60 魔術雑貨店
(いやいや、折角だし一緒に中入ろうぜ)
(いえ、私は外で待機しておりますので)
(ええ!? 隠蔽解いても大丈夫だって)
屋台のおっさんは噂を知ってたが、レルアを見ても「その冒険者本人」だとは思わなかったみたいだし。情報が広まる間に尾ヒレが付いててもう大丈夫だと思うんだけどな。
(私が見つかってしまうとマスターまで)
(俺のことなら気にしなくてもいいぞ? 別に街だって頻繁に来るわけでもないし)
(そういうわけには)
ううーん、そこまで言うなら無理やり連れ回してもアレだな。俺は引くときは引く男。
(それじゃレルアはここからは別行動だ。一人なら俺のことも気にせず楽しめるだろ?)
(しかし…………わかりました。では何かあればすぐに呼んでください)
(了解了解。夕暮れ時にギルド前の街灯待ち合わせで!)
パパっと買い物終わらせてデートもいいなと思ったが、まず俺この街のこと碌に知らないしな。ウィンドウショッピングも楽しいけど、折角ならいい感じの喫茶店とか入りたいじゃん?
限界ニートの俺にレルアと世間話ができるかっつーのは置いとけ。ただレルアなら話題振ってくれそうだが。そういうとこも好きだぜ。限界ニートですみません。
……実は、ここで別れたのにはもう一つ理由がある。サプライズでレルアにアクセサリーとか買ってあげたいと思ってな。
ただ相手を外に待たせて選ぶってどうよ……。ならまだ別行動の方が良いだろ、と。
「何かお探しかな? 魔術結晶なら右手前の陳列棚に移動したよ」
魔術結晶ってなんだ。めっちゃ気になる。てかここそういう魔術系の店だったのか?
表から一瞬見えたネックレスっぽいのも実は魔術関係だったりしてな。まぁそれはそれでいいか。
とりあえず聞いてみよう。
「えと、女の子にアクセサリーを贈ろうと思ってて」
「それなら左二列目の奥側の棚だね」
言われるまま通路を進むと、針が四本の謎のメーターや独楽に似た回り続ける円錐、ぼんやりと赤く光る天球儀っぽい何かなど面白そうなものが沢山置いてあった。
突き当たりにある色とりどりのゼリーらしきものの瓶詰も気になったが、とにかく今はアクセサリーを見よう。見たいものが多すぎる。この店だけで一日潰せそうだ。
アクセサリーもまたかなりの種類があった。指輪、ネックレス、髪飾り……どれもレルアに似合いそうで迷うな。
ふと、上の方に置いてあった髪飾りが目に留まった。ガラス細工……っぽいけどこっちにガラスはないよな。少し水色がかった透明な羽。天使っぽくていい感じだ。
「ほう、その羽を選ぶとはお目が高いね。それは精霊の加護を受けた逸品だ。効果は不意打ちの無効化――たとえ闇夜に背後から刺されようと、一度だけそれが身代わりになってくれる」
すげえ。これ100個くらい買い占めたい。
「でもお高いんでしょう?」
「ま、精霊たちは気まぐれだからね……。基本的に効果も見た目も一期一会だ。だが特別に値引きしてもいいよ、なんせ滅多に売れるものでもないしね」
値引きイベントキタコレ。だが元がいくらなのか読めん。流石に10万ルナあれば足りるとは思うが。
「ちなみに元はいくらくらいなんです?」
「そこに書いてあるとおり8万ルナだ。ただ5万ルナにまけてもいい……って、君もしかして数字が読めないのかい?」
バレたか。流石に冒険者でも数字くらいは読めるのが普通なのか?
てか文字も書けはしないまでも読める奴は多そうだよな。ギルドの依頼も全部こっちの文字だし。言語習得スキルみたいのあったら取っとこう。
「あー、お恥ずかしながら……」
「じゃあその服は? それにしても見たことのない生地だね。色が美しいし、質も良さそうだ。お抱え裁縫師特注の品かな? まさか盗品?」
「え? いや、普通に……特注のやつですね」
頭がおかしいやつだとか盗人だとか思われるくらいなら、貴族だと思われた方がまだマシだ。
まぁ確かに珍しい布地どころの騒ぎじゃないよな。そもそもこの世界に化学繊維とかなさそうだし。
「ふーん……まぁ、詮索はしないでおこう。ルナは持ってるんだろう?」
「はい、5万なら払えます」
「よし、じゃあ贈り物用に包んであげよう」
そう言うと店主のお姉さんは慣れた手つきで小箱のようなものを組み立て始めた。
あれで渡すとプロポーズみたいになりそうだな。
「そうだ、ついでに魔術結晶もどうだい。シレンシアでの品揃えはここが一番だ」
「魔術結晶?」
「ああ。宮廷魔術師が小銭稼ぎにこさえたモノも多い。品質は保証するよ」
「ああ、えーと、魔術結晶っていうのは一体……?」
俺の言葉に、店主は目を丸くした。
「もしや、耳にするのも初めてかな? エルイムの方にはあまり浸透していないと聞くけど、これほどとはね」
「あはは……田舎者なもんで」
そうそう。俺設定上は田舎者だから。ここでは田舎貴族ってことにしよう。何もおかしくない。文字読めなくたっておかしくない。べっ別に今の今まで設定忘れてたとかじゃないんだからねっ!
「魔術結晶ってのは、少ない魔力で魔術が行使できる代物だよ。必要な魔力は、この結晶に込められた魔術を『起動する』分だけだ」
そう言うと店主は小指大の結晶を放り投げた。
「――起動せよ!」
瞬間宝石は砕け散り、氷塊が入口付近のクッションに飛んでいった。なるほど、これなら覚えてない魔術も使えるのか。ただ消耗品っぽいのが玉にキズだな。
「今のは氷弾の魔術結晶だよ。安物だから結晶自体も小さければ規模も小さかったけど」
「高いものだともっと派手に?」
「勿論だ。例えば麻痺なら、小さいものは数秒シビれるくらいだが……大きいものなら獣を気絶させることだってできる。使いようによっては、対象を殺めることだって可能だろうね」
テキトーに石投げるだけで殺されちゃかなわん。デ〇ノートでも名前くらいは書くってのに。
「ま、大きいものだとそれなりに値段は張るけどね。護身用なら小さいもので十分だよ」
「……加速とか鼓舞の結晶とかは置いてたり?」
強化魔術系までは手が回らなそうだし、いざってとき用にいくつか買っておきたい。
「ああ。一個20ルナだね。これは小さいものしかないけど」
「じゃあ十個ずつお願いします。あと麻痺の一番大きいものを一個」
「さっきのと合計で5万飛んで900ルナだ。……暗殺なら他にいい方法があるけど?」
「いやいや、護身用ですよ。大きければ何があっても安心でしょう?」
小金貨五枚と小銀貨九枚を置く。店主は魔術結晶と箱をまとめて麻袋のようなものに入れてくれた。
大きいっつっても拳大くらいなんだな。まぁ大岩サイズだと持ち運び大変か。
「突然竜種に襲われるのでも想定してるのかな? さては君、金属鎧も叩いてから着るタイプだね」
「はは、まぁ何かあったときに使うんで」
手渡された麻袋はずっしりと重かった。重さって点でも、大きい魔術結晶は不人気なのかもしれない。
「それじゃ良い冒険を」
「ありがとうございます、麻痺使ったらまた来ます」
外はまだ明るかった。それもそうか。
レルアとの待ち合わせまで、少し食べ歩きでもしよう。




