14 再会
ゼーヴェ(ゴースト父)視点です。
(――ゼーヴェ、来客だ。準備をしてくれ)
居間でくつろいでいると、マスターからの念話が入った。
(今、畑やなんやらの追加をしておいた。言い訳はテキトーに頼む。あと、どうも奴さんかなりガチで武装してらっしゃるようだ。戦闘になって、もしキツくなったら言ってくれ)
(承知しました。お気遣い感謝します)
外を見ると、なるほど確かにさっきまでなかった畑、井戸、エクィトス小屋などが追加されていた。
そして、遠くに見える人影。
「リリア、茶の用意を」
「はーい」
剣を傍に置いておきたいところだが、ない以上文句を言っても仕方がない。魔術はあまり得意ではなかったが、それでもそこらの魔術師よりは使える。
なにより、戦闘する気はない。盗賊か聖職者でもない限り我々を殺そうとは考えないだろう。
少しして、トントンとノックの音がした。私は扉を開ける。
「はじめまして、シレンシア騎士団の者です。失礼ながらこちらで魔力暴走など――!?」
見紛うはずもない、その青髪。炎の中でぼやけた視界の端に捉えた、歪んだ笑み。
そう。そこに立っていたのは。
「セリザール」
私を殺した――部下だった。
「貴、様ァ! 闇を集めし黒の檻、内より出でし闇の槍。その力を以て彼の者を封じよ! ――繋檻」
「くっ、解呪!」
奴を覆った闇の檻は、一瞬にして霧散した。檻で囲った後すぐに強力な魔術で吹き飛ばせばいいと思ったが……甘かったか。魔力量が足りない。
「隊長、いや元隊長! よくご無事で!」
「あぁ、久しいなアイウズ。無事ではなかったが今はこうして生きている。それより、そこの屑を庇うのをやめろ!」
「いやいや屑ってそりゃないですよ元隊長。なんで怒ってんのかは知りませんけど、いきなり拘束魔術ってのも過激すぎませんか? 昔のことは水に流して、再会を喜びましょうよ」
ああ、そうか。知らないのか。そうでなければこいつが今この場にいられるわけがない。
「よく聞け皆。私が死んだのは、そこの屑――セリザールのせいだ。あの日火を――」
「騙されるな、ゴースト如きに何を手間取っている! 確実に我々の記憶を読んで作り上げられた幻想だろう、魔力暴走が生んだ魔物に違いない!」
セリザールは叫び、腰の剣を抜いて切りかかってくる。魔術は間に合わない。
初撃を軽く屈んで躱す。開いた懐に氷弾を撃ち込むが、無詠唱のため威力が低い。加えて今の魔力量では、完全詠唱だろうとあまり期待はできない。
「死ねゴースト!」
常人なら目で追いきれないであろう剣捌き。仮にも隊長と呼ばれるようになっただけのことはある。
が、私には届かない。
「――聖盾!」
左前方から流れるように切り込まれた剣を、魔術による盾でいなす。
そして今度は魔術ではなく……拳をぶち込む。
「がっ、うっ」
セリザールは身体ごと派手に吹っ飛んだ。打ち所が悪かったのか気まで失っている。
これほど無防備なら、魔力による武器でも容易にとどめを刺せそうだ。
「そこを退け、アイウズ」
「拒否します、元隊長。フィル、回復魔術を」
フィルが頷き、奴に治癒をかけ始める。
「何故その屑を治す、フィル」
「勿論、俺らの隊長だからですよ。俺らにとっては火を放ったっていう話の方が信憑性に欠けます。上位ゴーストの作り話って言われた方が、まだ信じられる程度には」
ああもどかしい。そして埒が明かない。私一人ではこの集団に到底勝てない。
「く、よくもやってくれたなゴーストめが。もう油断はしない。死ね!」
回復した奴が剣を横に凪ぎ払う。風の属性付与でもしているのか、よく切れそうな斬撃が飛んでくる。
躱せないことはないが、厄介極まりない。こちらは素手だ。掠っただけでもかなりの傷を負うし、この魔力量では打ち消す手段がない。
「親父、一体何が……」
「馬鹿、何故出て来たレイ! 今すぐ中に――」
いや、間に合わない。
「ぐ、ああぁぁっ!!」
気がつけば私は、レイを庇っていた。同時に、左腕の感覚が消える。
「いいか、もう、絶対に、家から、出るな」
レイは呆然とした表情で頷き、急いで家に戻った。
「ふん、ゴーストにも仲間意識があるとは驚いたな。で、左腕は動くか? え?」
言われずとも、左腕が落とされたことは分かっている。酷い出血だ。目の前が揺れる。
(……マスター)
(ああ分かってる。レルアを向かわせるか? ――それとも、お前自身の手で決着をつけるか?)
叶うならば。
(私自身の手で奴の息の根を止めたい……です、が、このままでは私が先に力尽きます。ここはレルア様を――)
(いや、そういうことなら少し待ってろ。これはお前に一般人並みの魔力しか渡さず、武器すらも碌に渡せてない俺の落ち度でもあるからな)
どうするつもりだろう、と考えた直後。
『ゴースト・ゼーヴェの種族が、レイスへと進化しました。進化に伴い、一部オプションがリセットされました』
出血が止まる。腕が再生する。
見た目に変化こそないが、明らかに魔力が増えた。確実に生前よりも多い。
(ご助力感謝します、マスター……いえ)
我が主など生温い呼び方はやめだ。この御方こそは――
(我が王!)
(おう、あとは好きなようにやれ)
感謝の念は尽きない。先程、誤解を解いて騎士団に戻るのも良いなどと一瞬考えた私を殴り飛ばしたい。
仕えるのにこれほど最高な王が他にいるか。レルア様を遣わせて下さればすぐに終わったというのに。たかが一魔物に過ぎない私の希望を叶える為に、貴重な進化まで。
ああ、我が王に一生の忠誠を。
「さぁ、待たせたなセリザール。ここで無惨な最期を遂げろ――具現化!」
かつての愛剣を魔力で創造する。そしてそのまま、怯える奴に向かって一直線に振り下ろした。




