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【完結】転生ニートは迷宮王  作者: 三黒
第2章

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46 大罪

三人称視点です。

「ふぁー……あ、と」

 

 薄明かりの中に、大きな欠伸をする影が一つ。

 

「あーっ! アンタやっと死んだってワケ!? 待ちくたびれたんですケド?」


 どこからともなく現れた少女が、影に向かって叫ぶ。

 

「またこんなところで何十……何百年? とにかく長い間過ごしたんですケド!」

「相変わらず頭に響きやがる声だナ。少しは抑えられないのカ?」

「何よ"強欲"、私に喧嘩売ってるワケ? 殺されたいならそう言ってほしいんですケド」

「落ち着きなって、"憤怒"。その様子ならまた俺が最後だろ? なら直に()が始まる」 

 

 結んだ髪を揺らして殺気を撒き散らす少女を宥めるように、影――立ち上がった少年が、二人の間に割って入る。

 

「ふん、それもそうなんですケド。次は絶対美少年とお近付きになるんですケド!」

「どうせまた殺してしまうのでしょう。ああ、哀しい。嫉妬は私の専門だと言うのに」

「うっさいんですケド……私に男を見る目がないって言いたいワケ? どいつもこいつも、殺されたいならそう言ってほしいんですケド?」

 

 再び殺気を放ち始める少女を、今度は長身細身の男――女――漢女(おとめ)が宥める。

 

「まぁまぁ、"憤怒"ちゃん。次は良い出会いを見つけるんでしょう? そのためにも、しっかりおめかしシていかないとね!」

「……そうなんですケド。こんな奴に怒ってる場合じゃないってワケ。感謝するんですケド、"色欲"」

「アラ、お礼なんていいわよ。"憤怒"ちゃんはやっぱり笑顔が一番だもの!」   

 

 "憤怒"が去り、再びその場を静寂が支配する。時折聞こえる欠伸だけが、その場に時間の流れていることを確かにした。

 しばらくして、地面が光り始める。

 

「やれやれ、もう始まんのか」

「いい加減"怠惰"を待つのも飽きタ。今回は一つ目標を決めないカ?」

「目標ってなんだよ。最後まで生き残った奴が自由にやれる、そういうことで今までやってきたじゃねーか」

「いつまでも"怠惰"の一人勝ちではつまらない……私もあの世界を長く楽しみたいものです。そういうことでしょう? 乗りました」

 

 "強欲"の提案に乗り気なのは"嫉妬"。彼は腰まで伸びた髪をかきあげて言った。

 

「まァそういうことだナ。次の転送での目標ハ――世界を手に入れること、ダ」

「アラ面白そうね。つまりは世界中を虜にしてしまえばいいってことでしょ?」

 

 "色欲"の言葉に、"強欲"は頷く。

 

「その通リ。例え"怠惰"――お前がただ契約者の寿命で死ぬのを良しとしていようト、我々のうち誰かが世界を手に入れればその時点で強制送還ダ」

「良いじゃん良いじゃん、俺さんせーい!」

「げ、面倒なのは嫌だっつの。俺はそーいうガツガツしたのは苦手なの」

 

 "怠惰"は露骨に嫌そうな顔をするが、場の賛成の空気に肩を竦める。

 

「聞こえたんですケド! 世界を手に入れればいいってワケ? 余裕なんですケド!」

「決定ですね……では皆さん、良い現世を」

 

 "嫉妬"がそう言うが早いか、地面が一層その光を増す。

 次の瞬間には、そこに七人の姿はなく。ただ薄明かりと、半透明に揺れる地面だけが残された。

 

 

 


 "色欲"は、雨の降る森を歩いていた。

 既に契約者(ターゲット)は決めていた。世界中を虜にする「絶世の美女」となる者に。

 だが、先ほどからその未来が視えなくなっていた。

 

「不味いことになったわね」

 

 運命の書き換え。それは、「世界の外側」からの干渉でもない限り起こり得ない。

 "大罪"が運命を視ることが出来るのは転送後少しの間まで。今更代わりを探すことは難しいが、契約者なしでは世界は獲れない。

 

「……焦げ臭い……?」

 

 "色欲"は、雨の匂いの中に焦げ臭さを感じる。それは目指す屋敷の方から漂っており、恐らく契約者と無関係ではないであろうことを意味していた。

 自然と歩幅は大きくなる。進めば進むほど雨に混ざる焦げ臭さも強くなっていく。

 すぐに道が開けた。視線の先には。


「……燃えて、る」

 

 案の定、屋敷は天を衝くほどの劫火に()かれていた。

 "色欲"は、まず他の大罪による妨害を疑った。彼らもまた世界の外側の存在だ。運命を書き換えることは可能ではある。

 だが、不可能だ。他の大罪の未契約の契約者を知り、尚且つ殺すなど出来るはずがない。

 では、何故か。他の要因によって書き換わったのであろう。"色欲"には知る由もない。

 

「今はそれより救出ね――(ノィ)精霊に命ず(リズィル・サイア)

 

 "色欲"は半ば諦めつつ、防火の魔術を使って炎に手を伸ばす。

 が、バチッという音と共に弾かれた。

 

「結界? 仕方ないわね――(ノィ)其の魔術の解呪を望む(リズィル・ライアス・ラ・ファスタ)

 

 防火の魔術の上から結界を破壊し、燃え盛る炎を掻き分ける。

 だが穴があいたのは数瞬で、すぐに結界は閉じた。

 

(これほどの使い手が、何故?)

 

 屋敷の中に入ると、目の前の広間に倒れ伏す一人の少女。

 彼女は――瀕死だった。恐らく、対・影の一族用の毒によって。

 浄化(キュア)は効かない。そもそも、一般人に無害なこの毒に毒消しは存在しない。

 魂も弱っていた。今すぐ素因(エレメント)濃度の高い場所に移動せねば、仮に肉体が助かっても朽ちるのを待つ人形となるだけだ。

 

「困ったわね」

 

 確かに目の前の彼女は花も恥じらう乙女に成長するだろう。その後には、見る者すべてを虜にするほどの絶世の美女に。だが、このままではもう長くはもたない。

 契約は一度の転送につき一度きり。ここで彼女を生かす方法もないわけではない。

 しかし、それをしてしまえばもう世界を獲ることはできないだろう。

 "色欲"は考えた。そして考えるまでもないと気付いた。

 "色欲"の本質は美の探求者である。世界よりも美しさを選んでこそ己だと。

 

「貴方、は……?」

「じっとしてなさい。それより一つだけ質問よ。アナタは――生きたい?」

 

 僅かな沈黙。続いて少女のか細い声。

 

「意地悪な質問ね……例え生き残ってもいずれ私は殺される。だって私は――」

「影の一族だから? そんなことわかってて言ってるのよ。契約すれば、アタシはアナタを一生守るわ」

 

 少女は力なく笑う。それは無理だという風に。

 

「じゃあ、試しにそこの聖騎士を三人(・・・・・・)倒してみてくれる? 勿論、私が死んでしまう前にね」

「……お安い御用よ」

 

 "色欲"は少女を抱え、屋敷の外に出る。

 

「やっと出てきたか……っと、誰だ貴様! 止まれ!」

「悪いけど時間がないの。本気でイかせてもらうわね? ――我が魔力を大地に捧ぐ(ノィ・ヴィアン・スェニト・ラクア)

 

 一瞬で勝負はついた。

 いや、それは「勝負」ではなかった。

 

 地面が――森ごと空間が消失した。

 

 巨大な穴を背にして、"色欲"は少女に笑う。

 

「これでいいかしら?」

「ええ……ええ、勿論。貴方は一体何者?」

「"大罪"が一人、"色欲"のラビ。それじゃ、早速契約するわよ」

 

 少女は力なく、差し出された"色欲"――ラビの手に触れた。

 

「我――"色欲"のラビは、汝――リフェア・ルル・イルートツェルンと大罪の契りを結ばん!」

 

 風が巻き起こり、触れた互いの手の甲に紅く光る紋章が刻まれる。

 

「――願いは『美の凍結』!」

 

 少女――リフェアの身体を、手の甲から伸びた光が包み込む。

 

「……っ、あれ、何も変わって……?」

「いいえ、アナタは今この瞬間から一切歳を取らないわ。代わりに、体内の毒も消えたはずよ」

「確かに、体が楽かも。ありがとう……えっと」

「好きでやったことだし、感謝しなくていいわ。それと、ラビでいいわよ。改めてよろしくね、リフェア」

 

 リフェアは差し出された手を、今度はしっかりと握った。


「こちらこそよろしくね、ラビ」

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