スバイメル帝国の闇 18
投稿いたします。
どうかよんでやって下さい。
「ルーシー、それにレンティエンス君、あまり僕の母君を虐めないで欲しいな?」
顔はにこやかに微笑み、決して声を荒げることなく冷静に話すアラヒダ皇子。
けど、その声には空気を凍りつかせるのではないかと思う程の冷たさを感じる。
「ようやく本命が出て来られましたか。」
僕はルーシーを支えながらゆっくりと立ち上がった。
「負け惜しみ、と云う訳でもなさそうですね。さすがオーディ神に寵愛されるレンティエンス君だけの事はあると、言っておきましょうか?」
僕はルーシーを、アラヒダ皇子はゲルフィネス妃を守るように立つと、視線をそれぞれの目に向け相対した。
皇子のその様子は、ひ弱そうな身体なはずなのに、先程までの感じとはまるで違う、圧倒的な存在感を示していた。
「これがアラヒダ兄様? 全然雰囲気が違う。こんな力強さなんか今まで感じた事が無いわ。」
額から冷や汗を流すルーシー。
さすがにこの異様な雰囲気には。気後れしてしまうようで身体も少し緊張しているようだ。
「ルーシー、そんなに怖がるなよ。兄として寂しいじゃないか。こっちへおいで。そんな女男みたいな子供の所にいたって君は幸せにはなれないよ?」
「そ、そんな事! お兄様が決め付ける権利は無いわ! 私が誰と何しようが関係ないでしょ!」
売り言葉に買い言葉でルーシーはカッとなったのかアラヒダ皇子の言葉を即座に言い返す。
「その発言はちょっと兄として許すことはできませんね。ねえ、レンティエンス君、君のせいで妹が悪い女になってしまいそうだよ。これは落とし前をつけさせてもらわなくては、いけないようだね?」
勝手な事をぬかして来るアラヒダ。
まあ、最初から相手にするつもりはないんだよね。
それにルーシーはとってもいい子だよ。
「ルーシーはね本当に帝国の事を考えて、暴走する父皇を止めようと必死になっていたんだ。それを茶化さないで欲しいですね。僕はそういうの好きではありません。」
「真面目な少年だね。いいでしょう。せっかくもう少しは話し相手にでもなってもらおうと思ったのですがやめにしました。早速ですけど死んで・」
「あんた、レン様をなめてるね。」
アラヒダは振り向くことも出来なかった。
「!!!」
彼が気付いた時には大太刀を振り抜き皇子の脇腹にカーナの渾身の一撃が減り込んでいた。
その斬撃をもろに受けた皇子は身体をくの字にしたまま皇座の奥の壁に激突する。
ドゥガアアアンンン!!
レン達以外の貴族や文官にはいったい何が起こったのかさえ判らず、いきなり響いた轟音と振動に身体をびくつかせた。
砕け散った石の壁の埃が舞って視界が悪くなってはいるが、その中心には確実にアラヒダが壁に半分程埋まった状態になっているのが解った。
「くっ! な、何が起こった!?」
あれだけの斬撃を受けて、生きている方がおかしいのかもしれないのに、カーナは特に不思議に思うことなく立ち上がろうとするアラヒダに向かって構えを崩さず睨みつけている。
「ルーシーさんがどれだけ心を痛めてきたのか思い知りなさい!!」
そこへ、大型のハンマーを振り上げながらアラヒダに向かって飛びかかるシア。
それに気付いたアラヒダの表情がみるみると青ざめていく。
「ちょ、ちょっと待て!!」
と言ったと思ったのも一瞬だった。
今度はシアのハンマーがアラヒダの顔にモロに入りそのまま謁見の間の石床にグゴゴゴゴとか振動しながら深く埋め込まれて行った。
普通なら、頭が破裂していてもおかしくない。
しかしシアは叩き込んだハンマーを戻し少し間を置いて構え直した。
アラヒダがこれくらいで死なない事は知っているからだ。
ガラ、ガラガラ、
「くっ! お前ら調子にのりやがって!」
キン!!
「は!? あ??!」
瓦礫の山の中からはいずり出したアラヒダだったが、今全く動けなくなっていることに気付いた。
自分の首に爪の先程の隙間しか無い状態で氷の槍が四方から突き出してきていたのだ。
声を出すだけでその氷の先が首に突き刺さりそうで唾を飲み込む事さえ出来ないような状態だった。
「アラヒダ皇子、観念してもらえます? 僕のお嫁さん達って結構強いのですよ? たとえあなたが悪魔だとしてもそう簡単には勝てないと思います。」
「な! お前私が悪魔だと知っていたのか?!」
「まあ、本当は皇族の誰かだとは思ってたんですけどね。こういう場合の定番って一番遠い所にいそうなのが一番怪しいんですよ。知ってました?」
推理小説とかの定番だね。
「くそ! たかだか神に成損ねている人間に、ここまで追い込まれるとは、」
強がっているが、その額からは汗をかいているし余裕は無いように思えるんだけど、まだ何か隠しているような気がする。
「アラヒダ皇子、これ以上何かしても全て防ぎますよ? 無駄な抵抗は止めて降伏してください。」
僕は慎重に近づきながら降伏を促すが、アラヒダの表情はまだあきらめていない顔だ。
まだ何かするのか? 皇帝は力無く床に座り込んでいるし、ゲルフィネス妃・・・は?
そういえばゲルフィネス妃の姿が、見当たらない。
「レン様! 上!」
カーナの叫び声に見上げるより先に僕は後ろに飛び退く。
そこへ、さっきまで狼狽していたはずのゲルフィネス妃が勢いをつけて飛び込み、アクアが構築した氷の槍を自分の拳でたたき付け、いとも簡単に砕いてしまっていた。
その跳躍も叩き込んだ拳の威力も到底人とは思えない程で、それを裏付けるように、ドレスのあちこちが破け筋肉が以上に膨れ上がっていた。あの騎士達と同じだ。
ただ、アクアの氷は普通とは違う。あれは精霊の力で作り出されて自然界の物とは違う。
だからその強度はダイヤ程の固さがあるはずだ。
だからゲルフィネス妃の拳は半分砕け、ひん曲がっていた。
「貴様、自分の母親に何をしたんだ?」
そんな状況なのに、妃は表情を変えずに僕たちを睨んでいるのだ。
「別に、ただ僕の隷にしてあげたんだ。そうしたら、こんな感じに化け物になるだけだよ。」
「兄様! あなたは実の母親になんて事を!」
ルーシーが怒りをあらわにアラヒダを攻めるが、それをどうとも思っていないのだろう。
顔をが笑っていた。
「ルーシー、まだ僕を兄と言ってくれるんだ? まだ判らないのかい? 僕は深層の悪魔。原始に生まれた祖魔から生まれた数少ない悪魔の生き残りなんだ。そしてこの身体はこいつが赤子の時に乗っ取り今まで育ててもらっていたのさ。ああ、そういう意味ではこの女は私の母親なのか?」
「それじゃ、本当のアラヒダ兄様は?」
「ああ、その魂は私がちゃんと食べさせてもらったよ?」
そう言って舌なめずりするアラヒダに、ここにいる全ての人が嫌悪したことだろう。
「しかし誤算だったな。私一人では簡単に世の中を混乱に陥れる事もままならないし、オーディ神の奴の目も注意する必要があったからね。派手に動かずこうして年月をかけて準備したのに、呆気なく潰し奴が現れるなんてな!」
カーナ達の攻撃で浅くない傷を負いながらも僕を睨む。
「それに、今のままでは力不足も良いところみたいだね。君達ちょっと強すぎるよ?」
アラヒダの口の端が上がった様に見えた。
「!! 皆! アクアの結界まで下がるんだ! アクア防御結界を強化して!!」
僕は咄嗟に、貴族達を守っていたアクアの防御結界までカーナ達を下がらせ、僕は床に座り込んだ皇帝を片手で掴む、ルーシーをもう片方の手で抱き抱えると一気に結界内に逃げ込んだ。
アクアの強化が始まり、さらに僕もアクアと同調して結界をを何重にも展開させた。
その瞬間、ゲルフィネス妃の身体が大きく膨れ上がり、肉が破れる隙間から閃光が弾け飛んだ!
一瞬の静けさの後、轟音が鳴り響く。結界の中にいるのに音と振動が容赦なく襲ってくる。
視界は光に阻まれ全く見えなくなっている。
しばらくし、振動や音はおさまるが、その光の残像が残り視界を取り戻すのに時間がかかってしまった。
「皆、大丈夫?」
光がほぼおさまると僕は皆に顔を一人一人確認する。
「はい、大丈夫です。」
「私も、大丈夫だよ。」
「主様、大丈夫。」
「先輩、ありがとうございます。」
取り合えず皆が無事だったのは良かったけど、僕たちの周りの惨状に言葉を失う。
先程まで居た謁見の間は床の一部を残し、壁も天井も全てが消し飛んでいた。
さらにその先の建物にも影響が出ている。
壁や屋根が結構倒壊していた。
僕はその惨状を一通り見渡しため息をつく。
「取り逃がしちゃったみたいだな。」
僕の周辺にはアラヒダの気配は完全になくなっていた。
読んでいただきありがとうございます。




