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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 29

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ひと狩り行く?

 大陸北西部・ユーファミラ王国内



「あはは……あは……はぁ~」


 移動した街の宿屋の食堂で僕は大きなため息をついていた。


 頑張った。感動した。自分の全力にだ。

 でも相手が強い。強すぎた。だってノイエだもん。あはは。


『いや~。若い夫婦なんで申し訳ないですね~』と遠くから妹様の声が聞こえてくる。砕けた口調から悪魔だろう。そんな悪魔がメイドの振りをして僕らが借りた宿屋の主と会話している。


『壊れたベッドとソファーと椅子とかまとめて請求してください。壁とか天井の染みとかも清掃が難しいようでしたら内装工事費ってことで請求していただいて構いませんので』


 勝手に強気な交渉をしているが仕方ない。少ないお客さんに移動をお願いして宿屋丸ごと貸して貰ったあげくにやりたい放題である。

 ただ僕としては言い訳したい。頑張ったんです。本当に頑張ったんです。


「ノイエさま? 階段はそっちです」

「ん」


 上から音がして軽い足取りでノイエが下りてきた。


 まだ鎧など着こんでいない。長袖のワンピース姿に頑丈なブーツを履いている。このブーツはノイエの愛用品で脛の部分には鋼が埋め込まれている。防御にも攻撃にも優れた逸品だ。本来であればゴツゴツとした足音を立てそうなブーツであるが、ノイエが履いて歩くと一切音がしない。

 ブーツの底が地面に着いていないのかと疑ってしまうほどに身軽だ。


 そしてフリフリとアホ毛を揺らしていたノイエが僕を見つけた。

 彼女の視線が僕を見るよりも先にアホ毛の先端が『アイツあっちに居ますぜ?』とばかりに向けられた。


「アルグ様」

「ん」


 軽い足取りで寄ってきたノイエが机にクタッている僕の体を起こすと、膝の上に座り首に抱き着いて来る。ゴロゴロと甘えっぷりが昨日以上である。


「凄かった」

「そうだね」


 ただノイエの凄かったは……深く考えるのは止めよう。


「またして」

「……」

「またして」

「……善処します」

「むぅ」


 違うんですノイエさん。これは違うんです。


 僕はノイエの注文通りに躾をしようとして軽くね、本当に軽く悪戯しただけなんです。それなのに変なスイッチが入って暴走したのはノイエの方ですからね?


「違う。アルグ様が悪い」


 え~。


 僕は無実だと言いたい。こんな時は第三者に判定して貰うのが一番である。


 そんな訳でコロネくん? 真っ赤にした顔を両手で隠していないでこっちを見なさい。

 貴女はどちらが悪いと思いますか? はい? 僕? どうしてかな? うむうむ。否、待ちたまえコロネくん。君の意見には一転重要な個所が抜け落ちている。

 ノイエが僕に精力増強の何かをした部分がズコッと抜け落ちているよね? その部分を加味したらノイエだと思うんですけど?


 お~い。コロネ。逃げるな~。


『もうむりです~』と涙ながらにコロネが逃げて行った。


 遠くに行くなよ?


「あ~。疲れた疲れた」


 入れ替わりで悪魔が戻って来る。と、悪魔は背中に装備していたニクを離すと我が家のペットは逃げて行くコロネの後を追った。

 アイツの尾行テクは一流だからコロネに何かあってもどうにかするだろう。


「兄さま~」

「……」


 ニマニマと笑う悪魔が寄って来る。来るなこの悪魔!


「もうハッスルしすぎよ」

「させられたんです」

「むぅ」


 何故かノイエが拗ねる。

 だが言いたい。僕は無実だ。


「へ~」


 しかし悪魔の嫌な感じの笑みが止まらない。


「まあ確かに姉さまが精力増強させたけどね~」


 ですよね?


「でもわたしとコロネを呼んで2人の仲の良さを見せつけたのは、性欲云々関係なくない?」

「……」

「姉さまは目隠し+拘束状態だったわけだし~」

「……」

「はい兄さま。反論をどうぞ?」

「大変申し訳ありませんでした」


 男って奴は精力が増すと調子に乗る生き物なのです。

 ですから僕はもう少し慎ましく生きて行こうかと思います。


「ダメ」


 ノイエが両手で僕の頬を挟んできた。


「あれぐらい頑張って」


 あれを毎日ですか?


「毎日は無理です」


 腰と言うか僕の中の何かが壊れそうです。


「大丈夫」


 何が?


 まっすぐノイエが僕の目を見つめて来る。


「アルグ様ならできる」


 いや死ぬって。


「死なない」


 ですが?


「お姉ちゃんたちも喜ぶ」


 そうでしょうか?


「はい」


 ノイエの価値観で判断してない?


「なら今度確認する」


 そうだね。確認は大切だね。


 僕の頬を両手で挟んだままのノイエは、そのままキスをしてくる。


 朝からガッツリ濃厚なキスだ。


「アルグ様」

「はい?」

「お腹空いた」

「……」


 どっちとは聞きたくない。あれほど頑張ったんだから普通の空腹であって欲しい。


「お肉が食べたい」

「普通の方か」


 お~い。悪魔? 朝食は? 話はついている? 今から運んでくる?


 お前って奴はたまに有能なメイドになるから助かるよ。


 はい? 感謝の気持ちはポーラに?


 はいはい。後で抱っこして頭なでなでしてあげます。お腹も撫でてと言われていた気がするがどうする? ノイエの後で良いなら撫でるが?


 何故か悪魔が両手にゴボウを装備して姿を現した。


 ノイエと比べられたくないのであれば、そもそもくびれアピールをするなと言いたい。




 朝食を終えて宿屋の食堂でのんびりしていると、何故か外が慌ただしい感じに見える。何が起きた?


「姉さま~」


 外の様子を確認しに行ったポーラが戻ってきた。


「昨日ゴリッたドラゴンってどうしたか覚えてる?」


 ゴリッた? ああ。そう言えば昨日ノイエがドラゴンの首をゴリッとしてたね。

 で、僕にユニバンスに居る二足系との違いを熱く語って……そのあとあの死体ってどうしたっけ?


「ぽいっ」

「やっぱりか~」


 近くの街に移動して宿を取る話になって移動したんだよね。


 塩の護衛にたくさんの兵士を割いたとかで、フランクさんたちが『このまま王都に向かうのは不安があります』と下半身をガクガク震わせながら王妃様に進言して、だったら近い街で宿を取りつつ後続の兵に護衛して貰いながら王都に向かおうってそんな感じで話がまとまった。


 で、僕らはこの宿を丸ごと借りた。もちろん金に物を言わせた。

 国王様御一行も宿屋を借りた。丸ごと。兵士たちも込みでだ。


 これが貧富の差かっ!


「で、ノイエがポイしたドラゴンがどうしたの?」

「ん。習性よ習性」


 しゅうせい?


「モザイクか何か?」

「そうそう。黒ベタ修正ってわたし的には最もしちゃいけない悪だと思うのよね。でも仕方がないの! わたしのセーフと世間のセーフが違う時があるの! 泣く泣くマジックで修正を入れている時、作者は絶望のどん底に居るのよ! 分かる! 分かれ!」

「何の話よ?」

「……こほんっ」


 脱線し熱弁していた悪魔が軽く咳払いした。本当に何の話ですか?


「で、姉さまが野ざらしにしたドラゴンを餌だと思って他のドラゴンが集まって来たみたい」

「へ~」


 ユニバンス名物の『集まれ! ドラゴンのあれ!』ですね?


 ユニバンス王国は、王都に存在する処理場にドラゴンが集まりやすい環境が出来あがっている。おかげで王都近郊で発生したドラゴンは周りの村などをスルーして王都に向かう。

 ドラゴンの死臭が最も濃い場所だからだ。


「別にテレサさんが居るから集まって来ても問題ないでしょう?」

「問題ありみたい」

「はい?」


 あの人の攻撃力は結構上位だよ? 多少の集団なんて迎え撃てるでしょう?


「機動力の問題」

「あ~。納得」


 ついつい忘れがちだがドラゴンの走力は馬よりも優れている。下手をすれば飛んでくるしね。


「ノイエの弊害かな?」

「ユニバンスの環境が狂ってるとも言えるけどね」


 確かに。


 まずノイエと言う絶対的な守護神が居るし、次いでルッテと言う遠距離武器もある。それらを抜けても時間稼ぎをしている隙に移動したモミジさんが居る。その3枚の盾を抜いたとしても最後に僕が居るので……ユニバンスはドラゴンの大群が押し寄せても意味がない。むしろ御馳走である。


「で、姉さま?」

「ん」


 僕に抱き着いて甘えているノイエが曖昧な返事をする。

 あれ? そう言えばドラゴンが迫っているのにノイエがウキウキしていない?


「ひと狩り行く?」

「……行かない」

「「はい?」」


 ノイエの返事に僕と悪魔が驚く。心底驚く。


「3匹ぐらいならお腹も膨れない」

「「……」」


 どうやらノイエさんはちょっとグルメになってしまったようだ。


「兄さまが頑張り過ぎて満足しているだけじゃないの?」


 悪魔くん。そのツッコミは聞かなかったことにしよう。




© 2025 甲斐八雲

 ノイエだって満たされて微睡んでいたい時もあるんですw

 3匹ぐらいなら……主人公がその気になれば瞬殺ですけどね

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― 新着の感想 ―
更新乙 まさか次回はアルグスタの力で「ドラゴンキラーごぼう」二刀流で暴れる ポーラが!?!? てか腐魔女よ、ごぼうのストック何本あんのよ?www アルグスタはやれば出きる子!! 精力増強なんて些…
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