旅の前に 8
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魔獣が住むと言われる北の森の池の畔にワルダーク男爵が管理する木造2階建ての別荘があった。
黒っぽい色の木と白いしっくいで塗られた壁が見事な調和をもたらす特徴的な、派手さはないものの周辺の雰囲気壊さない佇まいの別荘だった。
「ダルナン様、お持ちしておりました。」
別荘の玄関前に止まる、質素な黒い馬車から、白い毛皮のコートに見を包み、指にいくつもの宝石を嵌めたダルナンが降りてきた。
「セルバ、準備はどうだ?」
「はい、滞りなく整いましてございます。」
右手を胸に当て、深くお辞儀をする。
「ふむ、今日はワルダーク男爵様の視察に、急遽、4家の貴族様方もお越しになられる事になった。」
表情を変えずにダルナンは、執事長のセルバに言い伝える。
セルバは、深くお辞儀をしたまま、顔をあげる事なく返答する。
「畏まりました。それではメイド達にお客様の人数等の変更を伝え対応致します。
「うむ、頼む。」
執事長に用件を伝えると、執事長の側に控えていたメイドの一人に案内され、ダルナンは屋敷の中に入っていった。
「さて、急な変更は何時もの事だが、貴族様となると大変な事だな。」
「セルバ執事長、準備の方はどの様に致しましょう?」
執事長の横に控えていたメイドが、増えた貴族に対する準備の内容を聞いてきた。
執事長は指を顎に当て考える。
「そうだな、貴族様方の内容はおおよそ検討はつく。ダルナン様も細かい指示はだされておられないから、多分すぐにお帰りになられるだろう。お食事等の用意はしなくてもよいと思うが念のため、準備だけはして置くように頼む。」
「畏まりました。それでどういったお方達がお越しになられるのですか?」
「それは、聞かぬ方が良い。下手に知れば自分の明日が危うくなる可能性もあるからな。」
「そうですか。では私は準備の方に下がらせていただきます。」
メイドは、執事長の言葉から、おおよその検討がついたようで、納得した顔でお辞儀をすると、屋敷の方に入って行った。
執事長は、メイドが屋敷に入るのを確認すると、そのまま屋敷を見つめる。
「長年、ダルナン様にお仕えしてきたが、ここ十年程で商会も大きく変わってしまった。」
独り呟く執事長は大きく溜息をつき自分の足元を見つめた。
「私もそろそろお暇を貰う事を考えた方がいいかな。」
その俯く顔は何かを後悔しているような、悲壮感が漂う顔になっていた。
しかし、次に顔をあげた時には、その悲壮感は無くなっていた。
「さて私も、最後、の確認に行くか。・・・・」
執事長は、何かを思い屋敷の中へと入って行く。
そんな光景を屋敷の屋根の影に隠れながら眺めているカーナがいた。
「あの、執事長さん、何か思うところがあるみたいね。」
カーナは執事長の言葉に何かを感じていた。
それにしても、今カーナがいる場所から執事長がいる玄関前まで優に50メートル以上はあるはずなのに、カーナには執事長達の声を正確に聞きとっていた。
「レン様のお考えになった、この指向性伝播魔法、やっぱり凄いわ。」
この魔法は一定方向を照準に合わせ、その場にいる者の声や音を、最大100メートル位先まで聞き取れる優れもの魔法だった。
リーシェンもそうだが、以前よりレンは色々な魔法を自分なりに新しく作り出していた。
前世の記憶を頼りに、魔法にイメージを乗せ、その発動現象を理論化していたのだ。
これもレンの対応力が魔法への構築に役立っているようだ。
おかげで、カーナやリーシェンは様々な新しい魔法をレンより教わっていた。
もともと体術や剣術に優れているのにレンの眷属となり、その上で新魔法を習得している事で、どんどん人の領域を逸脱していっている事に3人は気づいていなかった。
それに気づくのはもう暫く先の事である。
カーナは、ポーチから一枚の紙を出すと、リーシェンと同様の式神を念を込め作成し飛ばした。
「後は、レン様が動きやすいように準備をしとこう。」
カーナはその場から音も無く姿を消した。
読んでいただき有り難うございます。




