この単純ドラゴンスレイヤーはやはりチョロい
大陸北西部・ユーファミラ王国王都
「む」
「どうしたの?」
「小さい子は?」
そろそろ寝ようかとソファーでまったりしていたら、リビングに来たノイエが部屋の中を探して回る。
「ここに居るけど?」
「それ違う」
ほほう。ノイエがポーラとコロネの違いを把握したのか?
「服が違う」
「そこね」
「もういいです」
シクシクとコロネが泣き出した。
確かに今のコロネは緩い感じのドレス姿である。というかポーラの姿をした悪魔にメイド服を全て没収されたので着替える服がメイド服以外なのである。そのため寝間着には不釣り合いなドレスを着ている。
そして現在僕の枕だ。
今夜はノイエの膝枕を堪能するはずが、彼女は食事にお風呂にとフラフラしている。
「で、ポーラに何か用?」
「……」
僕の問いにノイエの首が傾いた。
これは言うべき言葉が分からない感じかな?
「そっちの小さい子を貸して」
「へいへい」
体を起こすとコロネが立ち上がる。
『何をすれば良いのですか?』とメイドらしく聞いているが、何故かそのままノイエが拉致していった。
何をする気だ?
まあ良い。今夜はぐっすりと寝て明日ぐらいから帰国に関しての相談をフランクさんとする予定だ。ぶっちゃけもう帰っても良い。問題は途中の街道かな?
どう無理やり北寄りのルートで帰国するか……出来ればドラゴンが大量に湧いている辺りに突入してノイエに御馳走を振舞いたい。
「ん~」
ひじ掛けを枕にして腕を組んで足も組んで天井を見つめる。
まあ多少強引に北側のルートへ走れば良い。
公国の人もドラゴンが姿を見せれば無理やり襲ってこないだろう。後は北側のゲートまで強行軍で問題ない。
聞いた話だと北側のゲートは寂れていて利用者が少ないらしい。
何より小国の支配下なので公国からの邪魔が入らずに帰国できる。
楽しい遠足は帰りのルートまでちゃんと考えるものです。その場のノリで勢い任せに勝手をし過ぎると帰る時に困るとかの問題が発生するから注意が必要なのです。
思っててこんなにもブーメランが帰って来ることも無いな。
「ふにゃ~っ!」
ん? 何故かコロネの悲鳴が聞こえてきたような?
身動きしないで耳を澄ますが……何も聞こえてこない。
気のせいかな?
「まあ後はどれだけノイエが喜んでくれるかだな」
「はい」
「はい?」
独り言に返事があった。顔を動かし視線を巡らせると静々とノイエが歩いて来る。
マジか? それは……ふむ。一回落ち着こうか?
逸る自分に言い聞かせ、僕は体を起こしてソファーに座り直す。
まずやって来たノイエを正面から確認する。
肌色率が大変高いです。でも全裸ではない。最低限の布で体を隠しているから映像的にアウトではないはずだ。何より露出してはいけない部分を完璧に隠している。
だがこれがとんでもない罠である。
『隠してあれば何をしても良いのか?』と聞きたくなる実例だ。
「よいしょ」
立ち上がって相手を時計回りで観察する。
下は紐とTのコラボレーションだ。これ以上の様子を語る語彙力が僕にはない。ありのままを発現したら露骨にエロくなってしまう。そして上は極小のマイクロビキニで良いのだろうか? 重力に負けないノイエの胸をギリギリの大きさで隠している。それ以上小さくしたらアウトだが、少しでも動いたらアウトな気がする。
一周して改めてソファーに戻り座り直す。
「ノイエさん」
「はい」
夫としてこれは確認しておかねばならない。
「その衣装は?」
「貰った」
つまり『渡す』と言っていた王妃さまが約束を守って……あのアタッシュケースっぽい鞄の中身かっ!
全ての謎が解けた。犯人はどうでも良いです。目の前の事実だけを受け入れられれば大半の罪など僕は許してしまおう。
「それでアーマーは?」
「邪魔だから……要る?」
「ふむ」
ここは悩むところだ。今の状態ではマイクロビキニを着用したノイエでしかない。ビキニアーマーではない。だがそれを否定しても良いのではないか? 何故なら目の前に居る美しい存在から視線を離すことが僕にはできるのか? 否。断じて否である。
「つまりそれを着るために……コロネは?」
「蓋をしてきた」
「そうか」
蓋? 蓋とはなんだ? この部屋に存在する蓋はトイレと……湯船か!
つまり着替えを手伝わせ、終わるなりノイエはコロネを襲って湯船に放り込み蓋をしたということか。
そしてノイエは決して頭の悪い子ではない。蓋が簡単に外れないように細工しているはずだ。
邪魔は入らない? 今夜は誰も邪魔をしない?
「ノイエ」
「はい」
立ち上がって僕は彼女の元へと歩み寄る。その背中と足に手を伸ばして相手を抱え上げる。
俗にいうお姫様抱っこだ。たぶんノイエが何かしているのかこの時のノイエは重さを感じない。普段からノイエに重さなんて感じないけどね。
「まずは約束の膝枕からで」
「はい」
僕の首に抱き着いて来たノイエが頬を寄せて来てスリスリと甘える。
我慢だ。その艶やかな肌に普段以上の色気を感じるがここは我慢だ。
まずはエロい姿を堪能する……それが紳士と言うものだろう?
足取りも軽く僕は寝室へと向かった。
下から見上げるマイクロビキニの胸元ってダメだと思います。秒で理性が飛びました。
「アルグスタ様?」
「ふへ~」
宿屋の食堂でぐったりしていると、やって来たテレサさんが僕の姿を見るなり首を傾げた。
ちなみにコロネは無事に救出した。というか余りにも酷いことになったから、体を洗おうと浴室に行ったらドンドンと湯船の蓋を叩く音が聞こえてきたのだ。
すっかりその存在を忘れていたとも言えず、あくまで救出が遅くなってごめんねと言った感じで蓋をこじ開けてコロネを救った。
真っ暗な狭い空間で監禁されていたコロネが危うく新しいトラウマを覚えそうになっていたが、抱きしめて頭を撫でたら落ち着いてくれた。ただそのあと2人でお風呂に入ることになったのは色々とごめんなさいと思う。元々僕はベトベトな体を洗うために来たのだから。
そして現在コロネは宿の人たちの清掃に立ち会っている。湯船の蓋は弁償確定である。ノイエが完全に変形させてしまったので使用不可だ。それ以外にも色々と壊しているかもしれないから確認している。
部屋のフル清掃は確定だから今夜も宿泊するなら別の部屋か別の宿を考える必要がある。
「生きてますか?」
「ん~」
意識はある。疲労は物凄いけどね。
でも何ていえば良いのかな?
幸せに満たされた感じで今の僕は大変満足している。これか、これが俗にいう『我が生涯に一片の悔いなし!』って状態なんだろうね。
「で、な~に~?」
「あっはい」
やって来たテレサさんが僕の了解を得て椅子に座る。
あ~すみません。こちらの恥ずかしい格好をしたドラゴンスレイヤーさんにお茶と茶請けでも。
控えている女性の給仕さんにお願いしつつ僕はテーブルの天面に顎を乗せた。
腰へのダメージが大きすぎて背筋を伸ばすのが辛いんです。こんな姿でごめんなさいね。
「見なれているので」
「慣れないで」
「あはは」
笑って誤魔化すな。
「あの~ポーラさんは?」
「夜逃げしました」
「やっぱり?」
「……とは?」
僕の適当な答えに返ってきた言葉に大変不吉なモノを感じます。
「この王都から一番近い遺跡にポーラさんらしき姿が目撃されたとかで」
たぶんウチの悪魔だね。
「フランクさんが確認に向かっていますが……ポーラさんですか?」
「ん~」
ここはどう返事をするのが正解なのだろう?
「良いですかテレサさん」
「はい」
今から真面目な話をします。
「この世には自分に似た人が少なくとも3人は居るとか。つまりポーラに似た誰かという可能性もあります」
「そうなんですね」
良し。この単純ドラゴンスレイヤーはやはりチョロい。
後は焼き菓子でも持って来て買収すれば問題ないだろう。
と、思っていたら今度は残念ビキニアーマー姿の椅子がやって来た。
キョロキョロと食堂の中を見渡しているがノイエは居ない。
何故なら彼女は『屋台』と言葉を残し出て行ったからだ。
一応国賓だからノイエがフラリと出歩けばユーファミラ王国の人が見張ってくれるはずだ。
ぶっちゃけノイエの身の危険は微塵も考えていない。問題は僕が渡した金貨の使い方を彼女が理解しているかだ。
食い逃げ確定だからその弁済をしておいてくれれば助かる。
「で、椅子の用は?」
「ええ」
どうも彼女もテレサさんと同じ理由らしい。
「もし遺跡に入りたいのなら許可証を発行する用意があるとお母さまが」
「うん。そうか」
ぶっちゃけ遅い。あれは自由を愛するトラブルメーカーだ。
そんな許可証が無くても勝手に潜る。
「あ、それと公国方面から大至急で連絡が来たのだけど」
勝手に椅子に座った椅子がお茶と茶請けを頼んでいる。別に良いけどね。
「公国軍が街道を封鎖しているってことなんだけど?」
あ~うん。そっちか~。そっちの展開か~。
想定していたけど一番面倒な方に転がった気がした。
© 2025 甲斐八雲
ノイエに膝枕をして貰ってそれを下から覗くだと?
この主人公はそろそろもげれば良いと思いますw
ちなみにこれがリグだと顔が置き場になるので直で見つめることになります。
大きさも大切なのです。これ、テストに出ます!




