53 知ってる天井
――――知ってる天井だ。おお勇者よ、死んでしまうとは情けない。死んでないけど。
何が起こったかは覚えてない。俺は多分三人目だと思うから。
冗談はさておき、やけに身体が重いな。
『衰弱:魔力切れ状態での魔力行使に伴う状態異常』
天の羽衣貫通するタイプの状態異常か。まあそりゃそうだ。魔力切れてもピンピンしてたらそれこそチート。……魔力吸う罠とか楽しそうだな。
ああ、ちょっと思い出したぞ。ぶっ倒れたんだ。強制送還使おうとしたとき既に魔力切れてたってことか。てか強制送還自体は成功したのか? つーかあのあとどうなった?
リフェアは無事なのか? レルアに治癒を頼むのを忘れてた。俺ごときの処置ではいずれ死ぬ。それはいけない。
「マスター! お体の具合は……って、まだ横になっていてください。限界を超えての魔術行使は、死に直結する危険な行為なんですよ」
「いや、すまん。次から気をつける」
「マスターのことです、大罪との戦闘で消耗していた私を気遣っての行動かもしれませんが……聖騎士とわかって尚戦おうとするのは少し無謀が過ぎます」
無謀ね。そういや聖騎士も自殺がどうとか言ってたな。
レルアは強いが俺は弱い。一応勇者ではあるらしいが、およそ勇者と呼ばれるような力は持っていない。
多分ゼーヴェやら三騎将やらと本気で戦り合ったら瞬殺される。多少の時空魔術は使えてもチートってほどじゃないみたいだし。てか解呪で前準備ありの強制送還消してくるのはズルいって。
「――そうだ。リフェアは? 無事なのか?」
「影の少女ですね。なんとか一命は取り留めています。本格的な治療は聖魔術を練り込んで行うのが普通なのですが、あの少女にそれをすると逆効果になってしまいますので……」
時空魔術でなんとかできないもんだろうか。と思ったが元の状態に戻せたら無限に若返れることになる。少なくとも今の俺の力じゃ無理だろ。だからって時間を進めても、そこだけ老化してうっかり癌とかになりそうだ。魔術にも医学にも明るいわけじゃないし、下手なことはやめといた方がいいな。
「まぁ無事なら良かった。ありがとな、レルア」
「いえ、礼を言われるほどのことでは」
リフェアも俺を助けにきてくれたわけだし、あとでお礼を言いに行かなきゃな。ていうかあいつの好きなお菓子でも持ってお見舞いに行くか。
「レルア、ゼーヴェと三騎将とゴースト隊の連携強化をしておいてくれないか」
「かしこまりました」
上の方の階だしいいか、とも思ったが聖浄一発で消えちまうならせめてちゃんとした動きをしてほしい。魔物狩りに出かけてもらうのもいいかもしれん。
さて、と。見舞い品はクッキーでいいか。
『クッキー(16枚):50DP』
シナモン香る俺もお気に入りの一品。この前渡したのよりも高級だが、それでも50DPって安いな。
「おーい、リフェア。入るぞ」
「どうぞ?」
……ん? 今の誰の声だ?
リフェアにしては少し大人びた声だった気がした。ドアの向こうにいたのは、
「あら! クッキー持ってきてくれたのね? この子も喜ぶと思うわ」
「……あー、どちら様?」
「もう、アタシよアタシ!」
どっからどう見ても大人になったリフェアにしか見えん。てか尋常じゃなく……その……劣情を誘う見た目と言いますか。俺がひんぬー教徒じゃなければ危なかったぞ。理性とか。
「……まさか本当にわからないのかしら? 悲しいわね。ラビよ、使い魔の」
「ああ、ラビか。……っておい。見た目変わりすぎだろ。なんでリフェアみたいになってんだ、あとせめて服着替えろ」
「服はこの世界で探す予定だったのよ! 姿はこの子の記憶の中の母親のものよ。同じ枕元にいるなら、あの姿よりも母親のものの方が安心するでしょう?」
そりゃそうかもしれんが。つかずっとこの姿でいるならDPで服買ってやるしかないな。
「つーかラビって性別とかあんの? 今はどっからどう見ても女だけど、あの姿だと男にしか見えねえ。声まで変わってるし」
「うーん、今はないわね。この子が次に目覚めるまでの間、少しアタシの話をしましょう」
とりあえず皿にクッキーをあける。リフェアに半分残しといてあげよう。
飲み物はコーヒーでいいか。
「あら、気が利くのね。そういう男、嫌いじゃないわよ」
「ありがとよ。で、話ってのは一体?」
ラビはクッキーを齧り、美味しいと笑う。
「アタシたち『大罪』は死んでも普通の生物のように死ぬわけではないの。天使さんと似たようなものかしら」
「天使?」
「ええ。私たちは再構成されるだけで、力も記憶も引き継げるけれど。ただ、不死身というわけでもない――司る『欲』が尽きたらそれで終わり」
欲、か。確かラビは――
「『色欲』は今の大罪の中では最も旧い存在なの。でも、恐らく今回が最期。次はもっと色に狂う者がこの座を継いでいるはず」
「つまりラビは既に……?」
「ええ。大した欲求も持っていないわ。アタシは今『美』を追求しているの。でも、アタシが『美』を纏うと誰彼構わず魅了してしまうことに――っていけない。マスターさんは大丈夫?」
「あ、俺? 異常耐性はバッチリだから安心してくれ」
凄い耐性ね、と驚かれた。まぁ「大罪」に抗ってるわけだしそれなりに凄いのか。天の羽衣とか大仰な名前なだけある。
「続けるわね。だからアタシは『男』の見た目で『女』でいたわけ。それでも魅了されるヒトはいたけれど、男女どちらかでいるよりは少なかったわ」
「……ラビがガッツリ『色欲』してたときは内外合わせてたのか?」
「ええそれは勿論。なんなら契約者もソレで支配していたし」
ラビは目を細めて舌舐めずりした。何がとは言わんがヤバい。色欲司ってるだけあるな。
「『美』の追求って言ってたけどなんでリフェアを選んだんだ? こいつは美しいってより可愛いな気がするんだが」
「……そうね。本来この子はもっと美しく『なれる』存在だった。でも、今の美しさでも世界を魅了するには十分だった」
「あー、ってことは?」
「アタシの力でこの子の『美』を凍結したのよ。可愛さ、と言ってもいいわね。そうでもしなければこの子は今この世にいなかった……」
イマイチ何言ってるかわからんが、多分リフェアが可愛かったから助けたってことだろう。
「――あれ……ママ? 私、死んだの?」
「あら、ごめんなさいね。アナタを安心させるためにこの姿を取ったのだけれど、逆効果だったかしら」
「なーんだ、ラビだったのね。にしても、声までママそっくり。しばらくそのままでいてくれる?」
「ええ。アナタがそれを望むなら。マスター、いいわね?」
「ん、ああ、いいぞ」
ラビがリフェアの頭を優しく撫でる。眼福。最高。ガイアが俺にさっさと立ち去れと囁きまくっている。アヤトもそう思います。
「じゃ、俺は戻るわ。リフェア、クッキーとコーヒー置いとくから食えそうなときに食ってくれ」
あ、ガムシロミルクもいるか。50個で40DPとかだし袋ごと置いとこう。
「マスター、ありがとう。そして……ごめんなさい。奇襲でなければ聖騎士なんて――と思っていたけど、ただお荷物になっただけだったわね」
「助けに来てくれただけで嬉しいさ。ま、ゆっくり休んでくれ」
実際あの影の濁流は助かった。あそこで時間稼げてなければ、俺もこの世にいないかもわからん。
とにかく、誰も死んでないし俺らの勝ちだ。そろそろ迷宮造りに戻るとするかな。




