旅の前に 20
投稿いたします。
不定期で申し訳ありませんがこれからもよろしくお願いします。
「さて、準備も出来たしカーナ剣を構えろ。」
カーナはアヒムの命令に忠実に行動を起こす。
腰を低くし、刀を持つ手を後方へ引いて剣先を一直線に僕へ向けた。
僕も身構えて対抗する。
僕は、これからカーナに過酷な事をさせようとしている。
そうしないとアヒムに悟られずカーナを捕まえる事が出来ないんだ。
だけど、カーナがそれに耐えられるのか?
カーナが僕を真っ直ぐに見ている。
目に力を感じないので視線が合っているのか今ひとつ確信は無いけど、それでも僕はカーナとの視線を合わせ、訴えかける。
カーナの心に。
僕がこれからする事に耐えて欲しい事を。
「止めなさい! カーナさん目を覚ましなさい!!」
自由を奪われたリーシェンが顔だけを上げて必死にカーナに訴えかける。
でも、カーナが反応する事は無く、無表情のまま、僕の方に向いて身体強化魔法を掛けて力を貯める。
僕は、ほんの少し視線をアヒムの剣を見る。
残念。
この状況になれば、アヒムの剣がカーナから外れる可能性に賭けたんだけど、そう甘くなかったか。
変態のくせに用心深い奴め。
僕は直ぐにカーナの瞳に僕の視線を固定する。
どんな状態になってもその瞳から視線を離さない様にするため、そうすれば、
「それでは、レンティエンス君、何も出来ずに君の従者に殺されるがいい。殺れ!」
「カーナは従者じゃない! 僕の大切な人だ!」
カーナから、物凄い圧力が僕に向かって来た。
僕とカーナの間は10~12歩くらいしかない。
こんな距離、カーナなら瞬きの時間も必要ない。
「カーナさん! だめ!!!!!」
「来る!」
ほんの一瞬しかない間、なのに僕は物凄くゆっくりな時間にこの時思えた。
それは、カーナの瞳から涙が出ているのを見たからかもしれない。
しかも微かに赤く染まっていた。
血の涙。
カーナが苦しんでいる。
僕がふがいないばかりに、こんな辛い思いをさせてしまった。
これを切り抜けたら真っ先に謝ろう。
そして、これからも僕を助けてくれようにお願いしよう。
その為にも、僕が何とかするんだ!
泣いているカーナの瞳に向かって僕は自信のある笑顔で迎える。
カーナ! 僕を信じて! そして自分を信じるんだ!
ドスン!!
深く重い物が僕のお腹に響いた。
僕の白っぽい騎士服が一気に赤く染まり始める。
カーナの刀は僕のお腹からそのまま背中に剣先が深く抜けるほど刺さっていた。
刀が僕の身体に深く刺さっているので、僕の顔とカーナの顔が額を付けるほどに近くなっていた。
「いやああああ! レン様!!!!」
リーシェンの叫び声がなんだか遠くに聞こえる。
これは案外やばい!
痛みは確かに凄く痛いけど、こんなの母様の扱きに比べたらたいしたことはない。
それより出血による思考とか視界とかが思った以上に低下するのが早いし、その上、身体から力が抜けて行くのが早すぎる。
一度気合いを入れ直し、目の前にあるカーナの顔を両手で挟むと、視線を固定しカーナの瞳の奥へと意識を潜り込ませる。
アヒムに出来て僕の加護、神対応が出来ないはずがない!
僕は意識をさらに集中しカーナの瞳の奥へとさらに沈めていく。
僕の周囲が急に暗くなりとても冷たいと感じた。
さらにその奥へと進めると、裸の女の子がうずくまっているのを見つけた。
「カーナ?」
その女の子は僕くらいの年齢に見えるが、その特徴のある赤い髪と赤い瞳は間違いなくカーナだと僕の心が言っていた。
「レン、さ、ま。どうしてこんな無茶をされるんですか、私はもともとメイドでただの護衛なんですよ? 私なんかの為に命をはる事はないんです! 私の変わりは他にもいるんです! でもレン様の変わりは居ないんですよ!!」
うずくまって顔を伏せながら、カーナは叫んで怒っていた。
「ごめん。でもそれは無理。もうカーナが居ない世界なんて考えられないもの。僕が赤子の頃から一緒にいて、たぶん母様より僕の事を知ってるのはカーナだし、僕が何も言わなくてもなんでも判ってくれるのもカーナだもの。いないなんて考える事自体、無理だよ?」
「それなら! レン様こそいなくなってしまったら駄目なんですよ?! 私には耐えられません!」
「だから、僕もカーナもいなくならなければ良いんだよ?」
「え?」
やっと、顔をあげてくれたカーナの顔が少し驚いている。
「カーナ、僕の声が聞こえて、このお腹の部分にわざと刺してくれたんでしょ?」
「え、確かにレン様の声が聞こえた様な気がして、とにかく身体を動かそうとはしていましたけど、殆ど役にたってませんでしたよ?」
不安そうに顔をあげて僕を見つめる小さなカーナの頭を優しくなでる。
「ここなら内蔵にも殆ど傷が付かないところだから、傷口をふさげば何とかなるんだ。後はカーナに掛かった魅惑の眼差しの催眠術を解ければ良かったんだけどね?」
「?」
「はずだったんだけど思った以上に血が流れて意識がなくなりそうなんだ。だから急ぎたいんだ。」
また来て下さい。




