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【完結】転生ニートは迷宮王  作者: 三黒
第3章

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88 朝食

 やっと朝日が昇り始めた。退屈で死んだ……と思うだろ? そうでもないんだな、これが。

 途中までは確かにそうだった。暇すぎて、寝て一瞬で起きるのを繰り返すくらいしかやることがなかった。んで寝る直前に自分に遅延(ディロウ)かけたら長時間寝てられんのかな、なんて思い付きで使ってみたわけだ。

 長時間寝るのは失敗だったが(瞼を閉じる速度が遅くなる程度だった)、魔術自体は発動した。発動してしまった。

 魔力はもう残ってないはずなのに、だ。これってもしや……

 

 魔 力 、 回 復 し て ね ?

 

 そうと気付けば早速検証開始だ。遅延(ディロウ)を箪笥とかにかけまくって魔力切れ、寝るってのを何回か繰り返す。

 寝る度に遅延(ディロウ)が撃てる回数は戻った、てかむしろ増えた。俺は確信した。どうやら寝ると魔力が全回復するらしい。

 超・ショートスリーパーの俺もその例外ではないようで、一瞬意識を失うだけで魔力全回復。チートか?

 とまあそんな感じで、朝まで無限の魔力で遊んでいた。穿空(フェルラス)の造形とか結構上手くなった気がする。今の俺なら敵をハート型にくり抜くことだってできるぜ。やんねーけど。

 

「おはようにゃー。アヤト早起きだにゃ?」

「ああ、おはようユネ。俺は健康ニートだからな」

「なるほどにゃ……?」

 

 今は勇者か。勇者っぽいこと全くしてないせいでどうもな。

 運動量は明らかに増えてるが、やってることはほとんどゲームみたいなもんだし。

 

「おはよう。二人とも既に起きていたか」

「ルファスもおはようにゃ」

「お、おはようございます……」

 

 出やがった。今はユネいるし大丈夫だろうが、極力近くに寄りたくない。聖騎士なら事故装って殺すとか訳も無さそうだし。

 

「階下に軽い朝食がある。謁見の支度が済んだら降りて来い」 

 

 昨晩のことは何も言わずに去っていった。や、俺としてもその方がありがたいが。迷宮で見つかった勇者がそもそも存在しなかったことにされかねん。

 しっかし気になるな。詮索するなと言われれば、気になっちゃうのが人の性。それとなくユネに聞くくらいならセーフだろ。

 

「なあユネ、ルファスの知り合いになんかこう……薄汚い小男みたいなのいるか?」

「? 何の話にゃ? ぼくは知らないにゃ」

 

 知らないか。やっぱ表だと隠してるっぽいな。

 仲間にも隠すってことは聖騎士としての活動じゃないってことか。まあ聖騎士として神父殺してたら問題だろうしな。

 そもそもユネに話してたときは誰かがやったって……あれ、ってことはリフィスト様とかいうのが逃げたのは事故だったってことか?

 うーん頭がこんがらがってきたぞ。今んとこルファス魔王の配下説が有力。悪そうなことしてるし。

 

「それよりアヤト、朝ご飯食べに行くにゃ。先降りてるにゃー」

「ん、俺もすぐ行く」

 

 そういや腹減らないな。迷宮潜ってるときからずっとそうだ。眠くならない、ていうか長時間寝れないのとも関係あんのかね。

 ただ寝ようと思えば一瞬寝れるし、物を食うこと自体はできそうだ。

 一階に降りると、黒いパンのようなもの、そして透明感のあるスープが三人分用意されていた。

 

「院の皆はまだなのにゃ?」

「ああ。まだ起床時間ではないからな。では、リフィスト様に感謝を」

「リフィスト様に感謝を、にゃー」

 

 お? 食前の挨拶的な?

 郷に入ってはなんとやら、俺も真似してみるか。

 

「リフィスト様に感謝を」

「にゃ、アヤトって結構熱心なリフィスト教徒だったりするにゃ?」

「そんなはずがあるか、勇者だぞ。我々の祈りを真似したに過ぎん」

 

 いただきます言って異端扱いされるのも嫌だったんです。許してくれ。

 

「その挨拶が常識なのかと思ってな、間違ってたらすまん」 

「いや、間違ってるってわけではないにゃ。むしろ常識になってほしいにゃー……」 

 

 リフィスト教徒の中でも一部しかやらない習慣なのかね。

 それはともかく朝食だ。黒パンはそのままだとパサパサっぽかったので、二人に倣ってスープに浸すことにする。

 ちぎろうとして気付いたが、パサパサなだけじゃなくてめっちゃ硬い。もはや岩。そこは白ふわパンでも良かったんだぜ神様よ。

 

「アヤト、パン食べるの初めてにゃ?」

「初めてってわけでもないんだけどな……」 

 

 パンに爪を突き立てて穴を開けて、亀裂を広げながら引きちぎる。あまりスマートじゃないな。慣れてないから仕方ないが。

 で、これをスープに浸す、と。

 

「……おお」 

 

 口の中に広がるコンソメ風の香り。 透明な割に結構味が濃い。

 具が少ないのは残念だが、ツンと鼻に抜けるスパイスが効いてて結構イケる。でもなんかゴロっとした肉とか野菜とか欲しくなってきた。

 こっちの世界の肉って何の肉がメインなんだろう。やっぱり魔物か? ステーキとか焼肉とかみたいな文化はあるんだろうか。クセがないといいな。魔物肉とかなんか臭いキツそう。

 気付けば黒パンは残り一欠片になっていた。口に放り込んでスープを飲み干すと、二人も丁度食べ終わるところだったようで、

 

「リフィスト様に感謝を。さて、そろそろ城へ向かわねばな」 

「リフィスト様に感謝を、にゃー。アヤトも、もういいにゃ?」

「おー、えと、リフィスト様に感謝を?」

 

 やっぱり慣れねーな。一人暮らしを始めてからは''いただきます''すら碌に言わなくなってたし。

 

「いい感謝にゃ。で、ルファス。出発は刻六の予定じゃなかったにゃ?」

「少し早くても問題あるまい。俺は鎧に着替えてくる」

「あ、ぼくも一応鎧着てかないとにゃー。じゃあまたあとでにゃ」

 

 ユネは尻尾と手を振りながら二階へ駆けて行った。可愛いね。

 忘れ物でも取りに行って覗くのが王道だろうが、生憎置いてくるようなものがなかったぜ。無念。尻尾の付け根とかちょっと気になってんだけどな。

 

「――おい、勇者」

「は、はいぃ?」

 

 急に呼ばれて声が裏返る。やっぱり昨晩のことか? ユネに聞いたのもバレてた? 全部お見通しってわけ?

 

「……はぁ、何故そう怯える。俺の邪魔さえしなければ危害を加えることはないから安心しろ。勇者は国の客、下手なことをすれば死ぬのは俺だ」 

 

 証拠を残せば、の話だがって聞こえた気がする。いや、でも俺が死んでもユネとハルティアさんが証言してくれるからな。こいつが仲間も普通に殺す感じの強いサイコ野郎じゃなければ大丈夫だ。

 ……神父殺してるからその可能性もあるのか。

 

「やれやれ、まあ俺が言っても仕方ないか。だが、王の前では気を付けろよ。偽勇者を疑われれば、最悪そこで死ぬことになる」

 

 ままままま待て。落ち着け。王に顔見せて帰るだけじゃないのか。俺ちょっとそういう偉い人の前だと萎縮するタイプの人間なんだが。

 なんか礼とか挨拶の仕方とかあるんだっけ、二礼二拍手一礼? いや違うわこれ、ご機嫌麗しゅうみたいなやつだったか。拝啓花の色の美しい季節となって参りました。王様はいかがお過ごしでしょうか。

 

「アヤトー! もう出発するにゃー!」

「ま、待ってくれ今行く」

 

 勇者だって元は一般人だぞ? それとも俺以外の奴はそういう教育受けてきた奴だったとか?

 マジで勘弁してくれ、こちとらテーブルマナーすら怪しいレベルなんだぜ。城への道すがらユネにでも聞いてみるか。

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