メイド達の狂騒1
「皆さん!集まっていますね?」
ブロスフォード家の使用人達が主に利用する食堂に、この家で働くメイド達が全員集まっていた。
「今、ちょうど奥様とレン様がお話しておられる間に、くじ引きで決めたいと思います。宜しいでしょうか?!」
「「「はい!」」」
今ここに、10人程のメイド達が集まり、何か異様な雰囲気を作り出していた。
「おい、おい、坊ちゃんのお風呂のお世話をするのに何もくじ引きなんかしなくても良いだろう?」
集まるメイド達に向かって呆れた様に言葉を投げて来たのは、厨房の奥から出て来た、熊の様に大きな体に白いエプロンをした男性だった。
「何を言ってるんです、ゴダル料理長! これは、私たちメイドに与えられたこの世でもっとも尊いお仕事なのですよ!」
ゴダル料理長に向かって、言い返すのはメイドの一人、銀縁の眼鏡を掛けてキリッとした印象の如何にも出来る女代表みたいな女性だった。
「リーシェンメイド長、坊ちゃんのお風呂の世話がそんなに凄い事なんかね?」
リーシェンメイド長と呼ばれた女性は、ゴルダの言葉にフン!と鼻で笑う。
「ではゴルダ料理長は、レン様と一緒にお風呂に入れますか?」
「う!そ、それは、その、なんだ、お、男同士だから、だ、だ、大丈夫、だぞ?」
「最後声が裏返ってますよ。」
ゴルダは、リーシェンメイド長の指摘通りに焦っていた。
何故なら最近、お風呂の準備中で使用人の若い男がお風呂のアメニティーを入れ替えていた所に、システィーヌとの訓練で汚れた体を洗おうと裸になったレンと、遭遇してしまった事があった。
その時、若い男性使用人は、診療所に救急搬送されるほど鼻から血を流して倒れた事件があったのだ。それを知っているゴルダは、リーシェンメイド長の云う状況になった時、同じ事にならない自信が全く無かった。
「ふん、ゴルダ料理長でもそうなのですよ。」
「確かに、一大イベントかもしれん。」
「そうでしょう? 解っていただければそれで良いのです。そして今日は、レン様専属のカーナが週2度の冒険者組合への指導手伝いで留守なのです!」
握り拳を突き上げるリーシェンメイド長と、頷き合うメイド達。
「その留守の今晩、レン様の身支度を担当するメイドは、今日のこの日の為に血の滲む努力をしてきているのです! ですので公平に決定する為にも、くじ引きが最良なのです。」
「まあ、解った。とにかく完遂できるよう祈っといてやるよ。」
そう言って、ゴルダ料理長は厨房の奥へと消えていった。
「では、先週担当した、ルディーを除いた私を含めた10人によるくじ引きを行います!」
リーシェンメイド長は、テーブルの上に準備されていた、掌くらいの長さの木の棒に一つだけ先端が赤く目印を付けた一本の串と、それ以外の串9本をまとめて握った。勿論、色の付いた所が見えないようにだ。
「質問があります!」
突然、一人のメイドが挙手をし質問の許可を求めて来た。
「なんでしょう?」
「はい、このくじ引きは、メイド長も参加するのですか?」
「当たり前じゃないですか。」
「いえ、メイド長の様な皆を取り纏める辛い仕事をしている上に、レン様の就寝の準備や、入浴の手伝いなどしていただくのが心苦しくてですね、これくらい私達だけでさせてもらった方が良いかと思ったのですが。」
「却下!!です!!!」
「その様な見え透いた気遣いなど無用です! 30才前といえ、まだ独身の私の楽しみを奪おうとする者は容赦しません! 正々堂々と挑みなさい!」
もやは何かの世界大会の競技のような熱気が食堂を充満していた。
「それでは、皆一度に取るので、好きな串を掴んで下さい。」
ブロスフォード家のメイドは皆若く、何処に出しても恥ずかしくない以上の美人ばかりなのだが、その彼女等が小さな串を必死に掴んでいる光景は、第三者から見たら異常だろう。




