母様のお願い2
「何ですか?その男嫌いというのは?」
「まあまあ、ちょと聞いてねレン。例えばレンは、貴族や王族が集まる社交界ってどんなイメージなのか判る?」
7歳の子供に問う内容なのか? と思いつつも、記憶は21歳の成人なので答えられるはず 。
と思っていたが、よくよく考えてみたら貴族なんて前世で接点があるはずもなく判るわけが無かった。とりあえず、前世の記憶にある映画や小説を思い出してみることにする。
「えーと、華やか、優雅、洗練、知的・・・・牽制、謀略、裏社会、賄賂、政略、結婚相談所、たい・」
「あー!もういい!もういいよ・・・・良く知ってるわね。」
少し呆れ気味な笑みの母様にちょっと言い過ぎたかなと思うレンだった。
「まあ、そう言うことね。それで続けるけど、社交界はレンの言う通り人の欲望が渦巻くどす黒い世界なのよ。」
「あーなるほど、王女様はそんな欲望むき出しの貴族が嫌いだということでしょうか?」
母の言葉にレンは王女の貴族嫌いの原因を言い当ててみた。
けれどシスティーは小さく首を横に振った。
「近いけどそれだけじゃないの。レンも今度、加護の啓示を受けるけど、王女様も2年前に同じように加護の啓示を受けられてね・・」
システィーは小さく溜め息をつき一時の間を取りまた話し出す。
「王女様の加護の名は、神意を見る者、だったの。」
母様から聞いた加護に驚く。
普通、加護というものは誰でも与えられるものでは無く、主に貴族に与えられ平民には極たまに授けられるものであった。
これは貴族贔屓と云うわけでは無く、国の政に加護持ちは重要な存在であり、加護を持つものは必然的に国に囲われ貴族となるからだ。
その為、加護持ち=貴族となり、そして加護を持つ人の子供は同じように加護を持つ確率が高い為である。
ただ貴族といえども全員が授かるものでもないのだけどね。そして驚いたのは、加護の中に、神、という字があることにである。
神持ちは稀な存在で1000人に一人くらいなものだ。
目の前にいる母様も神の字を持つ、神速の英雄、だから母様も十分稀な存在なのだけどね。そして神の字を持つ加護は他の一般的な加護に比べ以上に強い力を発揮する事が解っている。それこそ、神域の領域と言われているんだ。
「神持ちですか、凄いですね母様。」
「確かにね。でも、問題はそこじゃないのよ。」
システィーヌは溜め息混じりに呟く。
?そんなに問題のある加護なのだろうか?不思議そうに考え込んでいるレンにシスティーが答える。
「まず、加護、と言うものがどういったものかはレンなら判るわよね?」
何か授業を受けているようだなと、思いながら大きく頷く。
「加護とは、全能神オーディから与えられる人の根幹の才能を表しているもの、だったですか?」
「そ!良く勉強してるねレン」
嬉しそうにレンの頭を撫でるシスティーヌ。
「つまり、その人の才能、力っていうことだね。ここで、また質問です。真(神)意の判定者とはどういったものと思いますか?」
完全に先生気分で話すシスティーヌ。
首を小さく傾げ、少し考えた素振りを見せるレン。
「あらゆる物の本質を見抜く事が出来るということでしょうか?」
「す、すごいわねレン。どこで覚えてくるの?」
あまりの模範解答に驚くが、まあ私の息子だからで片付けて納得することにしたようだ。
レンは考えた。
人の本性なんて大きく分ければ善か悪であって、どちらにより近いかで悪党か善人かに別れると思っている。
善も悪も人の欲望という行動が生み出す。悲しんでいる人を助けたい、困っている人がいたら助けたい、これも欲望の他でも無い。
金持ちになりたい、出世したいも欲望。
つまりどんな人間でも行動することは自体が欲望であって、それ自体が悪い事ではないが、その欲望を達成するためにどういった行動をとるかで善悪に別れる。
で、貴族というのはその欲望の塊みたいな人種であって、達成する為には手段を選ばない、どす黒い欲望を内に秘めた社会、それが貴族社会だと考えていた。
大半は前世で読んだ小説や漫画に影響はされているのだがあながち間違っても無いだろうと思っている。
そして、そんな中に王女様が居なければいけないのだとしたら、
「王女様は、常に貴族の欲望を感じているのですか?」
システィーヌは寂しそうな首を縦に小さく降る。
自分はまだ貴族社会に出ていないから判らないが、先ほど自分が言った貴族のイメージがそのままなら、当時7歳の女の子が受けるものとしては過酷過ぎではないか?
レンは物凄く悲しい気持ちになる。
「そういう事情からファルシア様は貴族の人と関わり合うの極端に嫌うようになってね、特に男性貴族は見ただけで逃げ出すになったのよ。」
「どうして特に男性なんですか?」
「それは、ほら姫様ってフォレスタール王国の至宝とまで言われる美しい方だから、男共が嫌らしい想像しながら迫って来るからね。」
なるほど、それは気持ち悪いだろうな。
下手すれば、自分の裸とか想像しながら来るおじさん貴族もいるだろうから、そんなもの見せられて嫌悪感を持たない方が難しいか。
「それでレンには王女様の友達になってもらいたいの。」
レンは母システィーヌの言葉には納得できるのではあるが、どうして自分なのかが判らなかった。
「お母様、王女様の友達になるのは良いのですが、何故僕なんですか?」
「うーん、私の子供だから、かな?」
「はあー・・」
「あーつまりね、私は王妃様と幼馴染みで、王家に嫁がれてからも近衛隊として側に居たからね。ファルシア様が生まれてからも結構身近に居たから、彼女にとって私は家族以外で唯一安心できる存在らしいの。で、その息子なら大丈夫じゃないかなあって、感じ?」
物凄く軽い感じで言ってのけるシスティーヌ。
「それにもし、レンがファルシア様に不義を働くなら私が絶対に許さないと言ってあるから。」
お、お母様、顔が真面目に怖いです。
システィーヌは心底嬉しそうに微笑み、レンなら大丈夫よね?と聞いてくる。
レンも思うところはあるので、お母様の言葉に乗かって見ようと思う。
「友達になれるかは判りませんよ? 僕も一応男ですから。努力はしてみますけどね。」
レンの返事に安堵するシスティーヌ。
「私は、自分の息子の事を信じているし、それにどこから見ても天使の様な可愛い女の子に見えるレンなら、姫様も取っ掛かり易いと思うのよね。上手く、エスコートしてあげてね。」
満面の笑みでウインクしてくる母システィーヌに,我が母ながら軽いなーと思う。
そんな風に思いながら、レンより6歳年上のファルティア王女様の事を考えてみる。
前世の記憶だとレンは孤児でずっと施設で暮らしていて、その時もそれぐらいの子の面倒を良く見ていたはず。
入りたての子なんかは施設に馴染めなかったし、施設に来る事になった時点で何かしら家庭の事情が多かれ少なかれあるもので、色々悩みを抱え込んでいたりするものなのだ。
そういう子等をよく見てきたレンにとっては王女様の気持ちはよく判るつもりでいた。
「まあ、悩みの規模の次元がちょっとちがうかな?」
とにかく、一人の女の子のこれからの事も考えれば少しでも力になれればと誓うのだった。




