王女様があのように育ったのは?
大陸北西部・ユーファミラ王国内
ドレス姿の王女様が腕を組み僕を見下ろしている。
大変偉そうである。もう『自分は王女なんですからねっ!』ってオーラが全身から溢れ出ていて実に素晴らしい。問題は王女か。ここは普通悪役令嬢の出番では無いか? 悪役王女は権力差から面白みに欠けるぞ?
まあ僕も他国の王族だから地位で言えば互角である。
貴賓と言う部分を加味したらこっちが若干有利かな?
「うりうりしないでわたしの話をちゃんと聞いてくださいますか!」
「手を止めるとノイエが拗ねるので」
相手の声に促され、一度手を止める。するとノイエのアホ毛が動き出して僕の手を掴んで続きを促してくる。双剣にしてからノイエのアホ毛が大変元気になった気がします。
エウリンカめ……絶対に余計になことをしたな? 何をしたのかは知っているけどね。あはは。
「……でしたら仕方ありませんね」
何故か相手が納得してくれた。
はいはい。ノイエさん。今日も可愛いですね~。
うりうりを再開してノイエを可愛がっていたら……何故か王女様がイラっとした感じでこっちを見ている。
ああ。ノイエのうりうりをしても良いけど無視するのは無しなのね。
「で、何でしょう?」
「……」
質問したら相手が何故か言葉に詰まったように口をパクパクしている。
話すことをちゃんと決めておきなさい。
「まずはお礼よ」
「はい?」
『そうそう。それが先よね』といった雰囲気丸出しで王女様が改めてふんぞり返って偉そうにする。
「貴方たちが持って来た薬のおかげで重篤だった部下たちが助かったわ」
「そりゃどうも」
態度はあれだがちゃんとお礼を言えることは大切である。
「ただあの量だと国民全てを救うことはできないわ」
「なら金を出せ」
「……」
おひおひ王女様? 話の腰を折られたぐらいで困るな。周りを見渡すな。
あっちのフランクさんは何故か見えもしない一番星を探して空を見上げているぞ?
「わたしの国は現在その……あれよ。納税前であれなのよ」
「なら納税後に話を持って来い。そうしたら商談の窓口を開いてやる」
「それはその……」
完全に答えに窮している。
頑張れ悪役王女! そこはこういい感じで足掻け! 足掻くんだっ!
「むっ無理よっ!」
「真面目かっ!」
悪役の仮面を外して真っすぐ訴えてきた。
「お金が無いのっ! 本当に貧乏な国なのっ! 売れる物と言ったら領地の無い名ばかりの爵位ぐらいで、」
「おほほ。失礼っ!」
王女が吹っ飛び横へと流れた。
原因は母親である王妃様の大変奇麗なドロップキックだ。着地も完璧で……吹き飛んだ王女様は事前に構えていたフランクさんが受け止めている。
フランクさんのフットワークの軽さと言うか、あの魔道具はこんな時のために存在しているのか?
大変だな……ユーファミラ王国の近衛団長って。
「おほほ。失礼しました」
何も無かったように王妃様が非礼を詫びて来る。
そんな彼女もビキニ―アーマーからドレスに着替えている。たぶん寒くなって来たから着替えたのだろう。
色々忘れているけどここは大陸の北側である。暖かな南側より寒い北側で知られている。ならば仕方ない。
「改めてアルグスタ様」
「はい」
「貴方がもたらした薬のおかげで明日とも知れなかった部下たちが皆助かりました。感謝を」
スカートを摘まんで王妃様が頭を下げる。
その様子は本物の王妃様である。僕が知る王妃は……あれ? 何でだろう? 目の端に涙が集まってしまうのは? ウチの王妃って問題児しかなれないのかな?
これが僕の知る正しい王妃の姿である。さっきのドロップキックは忘れよう。忘れれば僕の前に居る人は素晴らしい王妃様だ。
「助かったのであれば良いです」
あ~そこのゴーレムくん。カゴをこっちへ。
はい? コロネが漏らしそう? もし漏らしたらそのまま焚火に放り込んで軽く焼いてしまえ。
「ですが先ほど王女様が」
「おほほ」
笑って移動して王妃様がぐったりしている王女様の鳩尾に手刀を突き入れた。
とどめを刺さないであげて。もう許してあげて。その王女のHPはレッドゾーンよ?
生きていることを確認して……泡を吹いているその人物は貴女の娘では?
「恥ずかしながら我が国は大変貧しくて」
「その辺の話はフランクさんから聞いてます」
「おほほ」
笑った王妃様が一瞬で移動する。
王女様を抱えていたフランクさんの反応が遅れた。迷わず顔面を蹴りに来た王妃様の右足を屈んで回避すると、その蹴りが踵落としに変化する。しかしフランクさんは王女様を盾にして王妃様の踵落としを防いだ。
で、王女様の鳩尾に踵が突き刺さったように見えたんですが大丈夫ですか?
フランクさんは王女様を放り出して逃げ出した。正しい判断である。
「失礼しました」
若干赤い色に変化した泡を吹いている王女様をフランクさんの部下に預けて王妃様が戻って来る。
「フランクが説明しているのでしたらわたしから話す必要もありませんね」
まあ知っていますので。
「アルグスタ様」
「はい」
グイっと詰め寄って来た王妃様が僕に顔を寄せてきた。
「分割払いで100年くらいでどうかクスリの方を融通していただけませんでしょうか?」
「あはは」
マジだ。この人マジで100年分割を考えている。
「薬の効果を知って虜になりました?」
「ええ。これを知って買わない者は愚か者でしょう」
「でしょうね」
おかげで僕の知らないところで荒稼ぎしている馬鹿も居ますしね。ただ売り先が共和国だから僕も流通を絞ったりはしていない。
共和国からは絞れるだけ絞れば良いと思っていますので。
「もしそれで無理でしたらアルグスタ様に我が国の爵位を」
「爵位?」
「ええ」
ユーファミラ王国もウチと同じで『上・中・下』で貴族を分けているらしい。
「ですがアルグスタ様にはもれなくウチの馬鹿娘を贈呈するということで」
「お断りします」
ぶっちゃけそれは罰ゲームです。
「……ダメですか」
「ええ」
何より国王陛下が居ないのに勝手にその辺の話を進めて宜しいのでしょうか?
「構いません。ユーファミラ王国は軍事は男性、政治は女性が普通なので」
「ほほう」
それは面白い話である。ちょっとその辺の話を聞かせていただけますか?
あっゴーレムくん。ウチの秘書をこっちに。そっちの漏らす寸前で太ももをグネグネしているコロネじゃなくて、開き直って肌を焼いている馬鹿の方を。焼く意味が違うだろう?
そう。そっちの馬鹿を。
「ユーファミラ王国はそもそも人口も少ないのでどうしても人材不足になりがちです。よって戦いは男たちに任せ、政治は女たちが引き受ける流れが自然とできました」
ふむふむ。
「それもあり、王家は代々伴侶をどちらか優れた者から選ぶこととなっております。前王の一人娘であったわたしは戦場で優れた武功を上げておりました彼を伴侶としました」
「つまり血筋的には王妃様が上と言うことですか?」
「血筋で言えばですが……ですがこの国では血筋はそれほど重視しておりませんので」
悪魔が王妃に椅子を準備しながら紅茶の手配までする。
立派なメイドっぷりを眺めていたら、悪魔がジトッとした感じで僕のことを睨んでいる。あの目は悪魔ではない。たぶんポーラだ。そして本日の扱いについて文句を言いたげな感じにしか見えない。
あはは。妹くんよ? 後で抱っこして頭を撫でてあげよう。何なら顎下をうりうりまでしてあげるぞ?
アイコンタクトでそう訴えかけたら相手から『それにお腹を撫でて欲しいです』と返ってきた。
あはは。まあそれぐらいなら構わんが大丈夫か? お前のお腹は兄が触っても恥ずかしくないほどの物であろうな?
君の兄はくびれに関しては大変うるさいのである。何故ならくびれ世界一のノイエが居ますので。
「故にあの人は戦場と子作りを頑張り、政治と子育てはわたしに一任しております」
「つまり王女様があのように育ったのは?」
「おほほ」
笑っているがその目が笑っていない。どうやら王妃様にその手のツッコミは禁止らしい。
© 2025 甲斐八雲
ラインリア アルグスタが失礼なことを言っている気がします。
キャミリー です~
セシリーン (…速く帰ってきてください。旦那さま)
セシリーンの心の声の理由はそのうち書くとしましょうかw




