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【完結】転生ニートは迷宮王  作者: 三黒
第1章

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22 鍛冶屋

前半レルア視点・後半三人称視点です。

 残金は52,000ルナ。武器の相場はわからないが、迷宮内の魔物に持たせる程度なら高価なものでなくても良いだろう。

 鍛冶屋とおぼしき建物に入る。店の奥から金属を叩く音が聞こえてきた。

 

「片手剣――3,000ルナ」

 

 並んでいる武器防具をざっと眺めてみる。

 弓や杖は3,000ルナ、小盾が2,000ルナで大盾が4,000ルナ。両手剣は5,000ルナで、鎧だけ少し高めの10,000ルナ。ここからだと値札は見えないが、右奥に刀や短剣なども並んでいる。

 思えば、具体例に何を買えとは言われていない。種類はあった方がいいだろうし、満遍なく買っていこう。


「すみません」


 返事はない。無視をされる理由は思い浮かばないが、そもそも店の奥以外から人の気配はしない。恐らく声量が足りていなかったのだろう。

 

「すみません!」

「……ああ? 客かあ? 打ち直しか、依頼か! それとも既製品でいいのか!」

「既製品です!」

「ならお前行ってこい!」

 

 音が止んで、汗だくの青年が現れた。

 

「ご購入で、よろしいです、か」

「はい、全て一振りずつ」

 

 よく見ると、杖の魔石は非常に純度の低いものだった。安物だし仕方ないとは思うが、これだと魔術行使の媒体としては不十分ではないだろうか。

 だが、店内に並んでいるものでこれ以上の純度のものは見当たらない。仮に一般的に使われているのがこのレベルなら、やはり素因エレメントの循環に問題が出ているとしか思えない。

 

「これ全部……? 一体なぜ?」

「ええ、と。仲間と使うので」

「今時の貴族様は危険な遊びをするんですねぇ。まとめ買いで30,000ルナになります」

 

 ふむ、どうやら大金を払う者で冒険者らしくない者は貴族と思われるようだ。

 天使のローブは流石におかしいかと思い、薄水色のワンピースなるものに着替えてあるのだが……こちらでは珍しいのかもしれない。マスターの世界では大衆に広まった服装のようだったし、決して貴族の服というわけでもないと思うのだが。

 

「毎度。で、お持ち帰りはどうします? 運搬は別料金となりますが」

「いえ、自分で持ち帰ります――開け」

 

 例の空間を開く。買ったものを次々と放り込んでいると、店員が口を開いた。

 

「これは驚きました。そんな魔術見たことも聞いたこともない……もしやお客さん、巷で話題の新米冒険者さんで?」

 

 巷で話題……まさか。

 

「ひぇ、ま、まぁそう睨まないでくださいよ。別にギルドに報告しようとかいう気はありません。仮にお客さんが例の冒険者さんだとしても僕は何もしませんですとも。ハイ」

「ギルドに報告? 私の首に懸賞金でもかかっているのですか?」

 

 店員の顔はみるみる青ざめていく。図星か。

 

「とんでもない、とんでもない! ちょっと話題になってただけでそういうことでは――ひゃあう!」

「記憶よ、無間へと還れ。――忘却(ヴァビル)

「ひにゃあ……」 

 

 店員は忘却(ヴァビル)の効果で昏倒した。頭を打たないよう、そっと床に寝かせる。

 不味いことになった。いや、不味いことになっていた。

 鍛冶屋にまで知れ渡っているのだ、正確な姿までとはいかなくとも性別や髪色、服装などは広まっていてもおかしくはない。

 家具屋と露天商の記憶も消しておこうか。いや、そんな危険は犯せないし、あの露天商の記憶を消すことはできない。ルドゥードの代金を払えなくなってしまう。

 一刻も早く、いっそ今すぐ帰ることが一番だろう。既に目的は達した。

 幸い、奥にもう一人職人がいるだけで周りに人はいない。空間を閉じ、唱える。

 

「――転移(ラムルト)

 

 

 

* * *

 

 

 

「いつまで寝てんだ、ええ?」

 

 店員は、店の奥から出てきた老人にはたかれて跳ね起きる。

 

「っ!? すいません親方寝不足……で……? あれ、僕何してたんですっけ」

「ふん、記憶を消されたか。例の冒険者と見て良さそうだな。ギルドへ報告に行くぞ、付いて来い」

「ちょ、状況が飲み込めてない哀れな鍛冶屋見習いに説明を……ってあいででで!」

 

 老人は、目覚めたばかりの店員の頬を容赦なくつねった。

 

「記録結晶の映像でも見せてやろうか? 奴が怪しげな空間をこじ開けるのも、お前が無様に魔術を食らってぶっ倒れるのも全て撮ってある」

「ってことはつまり、あの冒険者が来たってことなんです? の割には僕血まみれじゃありませんね、なんて幸運! いでぇ!」

 

 店員はど突かれた頭を抑えてうずくまる。

 

「呑気に喜んどる場合か。例の魔力反応と無関係とは思えんし、どこぞの魔族とも分からん。最後に奴は何かを呟き、そして消えた。突然だ。並みの魔術師ではないことは確実。さぁ、早く準備しろ。行くぞ」

「あいてっ! はい只今!」

 

 もう一度ど突かれた店員は跳ねるように奥へ引っ込む。窓から差し込む夕日が、並ぶ武器に反射して明るく輝いていた。

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