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【完結】転生ニートは迷宮王  作者: 三黒
余章

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256 街歩

 あっという間に翌朝になった。準備は万全。

 折角だからということでリフェアと似た服を着ることになった。私には可愛すぎると思ったけど、鏡で見ると案外悪くないような気がしてくる。

 

「リフェア、いる?」 

「あれ、もうこんな時間! ごめんね、準備するから待ってて!」 

「急がなくて大丈夫。彩人もまだいないし」 

 

 ここは大体いつも紅茶の匂いがしてる。迷宮内で流行っているみたい。

 みんな利尿作用が効かないのは羨ましいと思う。御手洗は設置してあるけど、使うのは私だけ。

 ソファに座ってぼーっとしていると、リフェアが出てきた。

 

「お待たせ!」

「お、ちょうど2人揃ったとこか」

 

 彩人も出てきた。眠そうに見える。眠いはずないのに。

 

「それじゃ行くとするか。リフェア、頼んだ」 

「えー? 一緒に歩かないの?」 

「俺はまあその、一応仕事もあるしな」

「へえ、普段あんなにサボってるくせに?」 

「仕方ないだろ、ちょっと緊急で調整が必要なんだ」

 

 怪しい。歩かないっていうのがどういう意味かは分からないけど、歩かず移動できるなら迷わずそうするタイプっぽいし。

 

「ふーん。マスターとのお散歩楽しみだったのになー」

「悪い悪い。つーか元々今日はこっそりっつってたろ。今度暇なときに遊んでやるから」 

「別にいいもーん。私にはお姉ちゃんがいるし!」 

 

 ね? と私を見上げるリフェア。大したことはしてあげられてないけど、頷いておく。

 

「仲がいいようで何よりだ。とにかくリフェア、」

「はいはい。1名様ごあんなーい」 

  

 突然彩人が地面に沈んだ。

 

「……え?」 

「結構過ごしやすいんだよ。静かだし。ね、マスター?」

「おう」 

  

 声は比較的はっきり聞こえた。そこにいるのは間違いないみたいだけど、仕組みが分からない。どうやって地面に……いや、これも影の力?

  

「多分お姉ちゃんの思ってる通り。マスターは今私の影の中にいるの」 

「広さもそこそこあるんだぜ。生き物を2体以上運べないってだけでな」 

 

 2人とも慣れてるみたい。色々聞きたいことはあるけど、ひとまずそういうものだと納得しておく。この世界に来てから不思議なことばかり。

 

「ねえお姉ちゃん、最初はどこ行く?」

「どこって?」

「折角遊びに行くんだし、めいっぱい楽しまないと損でしょ?」  

 

 遊びに……遊びに。

 

「遊びに行くってお前なあ……」

「マスターは黙ってて!」  

「やれやれ」

 

 影の中に入れてもらってる関係上、マスターも強くは言えないみたい。 

 

「……そうね。でも私はまだ街をよく知らなくて。リフェアはどこに行きたい?」 

「えっと、じゃあ最初は端の雑貨屋さんから! 私が案内してあげる!」

「……」

 

 彩人から無言の圧を感じたけど、知らないふり。ただ仕事だけっていうのもつまらないし。どうせなら、この機会に街のことをよく知っておきたい。 

 


 

 

 リフェアとの時間は飛ぶように過ぎていった。気が付けばもう昼過ぎで、いい匂いのしたパン屋に入ることに。

 店の前には短くない行列ができていて、パッと見でも1時間は待ちそうだった。普通に並べば。

 

「専用入口くらいあるさ、当然だろ」 

 

 わざわざそれだけを言いに顔を出して、また引っ込んでいく彩人。どうしても私にドヤ顔を披露したかったらしい。

 店の裏手の細い道を入っていくと、リフェアが突然立ち止まり、3つある小窓の枠を順になぞった。――石畳の道が音もなく変形して、地下への階段が現れた。

 まるで元からそこにあったかのような自然さで、そこにある階段。先は暗くてよく見えないけど、リフェアは慣れた様子で降りていく。

 意外なことに、中は埃っぽさもカビくささもなく、無機質で綺麗で、何もない白い空間が広がっていた。

 振り返ると、やっぱり階段の部分は真っ暗。騙し絵か何かを見ているみたい。

 

「ここからどうするの?」

「えーっと……マスター、どこだっけ?」 

「右奥から左に2歩、手前に5歩だ」 

  

 まだ何かあるらしい。ちょうど右奥にいたので試してみる。

 と、今度は急に部屋が狭くなって――リフェアと2人でも少し窮屈に感じるサイズ――出口も消えた。

 代わりに、目の前に12個の光るボタン。

 

「これは覚えてる! 一番下真ん中、一番上真ん中、一番上左、最後にもっかい一番下真ん中!」 

 

 リフェアが薄く光るボタンを順に押していくと、私たちは既にパン屋の喧騒の中にいた。 

 

「なんでこんなに面ど……手の込んだ仕組みにしたの?」

「マスターの趣味らしいよ? もっと単純でもいいのにね! 私は楽しいからいいけど!」 

  

 そう言って小走りに歩き出すリフェアは、最早パンの方しか見ていなかった。

 

「これとー、これとー♪」

 

 食べ切れるのか不安になるくらいの量をカゴに入れていく。私は控えめにしておこう。

 パンは1つ1つ個包装になっていて、キャラクターの顔らしきものもあった。

 商品名は読めないけど、どれも美味しそう。もう1つくらいいいかな。 

   

「……」

 

 影の方をじっと見つめるリフェア。おもむろに影に手を入れると、1枚の黒いカードを取り出した。

 

「今のは?」

「お会計するからマスターに借りたの! あ、マスターはパンいらないんだって〜」 

 

 文字通り魔法のカード……のような何か。そういえば以前、キャッシュレスがどうのと言っていた記憶がある。  

 迷宮街はまだルナで買い物するところの方が多い。でも彩人曰く、迷宮側からの出店はキャッシュレス限定にしていく予定みたい。人が離れなければいいけど。

 ……会計はなんとセルフレジ。識別タグのような物は見当たらなかったけど、それこそ魔法の力でなんとかしてる? 

 

「お姉ちゃん? おーい!」

「あ、ごめんね。少し考え事してて」  

 

 リフェアはいつの間にか会計を終えていて、もうパンの包装を破き始めていた。

 

「ね、そこ座って食べよ!」 


 指さす先には、ちょうど2人分空いたベンチ。木製のそれは思ったよりしっかりした作りで、そして新品のように綺麗だった。 

 

「いっただっきまーす!」

「いただきます」

 

 この言葉もきっと彩人が広めたんだと思う。言い慣れていたはずだけど、ここだとなんだか新鮮。

 さて、肝心のパンの味は……

 

 ……美味しかった。とにかく美味しかった。ふわふわで、でもしっとりしてて、優しい甘さで、向こうで食べていたものとは比較にならないほど。

 特別文明が進んでるようには思えないし、パンを美味しくする魔法、なんてのがあるんじゃないかと疑うくらい。

 もう1つのパンは、生地の甘さはそのままに、スパイスが効いてて……ちょっと不思議な味だった。こっちの人の口に合うような味付けなのかもしれない。口内に残る香りがクセになる。

 また来たい。来よう。今日だけで私はパン好きになってしまった。あのパサパサの、一欠片口に含むだけで全身の水分を全て持っていかれるようなパンしか知らなかったんだから当然だ。

 

「ふー、お腹いっぱい! ごちそうさま!」 

「ごちそうさま」

「お姉ちゃん、次はどこ行こっか……そうだ、西の方に行ってみない? 最近ふんすいひろば、っていうのができたみたい!」

 

 噴水。私も直接見たことはないし、気になる。

 

「うん、行ってみよ――」  

「おい」

「っ、っ!?」 

  

 足首に何かが触れた。

 立ち上がって蹴り上げようとするけど、バランスを取れずにベンチに再度腰を下ろす形になる。触れたというよりこれは、掴まれている、ような。

 

「――風衝(ルウィズ)!」 

「痛ってえ!」 

 

 足元から声、彩人の。理解した……影の中から腕だけ出していたみたい。

  

「ごめんね。でも驚かせた彩人も悪い」

時遡(ヒール)……悪かったよ。でも魔術はダメだろ魔術は……痛てて」

 

 確かに、いかに初歩魔術とはいえ、無防備な一般人が食らえば骨が碎けるくらいの威力はある。

 でも彩人なら大丈夫。頑丈らしいし。本人曰く勇者らしいし。

 

「で、何のつもり?」  

「別に対したことじゃないんだけどさ、西の方にはまだ端末を設置してないんだ。だから行くにしても説明が終わった後にしてくれないか?」 

「だって。リフェア、どうする?」

「えー? でもマスター、お姉ちゃんにイタズラしたんでしょ? どーしよっかなー?」 

 

 悪い笑顔のリフェア。

 

「えへへ、冗談冗談! 元々それが目的だもんね? 私はそこまでわからず屋じゃないよ」 

「ふう、焦ったぜ。じゃあ早速最寄りの端末……ギルドまで向かってくれ」  

 

 私の手持ちの方の端末に座標が送られてきた。彩人の言葉通り、そう遠くない。

 リフェアと共に歩き始めた、そのとき。

 

「動くな!」 

 

 辺りがザワつく。その中心にいるのは、白い軽鎧を着た集団。誰かを囲んでいるみたい。

 ……あの荷車。まさか。


「お姉ちゃん?」

「おいエア、首突っ込むのはやめとけよ。あいつらが例の聖騎士だ」

「……ちょっと様子を見てくるだけ」 

 

 胸騒ぎがする。杞憂であってくれればいいけど。

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