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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 29

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目隠しされているだけ

「ねぇこぉ~……あのぉ~ねぇこぉめぇ~……」

「……」


 遠くから聞こえてきた声にリグは起きようとしてバランスを崩して横向きに倒れる。


 自分の胸が重かった。そして邪魔だった。


 腹筋のトレーニングでもする感覚で起きようとすると大体失敗する。無駄に重いから仕方ない。だから一度体を横にして起きるのが確実だ。それだと胸が邪魔をしない。


 腕を伸ばして上半身を反る。

 ボキボキと骨が鳴った感じがしたが仕方ない。枕が悪い。今は枕がなくて自分の腕を枕にしている。これが良くない。腕は痺れるし何より快眠できない。枕は良い感じで柔らかくて人肌の温度が重要である。


 ガシッと魔眼の中枢の入り口をボロボロの手が掴んだ。

 蘇生中の手だ。回復中が言葉としては正しいが。


 そしてゆっくりと相手が……思いの外身長が縮んでいた。違う。膝から下が無いのだ。それこそ回復中だ。それでも這って歩いて来たのなら相手の執念はただ物ではない。


「ねこは、どぉこぉよぉ~!」


 怒鳴りながら転がり込んできたのは回復中のホリーだ。

 分かりやすい。あれほど奇麗で長い青髪を持っているのは彼女しかいない。


 故に唯一室内に居た存在……リグは、欠伸を噛み殺しながら両足を伸ばす感じで広げて壁に背を預けた。


「居ないよ」

「どこにいったぁ~!」

「知らない。猫だもん」


 仕方ない。だって相手は猫なのだ。気まぐれで自分勝手な存在が行先を伝えてから出かけることの方が少ない。ただいつぞやの記憶だと確か猫が右目に行く石の上で丸くなっていた気がする。

 いつの記憶か定かではない。もしかしたらもう戻ってきている可能性もある。


「あのねぇこ~!」


 おどろおどろしい声を発しているがどうやら相手の首がまだ完治していないのだろう。だから喋りが舌っ足らずになって怖い感じになっている。何より両足は膝から下が無い。首の角度も怪しいから延髄辺りが折れているのかもしれない。両腕は動いているが今にも砕けそうだ。


 それでもホリーは張ってここに戻って来たらしい。ファシーに対する憎悪がなせる業か?


「ファシーが何かしたの?」


 無駄な質問だ。何故なら相手があんな姿なのは聞くまでもない。その原因があの猫なのだろう。


「人がぁ~動けないのをぉ~良いことにぃ~」


 顔は比較的回復している。厳しい感じに見える美人顔は健在だ。笑っていれば怖さも減るのだが、笑い方によっては怖さが増すという本当に不思議な美人である。


「アルグちゃんのぉ~見本にして作った~あれを~わたしにぃ~!」

「……」


 あれと言うものにリグは思い至った。

 多分あれだ。エウリンカが作った魔剣だ。製作者すら虜にした恐ろしい魔剣だという。


「来るぅ~たびに~前にぃ~後ろにぃ~」

「うわ~」


 前は分かる。前は分かるがあれを後ろには凄い。そう言えば戻ってきたエウリンカも『後ろはダメだ』とずっと呟きながらフラフラとここを出て行った。つまりそれはそういう意味だったのだろうか?


「生殺しなのよぉ~!」

「……」


 床を這う姿勢でホリーは両腕で激しく叩いた。

 片腕が肩から外れたが彼女は気にしない。痛いはずなのにだ。


「押し込むならぁ~! 一気に両方にしなさいよぉ~!」

「あ~うん。今度会ったら言っておく」


 問題は魔剣はあの一本のはずだ。はずだ。はずだよね?

 エウリンカ……もしかして隠し持ってたりしないよね?


 何故か漠然とリグは恐怖を覚えた。大丈夫。エウリンカはそこまで狂ってはいないはずだ。


 ただその昔に魔力回復の魔剣を複数個作っていた。そんな感じで複数作成している可能性は無いか? それともホリーのように両方に使えるように……リグはそっと目を閉じて自分の思考を止めた。


 考えたらダメだと気付いたからだ。


「絶対にぃ~あの猫はぁ~許さないぃ~」

「うん。そうだね」


 返事をして直ぐにドサッという物音が聞こえ瞼を開けてリグは確認する。


 どうやらもう片方の腕も外れてしまったらしい。前のめりで倒れ込んだホリーが床の腕でジタバタと暴れている。どうにかうつ伏せから仰向けの状態へ……それを見つめリグは気づいた。丁度良い大きさだと。


 ゆっくりと立ち上がり猫に対して恨みの言葉を繰りにしているホリーの傍に転がっている両腕を拾う。


「悪いわね。その腕を……リグぅ~?」


 リグは黙って両腕を抱えて部屋を出る。ついでに途中で落ちていたホリーの足らしき部品も拾い、全部集めて叩き潰す。

 全力で、久しぶりに運動をしたと認めるほどに粉々でバラバラにした。


「リグぅ~? ……っ!」


 戻ってきた相手をどうにか覗いたホリーは知った。

 なぜ自分の腕を抱えて出て行ったリグが血まみれで帰って来たのか?


「わたしのぉ~腕をぉ~どうしたのぉ~?」

「知らない」


 本当に知りませんと言いたげにリグは自身を濡らしている血肉を拭った。

 丁度仕事をしていないホリーのスカートが良い感じでタオル代わりになってくれた。


「ホリー?」

「……なにぃ?」


 何故か笑っているリグが怖い。

 この医者は普段医者のはずなのにたまに医者でなくなる時があるのは有名だ。


「最近枕不足で困ってたんだ」

「……」


 そう言われると中枢に居るはずの歌姫が居ない。身重の歌姫はどこに消えた?

 何よりこの場にリグしかいないのもおかしい。誰がこの中枢の番人をしているのだ?


「その太ももを貸して」

「……」


 お願いのはずだが、実質命令だった。何故ならリグはこちらの返事を聞かずにホリーを掴むと壁際へと移動していく。何度か壁に預けるように置いては角度を確認して……ベストな場所を見つけたのか、そのまま太ももに頭を預けてきた。


 一瞬ホリーは自分の髪に魔力を流し相手を殺そうとした。ただ相手は本当に枕を望んでいるのか、何度か頭の位置を確認すると瞼を閉じる。ガッツリ眠る気満々だ。自分が殺されるとは考えていない。


 ホリーは大きくため息を吐いた。


 リグは家族では無い。無いがそこまで嫌悪感は湧かない。まあ家族では無いが『仲間』ではある。何より今は色々と知ることが必要だ。

 視線を動かすがどうやらノイエは瞼を閉じているのか何も見えない。外の様子は確認できない。


「リグぅ?」

「ん?」


 まだ寝ていない感じの返事が届いた。


「最近のぉ~状況をぉ~聞かせなさいぃ~」

「面倒くさい」

「その首をぉ~スパッとぉ~斬るわよぉ~?」

「……」

「胸もぉ~」

「軽くなって良いかも」


 でも痛いのは嫌なのでリグは薄目を開いた。


「どこまで知ってる?」


 聞けばホリーは猫に殺されてから、ことあるごとに殺され続けていたらしい。

 最近ようやく回復してきたと思ったら魔剣を手にやって来て腕と足を潰された。そしてブスリだ。


「うわ~」


 予備動作無しで一気にあれを押し込んできたらしい。

 あの猫は可愛い顔して本当に残忍である。


「それでぇ~。アルグちゃんとぉ~ノイエはぁ~」

「……」


 2人の状況をリグは簡単に説明する。


 現在あの2人は大陸北西部の辺境国と呼ばれているユーファミラ王国に来ている。お供は刻印の魔女とコロネと言うメイドだ。どうもそのメイドは刻印の魔女の身代わりとして連れてきたっぽい感じだ。


 後は呪いと呼ばれる状況を長々と説明させられた。歌姫の件と養女の件はリグが気を利かせて口にしなかった。厳密に言うとまた長々と説明させられるのが嫌で逃れた感じだ。


「そんなぁ~感じなのねぇ~」


 話を聞いたホリーはある程度理解した。何よりノイエの秘密に関しては興味深い。色々と考えることがあってしばらく思考に困らない。まあ考えている間ぐらいこの医者の枕になっているのも悪くない。


「それでぇ~ノイエはぁ~寝てるのかしらぁ~」


 ずっと瞼を閉じたままだ。

 大好きなアルグスタの姿を見られずホリーとしてはちょっとつまらない。


「違う」

「違うぅ?」


 だがリグは否定した。

 ノイエは確かに瞼を閉じているそれには理由があるのだ。


「目隠しされているだけ」

「……詳しくぅ~?」


 わらわらと蠢くホリーの髪の気配にリグの口は大変軽くなった。痛いのは嫌だ。


「旦那さんがこれからノイエを躾けるんだって。それで目隠しをして色々と準備をしてるはず」


 放置しているわけではない。ただノイエに目隠しをして両手を縛っていた。


 だがそれを聞いたホリーは激怒した。とても激しく激怒した。

 どうして自分がその場に居ないのかと……嘆き悲しみながら激怒した。




© 2025 甲斐八雲

 ファシーに殺され続けていたホリーが中枢に戻ってきました。

 ただ四肢欠損状態です。外には出れません。作者の都合ではありません。決して違います。

 そして忘れてはいけません。相手はホリーです。不可能をどうにかする天才ですw


 そして主人公は頑張ってノイエを躾けようとしています。

 内容は…多分割愛でw

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― 新着の感想 ―
更新乙 ノクターンならワンチャン!! 魔眼は今日も平和だな~ アル愚スタの利かん坊は複数作成されていた!? そのうち姉達に一人二つ渡される??? ホリーとエウリンカなら三本欲しがりそうだが
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