王都が見えましたっ!
大陸北西部・ユーファミラ王国内
ユーファミラ王国の王都への旅路は平和であった。
ドラゴン1体ぐらいならテレサさんが普通に対応できる。複数出て来るとピンチになるが、その時はコロネの義腕のテスト運転である。義腕のムカデが大暴れをしてコロネが宙を舞って見せなくても良い色気のない下着を披露することになった。でも派手なのとかセクシーなのとかは持っていても着用しない。味気の無いカボチャパンツを晒すあの精神は感嘆に値すると思う。
『好きな人以外に下着姿を見せたくないだけでは?』と悪魔が言っていたが気のせいである。
コロネが色づくには早すぎる。まだまだお子様なのだ。
途中股間のポジションで悩み続けている国王陛下から荷車から馬車への変更を打診された。しかしノイエが応じない。ゴーレムの頭の上を陣取るノイエさん的には僕が馬車の中に入って見えなくなるのも嫌らしい。
結果として少し寒いけど雨が降らないならこのままの方が楽で良いやとなり、だったら『荷車の方を改造しようぜ!』となるのは自然の流れだと思う。
サスペンション的なモノが無いから良く跳ねる。ならば板バネと呼ばれる板をクッションにする機構を搭載して衝撃を和らげる。
マットを引けば更に痛みを吸収できると……悪魔が本気を発揮し、一晩で魔改造を施した。
今では多少の揺れに屈しない素晴らしい荷車に変化した。荷を乗せるスペースの全てにマットが敷かれ、掘りコタツ的なモノが置かれているけど気のせいです。野外でコタツも悪くないと知ることになったが、このコタツはヤバい。一度良い感じになると本当に外に出れなくなる。後みかんが欲しい。
荷など乗せられなくてもこれは荷車である。そう作った悪魔がこだわっていた。
おかげで以降の旅が快適になった。時折王妃さまが来て荷車に上がり雑談する。
ビキニアーマー着用の王妃さまは『おほほ』と笑い結構長い時間コタツを占領する。
娘のカレンさんもちょいちょい来た。頑張ってノイエに話しかけたりしていたが、相変わらずウチのお嫁さんはスルーだ。無視というより本当に視界に入っていない感じである。
霊能力の無い人に幽霊が必死に話しかけるとあんな感じなんだろうな~と呟いていたら僕の首がひんやりとしたのはお約束である。塩を振れば駆除できる存在なのも知っているから好きにさせている。
ただ頑張りが暴走気味のカレンさんは毎日が胸を盛って来る。色々と中身を変えてノイエに自分の胸をアピールするが意味はない。だってそれは偽物なのだから!
コスプレ経験が豊富な悪魔が『靴下を丸めて胸に入れると良い感じで膨らむから』とレクチャーしていた。確かにドレス姿でそれを実践してきたカレンさんは、違和感なく胸が大きく見えた。
それを見ていて僕は思う。胸の無い人ってこんなにも頑張る生き物なのだと。
先生の足を愛でたくなりました。
ちなみに国王陛下は武の象徴だからコタツになど入らない。時折こちらを羨ましそうに見つめているが彼の立場がコタツを許さないらしい。彼の息子さんは……多くは語らない。再起不能ではないらしいが要観察中ではある。
あと良く来るのがユーファミラ王国の過保護であるテレサさんだ。
1日に一回はこっちに合流してお菓子と紅茶を堪能している。一応彼女の立場は僕らの護衛だから仲良くしていて問題無いんだけど……そこでぬくぬくしてないで少しは走ったら? 絶対にユニバンスに来た当初より太ったでしょう?
でも心優しいアルグスタさんはそんな事実は口にしない。しないのである。
「見てください」
「ん?」
本日もコタツでまったりしていたらテレサさんが元気よく立ち上がり進行方向を指さした。
「あの丘を過ぎれば王都が見えます」
「お~」
この国に入り9日目の昼にしてようやくそこまで来た。
ぶっちゃけ進行が遅い。遅い理由は国王陛下御一行が居るからである。
僕らだけなら昼夜休まず強行軍ができるが、国で最も偉い人が居るおかげでそんな強行軍ができない。
朝起きて、昼移動して、日が沈む前には野営の準備を始める。
そんなお行儀の良い移動のおかげで無駄に時間を食った。
「つまり丘を過ぎないと王都は見えないと?」
「はい。でも大きくて凄いんですよ?」
「……」
無邪気に喜んでいるテレサさんはきっと本当に良い子なのだろう。
悪い人に騙されないか心配になって来るほどだ。
純粋に彼女は故郷の自慢をしているのだからここで『ユニバンスの王都とどっちが大きい?』とか質問するのは野暮である。
「そっか~。なら良い角度になったら呼んでね」
「はい」
荷車の前の方に移動した彼女は『まだかな? まだかな?』と呟いている。
あれで実は僕とノイエと同年代なのだからビックリだ。
厳密に言うとノイエと同じ齢である。17歳だ。
そうか……こっちに来てもう1年以上経過していたんだな。
別方向から現実を再確認してしんみりとしてしまった。
視線を巡らせると自分の場所をテレサさんに譲った悪魔が荷車の隅で目を閉じて瞑想している。たぶん瞑想だ。時折『ぐふふ』と笑い声が聞こえるが……お前もしかして裏切って秘密の花園的な映像を見ていないだろうな? 混ぜろ。もし出演が先生とかであれば僕も覗きたいぞ?
だが悪魔は反応しない。自分のみで自分の趣味を満喫してやがる。
ついで視線を動かすとコロネが仰向けになって寝ていた。爆睡である。ニクの尻尾を枕にして良い身分である。ニクも大変な仕事を押し付けて済まない。
はい? これぐらい大丈夫とかお前って奴は本当に男らしいリスである。ああ分かっている。後でドングリを、クルミの方が良いの? 分かった。クルミを手配しておこう。
映像用の魔道具を拭き拭きしているニクとの交渉を終えた。
で、コロネだ。
義腕は再調整中なので外し今は張りぼての左腕を付けている。
こちらは本当に形だけなので稼働しない。義腕ではない。左腕の形をした彫刻だ。それを三角巾で固定しているのだが、今はそれすら外している。普通四肢を失ったりするとその違和感から体があれしたりすると聞いたことがある。でもコロネはそんな様子を見せない。左腕を無くして直ぐに義腕を装着したから体が違和感を訴えずに終わったのかもしれない。
ただ爆睡している。涎を垂らして……見なかったことにしておこう。
そして正面はノイエだ。
コタツができてから半々でこっちに居る。あと半分はゴーレムの頭の上だ。
今は僕の前でコタツに入り、天板に身を乗せ顎を付いてジッと僕を見ている。
「ノイエさんや」
「なに?」
「そんなにジッと見てて楽しい?」
僕は嫌いではない。美人のノイエを見ているのはぶっちゃけ好きだ。
その問いにノイエが小さく首を傾げた。アホ毛がフワッと動いたがいつものことだ。
「アルグ様を見るのは好き」
「うん」
「大好き」
「うん」
「愛してる」
「……」
そこまで畳みかけられるとこう全身がむず痒くなってくる。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「ベッドで頑張るアルグ様も好き」
「ん?」
お嫁さんの煽てに乗っていたら何やら不穏な気配が?
「後ろから覆いかぶさってきて、むぐ」
「落ち着こうかノイエさん?」
慌てて手を伸ばしてノイエの口を塞いだ。
何を口走っているのかと?
「落ち着いた」
コクコクとノイエが頷く。
ゆっくり手を離してみる。
「優しくするからと言って優しくない、むぐ」
「深呼吸。深呼吸してみようか?」
もう一度相手の口を塞いで落ち着くようにお願いする。これはお願いです。お願いなのです。
「今日はたくさんしたい」
「……」
両手を離したらノイエがストレートにおねだりしてきた。
この移動中、宿屋に泊まれたのは3回だけです。
後は野営で、僕らはこの荷車に屋根を掛けて寝ていた。
もちろん悪魔とコロネも居るからできない。
『どうぞどうぞ』と悪魔が撮影用の魔道具を手に促してくるし、『外にいますね』とコロネが変な気を利かせて来ることもあったが宿屋以外ではしていない。
僕にも自重という何かは残っている。
「宿を手配できたらしようね」
「……はい」
僕が逃げずに応じるのがノイエ的には驚きなのか?
君が望むのであれば、時と場合を選ぶが出来る限り僕は頑張ると言ったはずだ。
「抱えて先に行く?」
「それはダメです。ルール違反です」
「むぅ」
レギュレーションはちゃんと守ってください。良いですか?
「むぅ」
何故拗ねる? しないとは言ってません。宿に着いたら頑張ろうと言っているのです。
拗ねたノイエが視線を逸らして頬を膨らませる。
単純に構ってモードなのかもしれない。まあそれならそれで良いけどね。
「アルグスタ様っ!」
荷車の前に陣取るテレサさんが進行方向を指さしながら振り返った。
「王都が見えましたっ!」
そっか~。
言われて覗いて見たが……多くは語らない。故郷はいつまでも立派なのです。たぶん。
© 2025 甲斐八雲
見えたから予告破りではないはずw
王都であれしてこれしたらお約束通りのあれですね。
その前にユニバンスのあれも片付けないとだし、やることが多いw




