アホ毛が勝手に動いてない?
大陸北西部・ユーファミラ王国王都
「とうちゃく……」
案内された客室のベッドに倒れ込む。
何故だろう? 旅先でベッドを見るとそのまま倒れ込みたくなるのは?
一応上着とかは外しているから汚れる心配はない。むしろ上着を脱がないでこんなことをしようものなら悪魔が怒る。意外と育ちの良い悪魔はこの手のマナーに対して煩いのである。
それは良い。それは良いんだけど、何故悪魔さんは部屋のあっちこっちを移動して確認しているのですか? それは何の確認ですか? 盗聴類の魔道具が仕込まれていないか確認するのは大切?
それは分かる。確認してから君が仕込んでいる魔道具に関しては? 魔法攻撃を防ぐ魔道具? うむ。理に適っているな。で、もう一つの方は? もちろん撮影用の魔道具とか開き直るなこの問題児がっ!
捕まえてマントで簀巻きにしておく。
「それでコロネはどうした?」
「ほへ?」
ソファーに座り居心地を悪そうにしているチビが気になった。
「ばちがいかなって?」
「案ずるな。今回の外出に限り君はドラグナイト家の細君ノイエの妹である」
「それが良く分からないんですけど?」
コロネが言うには何度もテレサさんにそのことを質問されたらしい。
『ノイエさんの妹はポーラさんですよね?』と。
「でもフランクさんは何も言わないだろう?」
「はい。だから変だなって」
テレサさんの保護者であるフランクさんは僕らの行為に何も言ってこない。
もちろん買収はしてあるが、ある意味で最も確実な貴族の言い回しを使用した。
「それは簡単。コロネは祝福持ちだし何よりその義腕の唯一の使い手でしょう?」
「はい」
自分の横に置いている義腕をコロネは見つめる。
神器クラスの魔道具はコロネにしか使用できない仕様になっている。他の者がどんなに魔力を流しても稼働しない。仮にコロネが死んでも名義変更など簡単にできない。だから殺して奪っても意味が無いから直接コロネを襲おうとする人は最近だいぶ減った。
何よりウチのメイドに手を出そうとする命知らずは死んで反省するしかない。
ハルムント式暗殺メイドが僕の屋敷にも居たことを最近知りました。あそこって全員暗殺系のメイドじゃなかったのね。ガチバトル系はポーラとミネルバさんぐらいかと思っていたよ。
「だから『囲い込もうと思って手配中』とフランクさんに言ったら納得してくれた」
「ふへっ?」
間の抜けたコロネの声が響いた。
『ふごっ』と簀巻きにした悪魔が何やら騒いだが猿轡がちゃんと仕事をしてくれたらしい。
「かこいこみ?」
「ま~ね」
気づけばお尻で感じるコロネは色々と付加価値が付きすぎた。
「祝福持ち。魔力持ち。義腕持ち。薬を使わず呪いから生還した唯一の存在と……お前って箇条書きにすると本当に凄いのよ」
ただ祝福と魔力に関してはそこまで評価は高くない。持ってはいても弱い部類だからだ。
「それにその歳でお尻で感じる特別な性癖の持ち主だし」
「ちがいますからっ!」
事実を述べたら全力で否定された。解せぬ。
「そんな訳でドラグナイト家で囲う方向にしないと面倒なのよ。まあ流石にノイエの妹とかにするとノイエがポーラと見分けがつかないという問題があるから……現在扱いに困っています」
養女として引き取ると建前上これが長女になるの?
年功序列的なあれだとそうなるのよね。
ウチの長女はノワールと決めているのでそれはそれで面白くない。
「そこで最近裏技を思いつきました」
「うらわざ?」
何故かコロネがソワソワしてドレスの裾とかを正しだした。
どうした? 何をそんなに気にしている?
「ポーラの養女にしてしまえば良いんじゃないかと?」
「……」
ソワソワしていたコロネの目と表情が死んだ。
僕の言葉に君をそこまでにする毒とか混ざっていましたか?
「ポーラせんぱいのむすめですか……あはは。そうですよね」
膝を抱えて丸くなりコロンと横になって拗ねだした。
「いいんです。分かりました。それでいいです」
なぜそこまで投げやりになる?
「ポーラの娘が嫌なら」
「それで良いです。むしろそれが良いです」
「なら何故拗ねる?」
「……しりません」
背中をこっちに向けてコロネが完全に拗ねた。
うむ。この年代の女の子は良く分かりません。
「疑問を感じている旦那くんにこのレニーラちゃんが教えてあげよう!」
はい?
バンと開いた扉の向こう側から、お風呂に向かったはずのノイエが全裸で登場した。
うん。全身濡れているからお風呂には入っていたはずだな。
「もう一つの解決策は、その子を旦那くんの側室にしてしまえば良いんだよ!」
「全力でお断りします」
「どうしてっ!」
何故か相手が食い下がって来た。
「僕ってば性癖ノーマルなんでお尻で感じる子はちょっと」
「大丈夫! そこは旦那くんの愛で!」
「愛では乗り越えられない性癖もあるんです」
「そこをどうにか!」
どうにもなりません。何よりまず、
「拭いて服を着ろ!」
「おう? あは~」
だからその場で踊りだしてアピールしてくるな~!
「分かるよ? でもね? みんなして表情暗くしてさ~。正直今の魔眼の中ってわたしみたいな人間には居心地が悪いわけです」
「なるほどね」
改めてお風呂を済ませてきたレニーラが僕の膝を枕にしている。
『旦那くんの大切なお姉ちゃんは現在とっても甘えたい気分です。その膝を貸しなさい。後でこれでもかってぐらい旦那くんの上で踊ってあげるから』と言われ『全力で踊らないなら貸します』と告げて相手の申し出を受け入れた。
それは良い。簀巻きから脱出を果たした悪魔が部屋の防音とベッドの強度を調べている意味を問いたい。『苦情が酷そうだから?』とあっさり返事をしてきたので何かしらのお仕置きを敢行してやる。
コロネは朱色のノイエが珍しいのか、目をまん丸にして観察している。
急遽悪魔が作業に突入したのでコロネがメイドに戻っている。
メイドに戻ると服装がメイド服になるのは何故だろう? 制服は正しく着用しないとポーラに怒られる? あれはドラグナイト家の令嬢だから常にドレス着用が正しいはずなんだけどね。
そんな訳でレニーラを観察しつつもコロネが色々と世話してくれる。具体的にはノイエの髪を拭いて乾かしている。普段のノイエなら飛んで跳ねれば滴が一気に床に落ちて後は軽く拭けば解決だが、姉たちに変化しているとそれが使用できない。だからコロネが丁寧に拭いているわけだ。
おかげでレニーラがこちらに顔を向けている。
もぞもぞと口を動かして股間を刺激しないの。
「わたしってば薄情なのかな~」
「それを言ったら僕もかもね」
たぶん僕もレニーラと同じでそんな場所に居たら逃げの一択だと思う。
「性格的に合わない場所というか雰囲気ってあると思う」
「あはは。やっぱり旦那くんは話が分かる」
分かった。分かったから顎で股間を刺激しない。
「それでみんなの様子は?」
「ん~」
軽く考えレニーラが口を開く。
「大半は諦めている感じかな? 元々深部に居る人たちはもうノイエの魔眼から消えたいなくなりたいと思っている人が大半だしね」
「なるほど」
それは仕方が無いのかな? どんなに妹が好きでもずっとその気持ちを維持するのも辛いだろうしな。
「逆に王女さまや魔女たちみたいに足掻こうとしている方が少数かな? 人によっては早く終われば良いのにって……そんな空気が蔓延しているからしばらく深部には行きたくないかなって。でも魔眼の近くで遊んでいると王女さまが『気が散るのよっ!』と怒って来るしね」
「大変だ」
レニーラは悪くない。悪いのは全てあのホライゾンである。
暴走しなければこんなにも愛くるしいレニーラを邪険にするとは許さんぞホライゾンめっ!
「旦那くんもその気?」
「癖です」
甘いレニーラの声に慌てて彼女のお尻に置いていた手を退ける。危ない危ない。
「ノイエの体も悪くないんだけどやっぱり自分の体の方が良いかな~」
「理由は?」
「だって旦那くんをもっと満足、いたっ」
はい?
彼女が顔を抑える原因を僕はこの目ではっきりと見ていた。
アホ毛がペシペシとレニーラの顔を打ったのだ。
まさか?
「グローディアの無乳は死ねば良いと、おっと」
来るかもと思っていたから反応できた。
アホ毛が僕の顔にツッコミを入れてきたが無事に回避。
「甘いなノイエ。この僕が、おごっ」
二股に分かれたアホ毛の片方が僕の股間目がけて攻撃してきた。
それは卑怯だ。卑怯すぎる。
「ってアホ毛が勝手に動いてない?」
厳密に言うと違うのか?
「アホ毛にノイエが宿ってる?」
むしろこっちの方がしっくりと来る。
© 2025 甲斐八雲
ノイエの魔力を吸い上げアホ毛も順調に成長を…成長か?
そんな訳で久しぶりのレニーラです。
現在魔眼の中は彼女には重すぎる空気なのでいる場所がありません。
だったら外に出れば良いと外に出てきましたw




