222 賢者カイン
「なぜ僕を守らなかった!」
「も、申し訳……」
「謝ってほしいわけじゃない!」
毎度のことだがギスギスしてんな。見てるこっちもテンション下がるぜ。ギス禁止でいきませんか?
「……いいや、結局は僕の術が未熟なのが悪いのか。やっぱりこの程度の力じゃ意味がない」
「マコト様のせいでは!」
「やめてよ、マローナも。僕は腕を治してもらってくる」
シルキーの落ち込んだ感じが悲しい。普通に彼女らにも魔術使わせてやりゃあいいのにな。あそこで咄嗟に自分の身守るのは普通だろ。
「えらく雰囲気の悪い勇者であるのう」
「そうなんだよ、ずっとあの調子でさ」
「カカカ、何を焦っておるのやら」
全くだ。解析とかいうチートスキルあるんだからそれで満足しとけよな。
「わわ、酷い傷! ちょっと待ってね――治癒」
言うほど酷くもないだろ。時間が経ったせいでコートはえげつないことになってるが。
「ありがとう、シエル。さっきの大聖浄も良かったよ」
「ボクの方こそ、ありがとね! あれもマコトの炎弾あってこそだよ!」
そういやエルダー戦のアシストは悪くなかったな。ただあくまでメインは解析であるべきだし、あそこで重傷負って術式に集中できなくなったらどうするつもりだったんだか。
「にしても、いきなり強い敵だったな。ゴブリンには気を付けてかないと」
「もう地下69階だもんね。マコトのお陰であんまり戦わずに来れてるけど、本来はあのくらいが結構いるのかも」
いや多分いないぞ。普通に地下90台のモブくらいの強さだった気がする。低層ボスより普通に強いくらいってことだ。
「よっし、そろそろ先に進むとしようぜ。誠、シルキーさんたちは?」
「向こうで待機してる。呼んでくるよ」
姉妹の方にカメラを移動させると、なんだか具合が悪そうに見えた。マコトの前じゃそんな素振りを見せる様子はなかったが、今は二人とも地面に座り込んでいる。
まあ戦闘回数自体は少ないとはいえ、二人も一応マコトと同じラインで戦ってるからな。それでいて得意な魔術全部禁止ってんだから、他より疲労が溜まるのは当然だろ。
「二人とも、行くよ」
「はい」
「承知しました」
それでもやっぱりマコトの前では疲れた様子を見せない。つーかそうだ、こいつら一回も長めの休憩取ってないよな。飯も携帯食みたいなので済ませてるみたいだし。
勇者と天使はともかく、こいつらは割と一般人寄りだったはずだ。寝ず休まずぶっ続けで探索ってのはキツいだろ。
野営セットとか用意してこなかったのか? 迷宮街で売ってるのはちょっとした魔道具と組み合わせてあるから嵩張らないし、値段の方もかなりお求めやすくなってるぞ。……今更遅いか。
ボス階層の端末じゃ買えなかったはずだしな。なんでも買えるとそれはそれでヌルゲー化するし、難しいとこだ。
「――解析。左の道を行こう。少し遠回りだけど、ボス前の交戦はなるべく避けたい」
「おっけー!」
安定の解析地獄。ラティスによる結界強化が待たれる。
「おお、次の階にいるのは悪餓鬼か」
「そうだな」
悪餓鬼て。お前も似たようなもんだろ。
「失敬な! 聞こえとるぞ!」
「わざわざ口に出さずに留めておいたってのに。大人の対応を無駄にしやがって」
「聞こえるものは仕方あるまい! 我とて聞きたくて聞いとるわけではないわ!」
え、そうだったの?
「いいや、以前は違ったが……最近は調子が悪くてな。エフィを呼んだ辺りからか」
「おいおい大丈夫かよ」
もう歳か? もう口調が老人のそれだもんな。
「五月蝿いわ! 心の声が! 五月蝿いわ!!」
「五七五で言われても困るぜ悪気はねーんだよ。で、大丈夫なのか?」
「さあの。元々この肉体は人の想いが形になったもの。本来の下級ほどの力は最早ないのやもしれぬ」
心の声とかそういう変なとこからおかしくなってくるの、結構キツそうだ。こんなのなら普通に魔力弱まってくとかの方が百倍マシだよな。
「ま、我のことはいい。ほれ、もう着いたようだぞ」
「おおマジか」
とりあえず、魔物のポップ場所をもう少し制限したいな。特にああいう自由な地形だと散らばりがちだ。
次の天界風エリアは雲っぽい壁で区切られてるから形としては地下1から10階とかに近い。だからそこは安心だな。
「よォこそ! オレの階層へェ!」
「……人語!?」
「――解――」
「っらァ!」
マコトが解析を使う前に斬撃。多分シエルが出したであろう障壁に阻まれたが、無詠唱なのもあって一撃で壊れる。
「――創造――」
「遅ェよ!」
詠唱する隙を与えずに切り上げ、続く二撃目で周囲の地面を叩き割った。まずリョーガから潰しにいくのか。
「――聖浄!」
「痛ってェなオイ!」
「こ、こっちだよ!」
ってシエル。そいつは魔物じゃ……いや魔物ではあるが、その辺の魔物とは違う。多分リョーガの詠唱の時間を稼ぎたいんだろうが、そんな方法じゃ上手くいかないぞ。
「あァ? 舐めてんのかァ?」
「――り、聖浄!」
「クソがァ! てめェからあの世に送ってやンよォ!」
上手くいくのかよ!
「カカカ、実に単純で彼奴らしいわ!」
笑ってる場合じゃないぞリフィスト!
「ンだァ、仕掛けてこねェのか!? ビビってンなら最初っから――」
「創造・雷鎖!」
うわ、バレてる。解析も使われてないのにバレてる。真正面から当たらなければそこまで怖くないってのがバレてるぞ。
しかも土鎖とかと違ってパワーでなんとかできないタイプの鎖っぽい。カインと一番相性が悪い。
「てめ、ェ、正々、堂々」
「――創造・具現化!」
痺れる鎖で上手く動けないカインに、勢い良く剣が振り下ろされる。それもしっかり聖剣っぽい見た目のやつ。これはやられたか――と思いきや。
「なんてなァ?」
リョーガの背後に立つカイン。
うおお、驚いた。まさかの演技派。やるじゃねえか! 前まではこんな方法考えもしなかったはずだ。最近ずっとアイラに稽古付けてもらってたが、それが生きたか。
「おらァ!」
「――防御結界!」
「くっ……!」
「リョーガ!!」
今度はカインが振り下ろしを決める。シエルの張ったベール状の結界はまたも叩き切られ、膝から脛の辺りに一本いいのが入った。
「ヒャアハハハハハ! オレだってよォ、多少ァ頭ァ使えンだぜェ!?」
結界は張るそばから破られていく。魔力を込める時間が十分にないのもそうだが、純粋な力はかなり強いからな。それに正面からの斬り合いはカインの十八番だ。
「――炎獄!」
「うぜェんだよォ! すっこんでろやァ!」
横から飛んできた炎の檻を、ついでのように片手で掻き消す。マコトも呆然としてる。ずっと魔力練ってて渾身の一撃っぽかったし、そりゃそんな顔にもなるわな。
「痛がってる暇ァねェぞ!」
少し立て直したリョーガに対し、再び地面を蹴り、容赦ない一撃を入れるカイン。リョーガは受けきるので精一杯、隣のシエルはそのカバーで忙しくて、治癒に手が回らないみたいだ。マコトがせめて治癒だけでも使えれば別だったんだろうけどな。今回あいつと姉妹はほぼ戦力外ってとこか。
ただリョーガもシエルもかなり強いし、このままあっさり負けて死ぬとは思えない。どうなるかね。




