30 邪竜討伐②
前半レルア視点・後半三人称視点です。
「――土鎖、土鎖、聖浄」
邪竜の身体が轟音と共に倒れ、消えていく。三頭目。
土鎖で動きを止めつつ近距離からの魔術で止めを刺していたが、前に出会ったはぐれよりも魔術への耐性が高い。業火ほどの魔術でも殺すまでには至らなかった。
あの肌を貫通するほどの武器も持っていないので、仕方なく弱点の聖浄を使っているが……どうにも時間がかかりすぎる。
「っ、土鎖!」
他の邪竜の動きも止めながらの戦闘なので、ひたすらに面倒だ。加えて村の中、大聖浄以外の広範囲魔術は使えない。大規模魔術なんて以ての外。
……氷界を使おうか。邪竜の動きを止めるには十分だ。
巻き込まない自信があるわけではないが、それほど早く広がる魔術でもない。きっと彼らなら避けられるはず。
「聖浄……土鎖!」
一番近くにいた邪竜を怯ませ、土鎖で固定する。
(邪竜の動きを止めるため、少しだけ広範囲の魔術を使用します)
警告はしておく。
詠唱は――略式でいいだろう。
「水の精霊よ、我に従え。彼の者らを凍てつかせよ――氷界」
ひんやりとした魔力の風が、村を覆っていく。
目の前の邪竜が、魔術に触れた瞬間土鎖ごと凍った。
邪竜程度の魔術耐性なら、上から強引に氷漬けにすることは可能だろうと踏んだのだが……無事成功したようだ。
と、タイミングよくこちらへ近付いてくる足音。エクィトスのものだ。
つまり――聖騎士。
(やっと増援がやってきたようです。魔力も底を尽きたので、私は仲間と合流します)
聖騎士が何人いるのか、またどの程度の強さなのかは知らないが、ここまで下準備された獲物を狩れないようでは聖騎士失格というものだ。多分。
他に何かやり残したことは――そういえば、あの青年は腕に酷い怪我をしていた。村人を逃がすために頑張っていたようだし、多少天使の施しを与えても罰は当たらないだろう。
「治癒」
そっと彼のいる方向に治癒をまいておく。
さて、あとは帰るのみ。木陰に入って足音とは反対の方向へ走り、唱える。
「転移」
* * *
「なっ……これは……!?」
聖騎士・ルファスは氷漬けの村を見て絶句する。
「派手にやられてるねえ。邪竜も一緒に凍ってるし、仲間割れかなあ?」
「いや、魔力の残滓を見る限りじゃそうじゃなさそうだにゃー。もっと強力な存在が、一発で全部凍らせた感じかにゃー?」
「……とにかく、村人の生存確認が最優先だ。邪竜は見つけ次第止めを刺せ」
「了解だよう」
「言われずとも、にゃー」
ルファスの傍らにいた二人は、軽やかな身のこなしで屋根に飛び移った。そのまま邪竜を氷漬けの状態で破壊していく。
邪竜は二人に任せ自分は生存者を探そうと、ルファスは村の中心へ向かって歩き始める。
――見渡す限り全てが凍っている。生存者などいないかと思われたが……数分と経たずに、小盾に片手剣という軽装の青年と出会った。
「君、これは一体どういうことなんだ? 邪竜の仕業ではあるまい」
「ああ、聖騎士様! 先ほど、ミレイル様に助けていただきました!」
「ミレイルとは誰だ?」
青年は不思議そうな表情を浮かべる。
「誰って、聖騎士のミレイル様ですよ。美しい金色の髪の」
「……ミレイルなどという人間は我々聖騎士の中にはいない。大体、この村に派遣されたのは私を含む三人のみ。残りは他の任務に就いている」
「じゃああの方は一体……?」
こっちが聞きたいくらいだ、とルファスは内心毒づく。
「まあ、そのミレイルとやらが何者なのかはひとまず置いておく。一体何が起こったんだ?」
「ええと……」
話を聞いて、まずルファスはこの青年が嘘をついているのではないかと疑った。
第一に、頭の中に声が響く? なんだそれは。聞いたこともない。
そして、一人で何頭もの邪竜を相手取る? 世界に数人しかいないSランク冒険者でもできるか怪しいような芸当だ。
更には、村全体に浄化の光を振りまいた? そんなの、御伽噺の天使じゃないか。
――天使?
「君、そのミレイルとやらが今どこにいるかはわかるか」
「いえ、仲間と合流すると言ってどこかへ行ってしまったので」
仲間。きっと我々のことをそう呼んだのだろう。仮に天使だとして、リフィスト様は聖堂にいらっしゃるため別の天使ということになる。
唯一の天使として"リフィスト様"を祀っている身からすれば、新たな天使の出現は好ましくない。
ルファスは頭を抱えたい気分だった。
「あー、君以外もみんな、無事か?」
「はい! 重傷なのがいましたが、ミレイル様が去り際に治癒をかけてくださったお陰でピンピンしてます!」
「ふむ……そうか……わかった。氷が溶けたら、砕けた邪竜の死体は村の外に出しておいてくれ。瘴気が出てるとまずい」
そんなことはないと頭ではわかっていた。きっとあれも浄化済みだろう。とんでもない"天使様"の力によって。
ルファスの口から溜め息がこぼれ出た。




