68 聖龍
「右を軽く足止め、左後ろに範囲!」
「おう――創造・土壁、創造・風刃!」
炎界レベルの広範囲魔術が使えない分少し忙しいけど、今のところは順調に処理していけてる。
龍牙の魔力はまだかなり余裕があると思うし、あとは判断ミスをしなければ全滅を狙えそうだ。無限に湧き出てくるように見えても、ゲームじゃないしそんなことはない、はず。
「誠、風刃で死んでないのがいる!」
「風の単体魔術をお願い、終わったら今度は左に壁!」
「了解――創造・風槍」
「キシュアァッ!」
上半身が吹っ飛んだリザードマンの死体が、僕らから数メートルのところで倒れ伏す。真っ赤な断面はグロすぎて直視できない。でも、殺しの罪悪感みたいなものに苛まれている暇はない。
「キッ、キッ、キッ」
「シュー、シュアーッ」
突然、リザードマンの動きが止まった。全員一点を見つめて騒ぎ始める。
「龍牙、一旦攻撃やめ。何か来るみたいだ」
「ああ、遂にボスかもな!」
ボス、確かにそうかもしれない。地響き――巨大な足音と共に、何かが洞窟の奥から近付いてくる。
《勇 な る 者 ら よ》
「うわっ! え!? 頭……? 誠、今の聞こえたか!?」
「うん、僕の方にも聞こえた」
突然、頭の中に直接声が響いた。多分、声の主は奥の巨大な何かだろう。
《何 故 、我 が 眷 族 を 滅 さ ん と す る か》
「そ、それは……お前らが人里を襲うからだ!」
《フ ハ ハ ハ 、や は り 人 族 は 勝 手 な も の よ な。今 こ そ 我 が 復 讐 を 為 す 刻 と 心 得 た 。我 、堕 ち る こ と な き ま ま に 汝 ら を 滅 さ ん》
爆発音のような轟音と共に、視界が真っ白になる。リザードマンのボスって話だけど、多分こいつはただのリザードマンじゃない。もっと強い。一体……
「一体、何者だっていうんだ」
《我 こ そ は 聖 龍 ル ス テ ィ エ 。誇 り 高 き 古 の 五 龍 が 一 、そ し て 最 後 の 古 龍 な り》
「っわ!」
視界が元に戻った途端、光線、いや熱線? とにかく当たったら死にかねないビームが飛んできた。地面が溶けて泡立ってる。
飛んできた方向を見上げると、そこには白い鱗に覆われた巨龍――僕の十数倍はくだらなそうな大きさだ――が、とんでもない威圧感と共に光を放っていた。
その光のおかげでわかったけど、どうやら入口が狭かっただけで、このあたりはかなり広い作りになってるみたいだ。
「ねえ待ってよ! ボクにはキミが悪い存在には見えないんだ」
《我 ら を 魔 と 、悪 と 括 り し 者 の 遣 い か 。中 心 な ど 存 在 せ ぬ 。据 え れ ば 世 界 は 歪 と な る 。実 に 嘆 か わ し い 。汝 が 我 を 悪 と せ ず と も 、汝 ら は 我 に は 悪 と 映 る》
「――魔術障壁……っ!」
シエルは咄嗟に障壁を展開したが、熱線の衝撃を流しきれずそれごと吹き飛ばされた。派手な音と共に、リザードマンの群れに背中から突っ込む。
「シエル!」
《愚 か 、 愚 か な り 。貴 様 ら の 掲 げ る 正 義 な ど 、我 が 憎 し み の 前 に は 無 に 等 し い 。塵 と 消 え る が い い》
また熱線。龍牙はギリギリ躱してたけど、僕には躱せる気がしない。
「誠! 逃げるぞ! ――創造・加速!」
「えっ、ちょ、龍牙!?」
龍牙は自分に加速をかけると、僕を抱きかかえて走り始めた。かなり恥ずかしい。確かに僕だと逃げきれないかもしれないけど。それにしても恥ずかしい。
《逃 が す と 思 う て か》
同時に何本も熱線が飛んでくる。龍牙は飛んだり跳ねたりして躱すから気持ち悪くなってきた。
《我 が 子 ら よ 、彼 奴 ら を 追 え》
「龍牙! ここはまだ広い、そうそう落盤もしないだろうし一発広範囲魔術をお願い!」
「っし任せろ! ――創造・炎界ァ!」
勢いよく走ってきていたリザードマンは、次々と炎のベールの前で立ち止まる。
《小 癪 な》
苛立ったような声が響いてくるけど、そんなことお構いなしといったふうに龍牙は駆ける――洞窟を抜けた。凄まじい怒気のこもった咆哮が聞こえるけど知らない知らない。
「そういえば龍牙、シエルは?」
「今は姿消してる。思った以上に怪我、っていうか傷口の状態が悪くてな。焼けただれてたし、俺の中で休んでもらってるよ」
ってことはあの障壁を少しは貫通してたってことかな。天使の魔術すら打ち破ってくるって……なんでこんなのがB級の依頼だったんだろう。
思えば、ボスがリザードマンとは明言されていなかった気がする。まとめ役がいればそいつも、みたいな曖昧な指示だったし、ボスの正体までは未確認だったのかもしれない。元依頼は、徒党を組んで略奪なんかを行ってたリザードマンの駆除ってだけだった。
「って龍牙、そろそろ下ろしてくれていいよ。追ってくる気配ないし、もうすぐ街だし」
「お、そうか? 別に俺疲れてないし大丈夫だぜ?」
「いや、その……なんか恥ずかしいしさ」
「そうかー? まぁ、誠がそう言うなら」
ふう。流石にあんな状態でギルドに行ったら恥ずかしいとかいうレベルじゃないからね。
自動車も真っ青な速度で走ってきてたおかげで、もう少し歩けば街だ。加速使った龍牙の全力疾走は、あのエクィトスとかいう生き物よりも速い気がする。
「「お疲れ様です勇者様!」」
「門兵さんもお疲れ様です!」
「お疲れ様です」
門兵と軽く挨拶を交わす。夕焼けのせいで眩しそうだったな。
そういえば、この世界に来てからは太陽の位置で時間を知ることを意識するようになった。スマホも腕時計もないから大変だ。まぁ、正確な時間が必要な場面も少ないけど。
街の真ん中に大きな時計塔――24時間の時計があるので、時間の考え方は多分向こうとほぼ変わらないんだと思う。……なんで腕時計が普及してないのかはわからない。そもそも技術力の方向性が向こうと少し違いそうだし、そういうことなのかな。
「あ、勇者様だ」
「勇者様! お元気ですか!」
あ、この前ギルドで龍牙が意気投合してた冒険者……名前は忘れたけど。
「おーっす、アレンにアリシア! あれ、ラストルさんは?」
「それが、聞いてくださいよ。この前未管理の迷宮に行ってきたんですけど……」
どうやら、何かいざこざがあって仲間が一人パーティを抜けてしまったらしい。また探すのは大変そうだ。
「でも私とか絶対死んだと思ったのに、なんか生きてたんだよね。アレンはなんか女の人の幻覚見たみたいなんだけど――」
「だから幻覚じゃねえって。ミレイルさんがいなかったらアリー今頃マジで死んでたぞ?」
「でも一人であの迷宮来るとかありえなくない? 大体、私たち以外に来てる冒険者いなかったと思うんだけど」
迷宮……最近騎士団からそんな話を聞いた気がする。確かレイスが出たのもそこだったとかなんとか。
「死ぬほどヤバい怪我だったのか? なんでそんな危険な迷宮が未管理なんだ……?」
「いや、それが俺らにもわからないんですよ。そもそも最近まであそこに迷宮なかった気がしますし」
「他のとこに比べて明らかに難易度おかしいよね。怪我の規模はともかくとして、私が気失ったのは確かだし」
二人の話によれば、全体的に嫌らしい作りをした迷宮らしい。罠とかも考えて設置してあるように感じた、とか。
ま、気になりはするけどもう少し調査が進んでからでいいかな。魔王も倒さなくちゃだしね。




