しゃるうぃーだんす?
大陸北西部・ユーファミラ王国王都
「あはは~」
「……」
レニーラがフワフワと動くアホ毛と戯れている。
斬新である。僕は一体何を見せられているのだろうか?
「解説!」
「ちょっと待って。ここにカメラを設置したら」
「しなくても良い!」
強めの口調で告げると『やれやれ』と肩を竦めた悪魔が魔道具を置いてこっちに来た。
「何よ? わたしはこの後の兄さまと舞姫の激しいせめぎ合い……一方的な攻勢への録画準備で忙しいのよ。大攻勢かな?」
「いっぽうてき?」
話を聞いていたコロネが顔を真っ赤にして逃げて行った。
だが勘違いしないで欲しいコロネよ。その一方的は君の勘違いだ。僕が一方的に侵略される身だ。
「弱小国の運命よね」
「何が?」
「ゲーム開始直ぐに攻められて滅亡するのって」
「……」
違う。僕は何度か耐えられる系の弱小国ですからね?
「でも結局削り殺されるんでしょう?」
「否定はせん」
それが弱小国の運命であるのなら僕は受け入れよう。
「で、アホ毛のことだけど」
「そうそれ。重要なのはそれ」
「何か問題あるの?」
「……」
問われ改めてレニーラたちの様子を確認する。
立ち上がり踊るように揺れるアホ毛と指先で戯れるレニーラが居た。
うん。絵になる。
「今の様子を録画しておくように」
「エロくないんですけど?」
「……」
このエロ魔女は後でやっぱりお仕置きが必要ですかね?
「まあ今まで姉たちが出てきた時姉さまがどうなっていたのかって結構謎だったのよね」
唐突に悪魔が語りだした。
「でも今回の件で謎が解けた」
「つまり?」
「姉さまの意識は魔剣……つまりアホ毛に居たのよ!」
「なっ!」
せ~の。
「「何だって~!」」
人数の都合で悪魔と一緒に驚く。
こんな時コロネが居れば……あいつはこのノリを理解していない。
軽く悪魔と握手を交わして僕らはまた会話へと戻った。
「そもそもあのアホ毛は姉さまの感情を、破壊衝動や殺人衝動を封印するために作られた魔剣だった。それを一度補強し、そして今回双剣にした。そこまでは良いかしら?」
大丈夫です。僕もそこまで馬鹿ではありません。
「この辺からはわたしの想像になるけど、補強した時点で姉さまの意識はたぶんアホ毛に移動するようになっていた。でも色々と足らなかったのだと思う。だから普通の髪だった」
普通の髪って何ですか? アホ毛は普通に髪の毛だと思います。
「でも今回双剣になり姉さまは腕を得たのだと思う」
「腕?」
「そう。自由に動かせる手足で良いのかな? 足は言い過ぎかな? 歩き出したりしないわよね?」
知らんよ専門家。僕がむしろそれらを聞きたいのです。
「まあ見た限りアホ毛の可動範囲内でツッコミを入れるぐらいが精いっぱいだと思うけど」
言いながら悪魔はエプロンの裏に手を入れる。
「舞姫」
「ほ~い」
アホ毛と遊んでいるレニーラがこっちを見た。
彼女は最初から謎を解明する気などないっぽい。楽しければ良いじゃんとある意味で一番正しい。
「姉さまとジャグリング」
「おっとっと」
何本か投げナイフサイズのナイフを取り出し、悪魔はレニーラに向かい適当に放り投げる。
飛んできたナイフをレニーラは慣れた手つきでお手玉し始めた。
「それで?」
「言ったでしょう? 姉さまと一緒に」
「了解」
もう数本追加されてもレニーラは慌てない。本当に無駄に器用な奴である。
レニーラはナイフのお手玉をしながら……違和感なくアホ毛がお手玉に合流しているな。
2本の触角のようなアホ毛がナイフを弾いてお手玉している。
「で、僕は何を見せられている感じ?」
「やっぱりね」
「はい?」
『我真実を得たり』とばかりに頷いた悪魔がビシッと指を向けた。
「片方のアホ毛しか動いていない。つまりあっちが新しい魔剣であり、姉さまの腕なのよ!」
「なるほど!」
凄いよ悪魔。こうも簡単に……僕らの目の前で2本のアホ毛がナイフを弾くようにお手玉を始めた。
「悪魔さん?」
「ふっ」
笑い彼女は髪の毛を掻き上げた。
「これでまた一つ謎が解けて謎が深まったわ!」
「解けてないだろうっ!」
「その通りでございましたっ!」
取り出したデカハリセンで悪魔の後頭部を全力で振り抜いていた。
『ん~。飽きた』と言いたげな感じでアホ毛がジャグリングを止めてアホ毛に戻った。
動かない? 触って確認するが普通に髪の毛である。
「魔力切れ?」
「姉さまの辞書にそれって載ってるの?」
「食料が枯渇すれば?」
「可能性はあったわね」
ノイエの魔力の源は祝福でありつまりご飯だ。肉が無くなれば……あれ? そう言えばニクは?
「あれなら国王ご一家の見張りに走らせているわよ」
「リス使いの荒い」
「良いのよ。あんなリスなんて使い捨ての駒よ」
うわ~。後でニクにチクっておいてやろう。
「それでアホ毛が動かなくなったのは?」
「気分屋の姉さまだから」
納得。つまり姉と遊んで満足したのだろう。
「ああ……気づけばウチのお嫁さんがどんどん人間離れしていく」
「結構最初から人間離れしてなかった?」
そんなことはない。そんなことはないぞ? ないよね?
「質問を質問で返さないでくれるかしら」
言いながら悪魔はあちらこちらに魔道具を仕込む。
ちょっと待て。自然の流れでスルーしていたが、それって全て撮影用の魔道具では無かろうな?
「全部なわけないでしょう? 馬鹿なの?」
「ですよね。で、何割よ?」
「……舞姫~。兄さまが舞姫の腰の動きが鈍いって鼻で笑っているわよ」
「なぁ~にぃ~!」
クルクルと部屋の中を移動しながら踊っていたレニーラの動きが止まった。
待て。落ち着けレニーラ。今のはこの馬鹿の……どこに逃げた! あの糞魔女はっ!
「あは~。旦那くんはわたしの腰の動きに文句があると?」
「無いです。いつも通りに切れの良い動きをしています」
「つまりそれを自分の体で確認したいと?」
「言ってないから!」
慌てて逃げ出そうとしたら悪魔が部屋の扉に張り付いていた。
こちらを見てニタニタと笑っている。
「しゃるうぃーだんす?」
棒読みにもほどがあるっ!
だが悪魔は扉を閉じた。パタンと閉じた。
出口は無い。そして後方にはやる気満々のレニーラが居る。
あはは。魔王の間だってもう少し逃げきれそうなそんな感じがするぜ?
「旦那くん。このわたしから逃れられると?」
「あはは」
運動性能に関してはレニーラは間違いなく上位だ。ノイエが最強であるがその下に名前を置いても問題は無い。たぶんカミーラと双璧をなす存在だろう。
逃げられない。逃げた時点で回り込まれる。
考えろ僕よ! 諦めたらそこで試合は終わる。問題は諦めなくても試合が終わる時もある。そんな時はどうしたら良いんですか? 教えてください先生っ!
「あはは~」
笑いながら接近してくるレニーラが一枚一枚と寝間着を外しながら下着にも手を掛けた。
どうする? どっちだ? 立ち技で挑むべきか? それとも寝技か? どっちの方が微かにでも希望がある?
結果としてあっという間に相手のペースに飲み込まれ圧倒的大差で負けた。
いつも通りではあるんだけどね。知ってるよ。
「ん~」
とても気持ちよさそうな声に目を開ける。
開いたよ瞼が……つまり僕はまだ生きて翌日を迎えられたと?
「旦那くんおはよ~」
「……」
どうしたの?
今いるのはベッドの上で間違いない。
柔らかな感触は布団の上で伸びているからだろう。
僕の目の前ではまた腕を伸ばすレニーラが居る。
うん。相変わらず美人である。その容姿はノイエの物だけどね。
「何々? レニーラちゃんの顔に何かついてる感じ?」
「色々と」
「あは~。でも犯人は旦那くんだからね」
恥ずかしそうにバンバンと僕の背中を叩いてレニーラはベッドから抜け出ると床の上に立つ。
普段からノイエの動きを見ているが、レニーラの時は普段の何倍も体が軽くなったかのように見える。
つま先立ちでスムーズに動くからだろうか?
「あは~。ノイエ? もう少し体を柔らかくしないと旦那くんを満足させられないぞ?」
どこか準備運動をしているように見える彼女はそう言いながら、顔の前に降りてきたアホ毛の先端を指先で突いた。
「今度お姉ちゃんが自分の体で出てきてあげるから、その時に正しい体の動かし方を教えてあげるね」
何ですか? その死刑判決は?
「ん~。なら満足したしわたしは戻るね」
言ってノイエから色が抜ける。
あっという間にいつもの色に戻ったノイエが振り返りこっちを見た。
「お姉ちゃんには負けない」
「……」
拳を握りノイエがこっちを見ています。どうしますか?
決まっています。ここは1つ不戦敗で!
「負けない」
どうやらこの魔王の間からの撤退は存在していないらしい。
© 2025 甲斐八雲
ノイエのアホ毛が進化を遂げるw
まあ流石にツッコミ程度ですけどね。それ以上は…考えたくもない。
あれしてそれしてこれしたら北西部編はゴールのはずなんだけど、年内消化は難しそうかな?




