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28 抱擁は特効薬と呼べるのか



 ウッドには、大変世話になっている。山中で助けられたのも、出産してからスートと一緒に支えてくれたのも、とてもありがたい。夫婦揃って、家族揃ってフィストの推しだ。間違いない。

 だからこそ、計画とは言え騙すのは良心が痛む。


「新婚というだけでなく、別れを覚悟してからの復活だから想いも一入なのかもしれないね……」


 のだが、やはりフィストが何を言うまでもなく、彼らはちょっと見ただけで噂を補強していった。


「奇跡的に生き延びて、やっと再会できたんだ。愛する人を確かめたくなる気持ちはよくわかるよ」


 しかも、しみじみと理解を示すウッドは、実際魔物の襲撃で最愛の妻を失いかけた経験がある。

 彼らこそが生きるか死ぬかの九死に一生を得た奇跡の夫婦だった。

 自分達の過去と重なるのか、あっという間に理解を示され受け入れられた。その頃の気持ちを思い出すのか、とても親身に気遣われる。


「大切な人の人肌は特効薬さ。良い習慣だから、これからも続けて行くと良いよ。俺も帰ったら同じ事を妻にしたくなってきた」

「はは……」


 推し夫婦が抱き合うのは大歓迎だが、薦められるのは何か違う。

 苦笑で返しながら、話を変える意味も込めて珍しい時間に現われたウッドに尋ねた。


「こんな時間に村の外れまで来るのは珍しいですね。何か用事ですか」

「ああ、そうなんだ。実はエンの具合が悪くて」

「え、大丈夫ですか」


 エンはウッドとスートの可愛い長女だ。

 兄のジョーイの後ろを付いて歩くじゃじゃ馬で、フィストとルミネが村に行けば真っ先に近付いてくる。ルミネと一番年が近く、自分より小さいルミネにお姉さん風を吹かせてよく世話をしてくれている。

 そんなエンの具合が悪いと聞いて、フィストは姿勢を正した。


「熱はないけれど、咳が酷くて。万が一、赤ん坊のルミネちゃんに移ると大変だから、暫く気を付けるように言いに来たんだ」

「お気遣いありがとうございます」


 フィストはルミネを連れて村へ行く事が多いので、移らないようにと忠告に来てくれたらしい。

 子供は簡単に体調を崩し、病であっという間に死んでしまう。

 勿論ルミネは心配だが、エンの症状も気掛かりだ。


「薬はありますか? この村、医者も薬師もいませんでしたよね」


 引退した産婆はいる。全く腹の出ていないフィストが妊婦だと知って仰天した産婆だ。


「長持ちしないからね、薬って。症状を纏めて、薬を貰いに自警団の若いのが麓に走ってくれているよ」


 医者は、そもそも数が多くない。村に一人薬師がいれば運が良い。

 聖女の聖なる力は怪我も病も吹き飛ばすが、聖女や聖人と呼ばれる人間は医者より少ない。その力も人それぞれで、何かを対価に消費する。


 聖女セーラは自らの体力を対価に、癒しの力を行使していた。

 今では精神疾患(ヤンデレ)が目立つが、セーラは国一番の聖女のままだ。


「こういう時、幻の薬草があればなと思うよ」

「……あー、幻の……」


 フィストが色々誤解されるに至った原因の一つ。


「あれは万能薬といっても良いくらい、身体の調子を整えるから。栽培できたら村を挙げて育てたんだけど、どうも人の手が入ると枯れてしまって……本当に幻だよ。フィストさんはよく見付けてきたね」

「ははっ。私もどこで見付けたか覚えていないので、二度目は無理ですけど」

「仕方がないよ。幻だもの。神様の気まぐれと言われるくらいには」


 本当に無理だよ。形状も覚えていないから。


「でも、それで旦那さんが助かって良かった。村の人達と、神様の気まぐれが奇跡を起こしてくれたと大騒ぎだったよ」

「村ノ人達ノゴ厚意ガアッテコソノ奇跡デシタ」


 本当に奇跡的な思い込みのおかげで、こちらの命が助かりそうだ。

 久しぶりに聖女らしいセーラを脳裏に描いていたのだが、すぐに包丁を持つセーラの姿に切り替わってしまった。


 忠告を終えたウッドは、エンの看病があるからと村に引き返していく。その姿を見送って、フィストは山に踏み入った。


 ――しかし、病か。

 珍しい事ではない。だからこそ、ルミネに罹らないよう気を付けなければ。


(帰ったらアスターにも教えないとな)


 ギクシャクしてはいるが、ルミネに関してはお互いの心境など気にしていられない。実際、ルミネを真ん中に挟めば、以前と変わらない態度でいられた。

 その分、ルミネが眠った後など、ギクシャクが戻ってくるのだが……。


(いや、思春期の青少年じゃねぇんだから)


 いい加減、切り替えなくては。

 妙に浮つく気持ちを落ち着かせる為、木々の間で深呼吸をする


 何度か繰り返した時、ふと視界の端に人影が見えた。

 ネクだった。


(……何してんだ?)


 自警団の団長として見回りだろうか。しかし彼が屈んで見ているのは、周囲ではなく白い野花。防腐剤にも使われる、どこにでも咲いている花だ。

 ネクはその花をじっと見た後、立ち上がって村の方へ消えていった。


(なんだったんだ?)


 不思議に思ったが深く追求する事はせず、フィストは魔物を警戒して見回りへ行った。


 それから暫く。

 村では子供を中心に、病が流行り始めた。



不穏がスライディングでこんにちは。

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