うんです!
ネルちゃんの近くにいたアベルくんを気になっていたわたしは彼の後をついて行ってしっかりと見たんです。
アベルくんが王子のアルゲーノくんにいじめられていたケビンくんを助けようとしていた場面を——。
そして、わたしたち獣人を人間と同等に扱い、獣人差別をする人間たちの悪意から救ってくれる様を——。
アベルくんは決して自分から上級生に殴りかかるようなことはしませんでした。
彼に襲いかかった上級生たちから自分の身を守るために戦っていました。
しかし、その場に駆けつけた生徒会長のレイさんはアベルくんを無実とはせずに処罰を与えることに決めました。
アベルくんは特にその事実に反抗することなく謹慎処分を受け入れたのでした。
わたしはこのことをみんなに話すべきなのか悩みました。
わたしがみんなに真実を告げたらアベルへの誤解も解けるのかもしれません。
でも、わたしは言えませんでした。
それは、クラスの男の子たちはアベルくんを嫌っているようだったからです。
アベルくんをかばったら、きっと獣人であるわたしは人間の男の子たちにいじめられる。
もう、わたしを助けてくれる子はいないのです。
今の友だちは困ったわたしを助けてくれるのでしょうか?
たぶん、人間である男の子たちを敵に回してまでわたしを本気で助けてくれる友だちなんて……。
かつて、わたしを守ってくれたネルちゃんはわたしに愛想を尽かしているはずです。
だって、彼女が悩んでいたであろうときにわたしは手を差し伸べてあげることをしなかったのだから……。
わたしは罪悪感に苛まれながら学校生活を送っていました。
そして、ある事に気づくのです。
ドーベル先生からクラスのみんなに配られた実技授業での改善点をまとめた用紙、これを作ったのはアベルくんではないのかと。
アベルくんは入学してからしばらく実技の授業には出席しているものの、机に座ってひたすら何かを書いている様子でした。
クラスのみんなはアベルくんは補習させられているも話していましたが、わたしは違うのかもしれないと思いました。
それはアベルくんをよく観察していたからかもしれません。
アベルくんは補習のようなことを多くの先生にさせられていましたが、決まってわたしたちをジッと見つめてから何かを書いているようでした。
上級生たちから身を守るために使ったアベルの魔法。
あのネルちゃんとの模擬戦で見せた剣士としての腕前。
きっと、アベルくんはすごい実力の持ち主なんです。
そして、そんなアベルがわたしたちFクラスの生徒たちと同じレベルで授業を受けるなんて無意味なのかもしれません。
それならば授業中によく寝ているのも納得ができます。
アベルくんはわたしたちFクラスのみんなのために自ら志願してアドバイスをしてくれたのでしょう。
ケビンくんを助けるために王子であるアルゲーノくんに果敢に立ち向かっていった彼なら考えられます。
本当にアベルは優しくて強くてわたしの恩人なんです。
いつもネルちゃんとアベルくんが仲良くしているのを見て、わたしはうらやましくなります。
わたしも一緒に仲良くしたい、友だちになりたい、友だちに戻りたい。
そう思っています。
でも、わたしにはそんな資格がないんです。
だって、わたしは困っていたネルちゃんを助けられなかったから。
困っているアベルくんより自分のことを優先してしまっているから。
わたしは今日も遠くから二人を見つめるだけ。
罪の意識と憧れの気持ちを持って今日も過ごします。
ネルちゃん……わたしはあなたと離れてしまったときから何も変われないままでいます。
いつかネルちゃんに『あの時はごめんね』と伝えられる日が来るのをずっと待っています。




