101 融解
「――来る!」
「前は俺が張る! アリー、二体目が見えたら足止めを頼む!」
「了解!」
アレンは両手剣を斜めに構え、ゴーレムに真正面から体当たりする。……が、押し負けて弾き飛ばされた。
「うぉっ……もう一回だ!」
再び剣と岩の体とが衝突、火花が散る。
「ぐ、ぐぐ……こいつ……ふんぬ……!!」
アレンは目を充血させながら、というかどっか血管とか切れてそうなレベルでギリギリ踏ん張ってる。だがアレン、君がいくら筋肉モリモリマッチョマンだろうと長くは持たんよ。なんせちょっとしたボスレベルだからなそいつら。元々勝たせるようにできてないし。出会ったら全力で逃げるべき敵その一だ。
「レイ、まだか!?」
「あと少し耐えてくれ、対ゴーレム用に術式を組み替えてる!」
無茶言うなって顔のアレン。俺もそう思う。冒険者のランク付けはイマイチわかってないが、多分アレンくらいの実力なら五人以上は必要だ。食い止めるだけでも。
「レ、レ、レイ、早く、何か、早く」
ほら限界だぞ、顔色も赤通り越して青通り越して変な紫色になってるし。死にかねない。
「調整して火力に振らないと効かない!」
「もう私が――! 炎牙矢!」
「おい、早まるな!」
アリシアの放った炎の矢は、ゴーレムに突き刺さりはしたものの貫通には至らない。魔石も無事だ。
「……ゴォォォォォ……」
「っ、ぐぁっ!」
ゴーレムは再びアレンを弾き飛ばし、アリシアに向かって真っ直ぐ走り出す。
「きゃ――」
「クソ――炎よ!」
レーザー度が少し増した炎がゴーレムを貫いた……が、すぐに再生する。
「効いていない! 調整が足りなかったし、恐らく耐性も付いてる!」
一度減速したゴーレムが、再び加速を始めた。アレンは瀕死だし、そろそろ別のゴーレムも来るぞ。
「……っ仕方ない、撤退だ! アリシアは両手剣を頼む、俺はアレンを運ぶ!」
「わ、わかった!」
「――氷獄!」
氷の欠片がゴーレムの下半身を凍りつかせる。熱したあとそんな急に冷やしたら危ないだろ! 砕け散ったりしない? 大丈夫? 今んとこ大丈夫そうだがどうなることやら。
恐らくレイの思惑通り、ゴーレムは数秒の間その場で足止めを食らっていた。が、数秒だ。体の方も、多少脆くなってるかもしれないがその速度と火力は損なわれていない。
「不味い、追いつかれる!」
「――炎牙矢!」
逃げながらの射撃。腕に掠ったかのように思えたが、意外にも俊敏な動きで躱される。オートマタだかに劣るって話だが十分早いぞ。
「っ――流星矢!」
降り注ぐ矢の雨に、ゴーレムの体が傷つき始める。無理やり当てにいったか。確かに範囲なら確実に当たる……が、今度は威力不足だ。
「もうすぐ前の階層だ! あと50メルト!」
もうそんなに走ったか。だがなレイ、そう簡単にはいかんのだよ。
「もう一体……!?」
その通り。ちなみに後ろにも続々と集まってきてるぞ。いよっ人気者!
「まだだ、まだ俺だけでやれる……」
「レイ、後ろ!」
「な――」
「――オラァ!」
このタイミングでアレン復活。ゴーレムの腹に拳を叩き込んだが、立ってるのもやっとって感じだな。
「アリー、剣を」
「ちょっと、平気? フラフラじゃない!」
「いいから早く!」
アレンは半ばひったくるようにして両手剣を受け取る、と同時にゴーレムに向かって振りかぶる。
「食らえ――銀狼斬り!」
アレンの銀狼斬り! クリティカルヒット! ゴーレムは倒れた!
倒れたっつーか魔核が破壊されて砕け散った。流石にあの状態じゃ強い衝撃には耐えられなかったか。
「やった、やったぞ――っとと」
「ほら、無理するから! でも……まあ、ありがと」
「へへ、やれることをやっただけだ」
アレンもその場にぶっ倒れ――る前にアリシアに支えられたが、しばらくは動けなそうだ。ゴーレムが残り九体なのに対してこっちは二人。アレンっていう前衛兼盾役が倒れたのは割と痛手なんじゃないか?
「すまんレイ、もう体が動かねえ。あとは頼んだぜ!」
「ああ、任せろ。今ので調整の方向は見えた」
と、入口側のゴーレムが土壁で三人の退路を塞ぐ。そういえば魔術使えるんだっけこいつら。
「待って、今道を――」
「いや、必要ない。むしろ新しい魔術の最終調整にうってつけだ」
レイが腕を広げる。お頭みたいな衝撃波でも出すのか?
「危ないから屈んどいてくれ――融解!」
レイを中心に薄く赤い波が広がる。一見炎界みたいだったが、その違いはすぐにわかった。
岩壁が、チョコレートか何かのように溶けていく。それも、かなりの速度で。
「よし、成功だ!」
「ゴォォォォォォ!」
ゴーレムが今度は土鎖を繰り出した。が、鎖はレイに届く前に溶けて消える。
「思った以上に魔力の消費が大きいな。このゴーレムを倒して一旦休憩しよう」
レイが腕を振ると赤い波がゴーレムに覆いかぶさり、その体を魔核ごと溶かし尽くした。
……マンティコアとかは炎に耐性あったはずだが、この分だとダメそうだな。いくら魔力消費がデカいったって、触れて即溶けるなら関係ないし。
「さて、戻ろうか。俺はまたアレンを運ぶ。アリシアは剣を」
「おっけー!」
おっ、まさか階段上って戻るつもりか? 俺がそんな甘い考え許すとでも思ってんのか?
「避けろアリシア!」
「え?」
「っそ!」
飛んでくる矢に気付かないアリシア。レイに突き飛ばされて事なきを得……るはずもないよな?
ようこそ罠地獄へ。階を戻るなら、相応の覚悟をしてからにしろってことだ。
「きゃああああぁぁぁぁぁ……」
ま、その落とし穴の底はただの水だ。運が良かったな。人喰い鮫みたいな魔物もいない。まあ上るのにアホほど苦労する形状だし、時間が経ちすぎると穴が塞がって困ったことになるがな。
まあ、穴が塞がる方はソロでもなければ怖くない。ここにある罠の中じゃ当たりの部類だ。さてレイの方は……
「腕が動…………ん…………?」
さっきの矢がちょっと掠ってたっぽいな。ただ上層ってこともあって、これも即死毒とかじゃない。この位置の罠は――麻痺毒か。
今は一歩も動けないだろうが、数分すればそれもなくなる。これも当たりの部類だ。
アレンはどの罠にも引っかかっていなかった。あと二、三歩ズレてれば階段の壁から大量の毒針が生えてくるスイッチがあったんだけどな。惜しい。
「おいレイ! しっかりしろ!」
「動…………な…………」
「動けない? ちょっと待ってろ、今浄化を――」
あ、踏んだ。壁の仕掛けが動いて、振動が床まで伝わってる。
「お…………前………………」
「いやいやいやなんだこれ! なんだこれ!? 触ったらまずいのはわかる! だがほとんど動けねえんだ俺は!」
言い訳はいいからさっさと逃げろ。毒は弱いが刺さると痛いぞ。
「くっそ……レイ! ちょっと乱暴だが、我慢しろよ!」
「何…………を…………!?」
アレンはレイを抱えると、そのまま階段を転がり降りた。うおお罠起動しまくり。やべえ奴だなお前。
「痛でででででで! っくー、体中が痛いぜ。まああの針に刺されることはなかったし良しとしようぜ、なあレイ?」
レイは恨めしそうな目でアレンを見る。そらそうだ。体動かないせいで碌に受け身も取れてないし……。
ま、戻ってきたってことは徘徊するゴーレムに出会す可能性も十分にあるってことだ。そうならん用に祈っとくこったな。




