112話 サラの策略
「なんでおれを巻き込むんだんだよ?」
おれは廊下を歩きながらネルに尋ねる。
放課後になったのでこれから日課であるサラとの勉強会をするために自習室に向かっているのだ。
「何のこと?」
ネルは知らん顔でおれの顔をのぞき込む。
こいつ……ワザとやっているのだろうか?
「武闘会のことだよ! 出たかったのなら自分一人で出ればいいじゃないか」
ネルは無理やりおれを武闘会のメンバーに引きずり込んだのだ。
別に今となってはどっちでもいいことなのだが、彼女の行動についてしっかりと理由を聞かせて欲しかった。
「あーね。まあ、アベルと一緒がよかったんだよ! ささっ、セアラちゃんも待ってるし急ごっか!」
ネルは適当にはぐらかす。
彼女にこれ以上問い詰めても無駄なのだろう。
おれは潔く諦めることにする。
「そういえばどうしてみんな武闘会に参加しようとしなかったんだ? 別に死ぬわけじゃないんだろ?」
おれは話題を変更してネルに質問する。
武闘会は命がけでやるものだとおれは勝手に勘違いしていた。
だって剣と魔法の世界だぜ?
普通に人間が審判をやるのなら選手同士の戦いで死人が出るだろう。
その点、審判はカルア王国における伝説の精霊ハリスさんがやってくれるらしい。
ハリスさんなら選手を危険から守ってくれるだろうし命の心配はいらない。
だとしたら、いったいクラスメイトたちは何を嫌がっていたのだろうか。
「あれねー。実は普通のクラスでは武闘会の選手の立候補はけっこういるのよ! だって、ハリス様を間近で見られるし、成績次第で将来が約束される場合もあるのよ! こんなのみんな出たいに決まってる!!」
ネルは興奮して武闘会の魅力を語ってくれる。
そうだよな、進路の件もそうだが御伽噺に出てくる伝説の精霊ハリスさんに間近で会えるなんてみんなからしたら夢のようなことなのだろう。
あと、おれがハリスさんを召喚できることは黙っておかないとな。
ハリス様信者とかがいたら何をされるかわからない。
「じゃあ、なんでうちのクラスの連中はだれも出たがらないんだ?」
ネルの話では他のクラスでは武闘会とはみんな出場したい行事だという。
それにはおれも納得だ。
だからこそ、うちのクラスのみんなの行動が不思議でならない。
「みんな中等部時代に見ちゃってるからよ。Fクラスとそれ以外のクラスの実力も、待遇の差もね」
実力や待遇の差?
「武闘会の会場は第1アリーナ、入学式を行なったところね。会場の観客は二万人を超え、中等部の後輩を含め家族や親戚も観に来ることもある。そんな大舞台で最弱であるFクラスにはだーれも期待していない。みんなAクラスやBクラスが勝つのを望んでいるの」
なるほどな。
それでクラスのみんながあんなに出たくなかったのか。
ただでさえ普段から学校内の落ちこぼれと言われているんだ。
二万人もの観客たちから期待されないというのは流石に出たいとはなかなか思えない。
「観客のみんなが見たいのは選ばれし未来の英雄。賢者テオ様が創設なさった世界最高峰の魔術学校の中でも選りすぐりの魔法使いたち」
「そんな英雄たちの卵を見たくてみんな当日足を運ぶの。もちろん、そんな観客たちからFクラスには素敵なブーイングや野次が飛んでくる」
ネルは武闘会についてのFクラスの扱いを淡々と語る。
確かに観客として自分たちの王国を将来担っていく優秀な子どもたちが見たいわけだ。
学校内の落ちこぼれをわざわざ見にくる者たちはいないだろう。
「Fクラスは毎年、どの学年も一勝もできないことから『隠されたのシード枠』とすら呼ばれている。トーナメント表には一応一回戦があるからね……。私はこの流れを壊したい! だからアベル! 私に協力して!」
ネルはおれに強く懇願してきた。
確かにそこまで言われているのは悔しいな。
おれたちFクラスだって同じカルア高等魔術学校の生徒なのだ。
それに、ドーベル先生のおかげかは知らんがおれのレポートがクラスメイトたちに出回っておりFクラスのみんなは着実に力をつけている。
「わかったよ! 今年の1年Fクラスは違うってことを王国中に見せつけてやろう!!」
おれの言葉を聞いたネルの表情が明るくなる。
「そうこなくっちゃ! それに、ケビンのためにもね!」
そうだ、おれたちだけじゃないんだ。
あいつの夢を叶えてやるためにも一勝でも多く勝ち上がらないとな。
おれの中で武闘会へのモチベーションが高まっていったのであった。
◇◇◇
そして、おれたちはサラの待つ自習室へと到着した。
部屋に入るとサラは既に勉強をはじめていたようだ。
「お待たせー!」
ネルがサラに向かって駆けこむ。
そして、サラに後ろから抱きついた。
「はいはい、離れてください」
サラは自分に絡まるネルの腕を優しくどけて彼女を引き剥がす。
「ごめんな、ちょっとドーベル先生からの話で遅れちゃった」
おれは机に座るサラに向かって遅れてしまった原因を伝える。
すると、サラはおれの方を見て答える。
「武闘会のことなんでしょ?」
ズバリ言い当てられておれは一瞬驚いてしまった。
「なんでわかったんだ?」
「昨日、私たちのクラスも話があったからよ」
なんだ、そういうことか。
まぁ、時期的にどこのクラスにも武闘会の話とやらは出るのだろう。
ネルの話ではFクラス以外では人気の行事というのだ。
三つしかない出場枠を奪い合ったりすればなかなか代表は決まらないのだろう。
「聞いてくれよ。おれとネルの二人は武闘会に出ることになっちゃったんだよ……」
おれはサラに愚痴をこぼす。
別にネルを恨んではいないが大変であることには変わらない。
「そっか、ネルちゃんやってくれたのね。よしよーし」
サラはおれの言葉を聞くとネルの頭を優しく撫でてはじめた。
ネルも気持ち良さそうにサラに懐く。
「セアラちゃんの言うとおり、ちゃんとアベルを推薦しといたよ!」
ネルがサラにとんでもない報告をする。
おい、これはどういうことなんだ?
「ちょっと……もしかしてサラが仕組んでたんのか?」
おれは仲良くじゃれ合う二人の可愛い女の子たちに声をかける。
「えぇ、私もAクラスの代表に選ばれてるからアベルにも武闘会に出てもらうかと思ってね。あと、しっかりとおじ様とおば様の許可は取ったわよ。当日、二人とも観に来てくださるって!」
おいおい、なんだよそれは……。
サラがAクラスの代表の一人っていうのもそうだが父さんたちが来るだって!?
「あっ、私は自分のメリットがあったからセアラちゃんに協力しただけで、武闘会当日はセアラちゃん相手でも手を抜いたりしないから安心してね!」
どうやらネルはおれがいないところでサラに取り引きを持ちかけられていたようだ。
「さぁ、武闘会が楽しみね!」
意味ありげに微笑むサラを見て、おれは少しだけ震えてしまった。
武闘会当日、絶対に何かが起こる気がして……。
どうも作者です。
たぶんアベルの魔術学校の入学が決まったとき
「どうしてアベルとサラを違うクラスにしたの?」
と思った方もいたのではないでしょうか。
その答えの一つが武闘会です!
これから武闘会という大舞台で七英雄の末裔同士が激突します。
落ちこぼれFクラスの代表のアベル
超エリートAクラスの代表のサラ
この二人のクラスが戦うことはあるのでしょうか?
もちろんAクラスの代表にはあの自己中ナルシストの彼もいますよ。
それでは激動の武闘会編を是非楽しみにしていてください!




